毛玉にとられる
『廻天』
第十九話 知らない請求
深夜。
二時十四分。
カイ。
自宅。
ベッド。
熟睡。
「……。」
その内側。
シュウ。
起きていた。
『……。』
暇。
非常に。
暇。
カイが寝る。
↓
身体も寝る。
↓
シュウも基本。
何もしない。
しかし。
今日。
違った。
昼間。
カイが言った。
『全部やる必要ない。』
必要なことだけ。
必要な時に。
シュウ。
考えた。
『……。』
必要なこと。
ある。
ずっと。
我慢。
していた。
⸻
午前二時二十一分。
カイ。
目。
開く。
正確には。
シュウ。
起床。
身体。
起こす。
「……。」
両手。
見る。
動かす。
問題なし。
立つ。
スマホ。
見る。
顔認証。
ピッ。
シュウ。
「便利だな。」
⸻
検索。
【毛糸】
検索。
【毛糸 高級】
検索。
【編み針 セット】
検索。
【輪針 おすすめ】
検索。
【かぎ針 最高級】
検索。
【毛糸 カシミヤ】
検索。
【メリノウール】
検索。
【アルパカ】
検索。
【シルク 毛糸】
シュウ。
「……。」
目。
輝く。
⸻
旧世。
食料。
ない。
水。
ない。
敵。
いる。
明日。
生きているか。
分からない。
そんな世界。
シュウにとって。
糸。
布。
衣類。
編む。
直す。
繋ぐ。
それは。
趣味であり。
生活であり。
生存技術だった。
だから。
現代。
高品質。
均一。
色。
大量。
種類。
選び放題。
シュウ。
震える。
「……。」
「天国か。」
⸻
午前三時十二分。
購入。
購入。
購入。
購入。
購入。
おすすめ。
関連商品。
「これも必要か。」
購入。
「収納もいるな。」
購入。
「糸切り。」
購入。
「これは……。」
限定カラー。
購入。
「カイなら黒を選ぶか。」
黒。
購入。
白。
購入。
銀。
購入。
「比較が必要だ。」
全色。
購入。
⸻
クレジットカード。
【ご利用可能額が少なくなっています】
シュウ。
「……?」
読む。
「可能額。」
少し。
考える。
「まだ使えるという意味か。」
購入。
⸻
午前四時四十八分。
【決済できませんでした】
シュウ。
「……。」
もう一度。
【決済できませんでした】
「壊れたか。」
⸻
朝。
七時十五分。
カイ。
目。
覚ます。
「……。」
頭。
重い。
「なんか。」
「寝た気しない。」
シュウ。
『そうか。』
(うん。)
『疲れてるんじゃないか。』
(かな。)
シュウ。
『仕事頑張れ。』
(珍しいね。)
『……。』
⸻
数日後。
宅配。
届く。
カイ。
「何これ。」
箱。
大。
三つ。
宛名。
カイ。
「……。」
シュウ。
沈黙。
カイ。
「頼んだ?」
『知らん。』
「俺も。」
箱。
開ける。
毛糸。
大量。
「……。」
シュウ。
『……。』
カイ。
「何これ。」
『毛糸だな。』
「見れば分かる。」
伝票。
見る。
金額。
カイ。
「……。」
シュウ。
『どうした。』
カイ。
「高くない?」
『そうか?』
カイ。
「……。」
スマホ。
カードアプリ。
開く。
⸻
沈黙。
⸻
カイ。
「……。」
もう一度。
見る。
スクロール。
スクロール。
スクロール。
毛糸。
毛糸。
針。
毛糸。
収納。
毛糸。
毛糸。
本。
毛糸。
ケース。
毛糸。
合計。
カイ。
「…………。」
シュウ。
『カイ。』
「何。」
『落ち着け。』
「お前だろ。」
『……。』
「お前だろ。」
『証拠は。』
「俺の中に犯人いるんだよ。」
⸻
カイ。
カード。
利用可能額。
見る。
ほぼゼロ。
「……。」
先月。
予約。
爆発。
指名。
爆発。
売上。
過去最高。
歩合。
増えた。
カイ。
ちょっと。
嬉しかった。
その。
儲かった分。
ほぼ。
消滅。
カイ。
「シュウ。」
『何だ。』
「チェンジ。」
『嫌だ。』
「チェンジ。」
『今日は調子が悪い。』
「俺の身体だよ。」
⸻
その夜。
シュウ。
チェンジ。
正座。
カイ。
内側。
『何買った。』
シュウ。
「必要な物。」
『毛糸何玉。』
「数えてない。」
『何作るの。』
「色々。」
『何。』
シュウ。
沈黙。
『何。』
「……。」
「まだ言えない。」
カイ。
『なんで。』
「完成してない。」
『何作ってんの!?』
シュウ。
立つ。
毛糸。
持つ。
「見るな。」
『俺の目だよ!!』
⸻
数日。
経過。
謎。
発生。
カイが寝る。
翌朝。
少し。
疲れている。
毛糸。
減る。
しかし。
完成品がない。
カイ。
「どこやった。」
シュウ。
『知らん。』
「絶対作ってるよね。」
『知らん。』
「毛糸減ってる。」
『自然現象では。』
「なるか。」
⸻
そして。
店。
午後一時。
スタッフ。
「カイさん。」
「何。」
「美奈子さん来た。」
カイ。
止まる。
「今日予約あった?」
「ない。」
「じゃあ何。」
入口。
チリン。
美奈子。
登場。
「こんにちは。」
カイ。
「こんにちは。」
美奈子。
カイを見る。
数秒。
「……。」
カイ。
「何。」
「顔死んでない?」
「カード。」
「カード?」
「爆発した。」
美奈子。
「何したの。」
「毛糸。」
「……。」
「毛糸?」
⸻
五分後。
待合。
美奈子。
爆笑。
「ちょっと待って。」
「笑わないで。」
「無理。」
「結構深刻。」
「いくら買ったの。」
「言いたくない。」
「カシミヤ?」
カイ。
「ある。」
「メリノ?」
「ある。」
「アルパカ?」
「ある。」
「シルク?」
「ある。」
美奈子。
「手芸店でも始めるの?」
「始めない。」
⸻
その時。
奥。
声。
「カイ。」
カイ。
固まる。
美奈子。
「怒られてる?」
「たぶん。」
店長。
出てくる。
三十代後半。
女性。
髪。
まとめている。
制服。
完璧。
表情。
普通。
なのに。
スタッフ全員。
ちょっと。
姿勢。
正す。
店長――真紀。
カイがこの店へ入った時から。
ずっと。
店長。
⸻
真紀。
「ちょっといい?」
「はい。」
事務所。
指す。
「後で。」
「何かしました?」
「した。」
カイ。
考える。
「何。」
「売上。」
「……。」
「過去最高。」
カイ。
「いいことじゃん。」
「いいこと。」
「じゃあ何。」
真紀。
ため息。
「お前の予約だけ取れなさすぎ。」
⸻
美奈子。
待合から。
普通に聞いている。
真紀。
予約表。
持ってくる。
カイ。
三週間。
ほぼ。
埋まっている。
しかし。
問題。
そこではない。
他スタッフ。
予約。
増えている。
カイ。
「いいじゃん。」
真紀。
「そう。」
「めちゃくちゃいい。」
新規。
カイ指名。
取れない。
↓
別スタッフ。
案内。
↓
施術。
↓
次回予約。
結果。
店。
全体。
売上。
上昇。
真紀。
「お前が忙しいだけなら。」
「止めてた。」
カイ。
「何を。」
「新規。」
「でも。」
予約表。
指す。
「店全体が伸びてる。」
カイ。
「……。」
⸻
真紀。
カイ。
見る。
「何した?」
カイ。
「エステ。」
「知ってる。」
「上手くなった。」
「それも知ってる。」
真紀。
腕。
組む。
「急すぎる。」
カイ。
「……。」
美奈子。
横から。
「前から普通じゃなかったですけどね。」
レン。
いない。
のに。
いたら。
絶対。
反応する台詞。
カイ。
美奈子を見る。
「何が。」
「腕。」
美奈子。
当然。
という顔。
「エステの。」
カイ。
「だよね。」
⸻
真紀。
「美奈子さん。」
「はい。」
「前から?」
「前から上手かったですよ。」
美奈子。
カイを見る。
「でも最近。」
少し。
考える。
「迷ってる。」
カイ。
止まる。
「……。」
真紀。
「分かるんですか。」
「長いので。」
美奈子。
肩。
触る。
「前は。」
「ここ。」
「って決めたら。」
「迷わなかった。」
「最近。」
「途中で一瞬止まる。」
カイ。
「……。」
真紀。
カイを見る。
美奈子。
続ける。
「下手になったわけじゃない。」
「満足度も。」
「別に変わらない。」
カイ。
「やっぱり。」
「でも。」
美奈子。
笑う。
「何か新しいこと覚えて。」
「使いたくてしょうがない人みたい。」
カイ。
「……。」
完全。
正解。
⸻
シュウ。
内側。
『こいつ本当に一般人か。』
(一般人。)
『怖いぞ。』
(俺もたまに思う。)
⸻
真紀。
椅子。
座る。
「カイ。」
「はい。」
「技術って。」
「増えれば増えるほど。」
「使わない技術を選ぶ方が。」
「難しくなるよ。」
カイ。
見る。
真紀。
「新人の頃。」
「覚えた手技。」
「全部やろうとしたでしょ。」
カイ。
「あー。」
覚えている。
時間。
足りない。
順番。
ぐちゃぐちゃ。
怒られた。
真紀。
「今またそれやってる。」
カイ。
「……。」
「何覚えたか知らないけど。」
「全部やるな。」
「お客さんに必要なものだけ。」
「選べ。」
カイ。
「レンと同じこと言う。」
真紀。
「誰。」
「知らない人。」
⸻
美奈子。
笑う。
「店長さん。」
「はい。」
「この人、昔からそうですよ。」
「何が。」
「できるようになると。」
「全部やりたくなる。」
カイ。
「そう?」
「そう。」
「でも。」
美奈子。
カイを見る。
「飽きると必要なやつだけ残る。」
カイ。
「……。」
真紀。
「じゃあ。」
「早く飽きろ。」
「ひど。」
⸻
真紀。
立つ。
「あと。」
カイ。
「はい。」
「最近。」
「寝不足?」
カイ。
「……。」
シュウ。
『違うと言え。』
カイ。
「ちょっと。」
真紀。
「指名増えたからって。」
「睡眠削るな。」
「手。」
指す。
「商売道具でしょ。」
カイ。
自分の手。
見る。
シュウ。
沈黙。
真紀。
「お前が倒れたら。」
「予約だけじゃない。」
スタッフ。
見る。
忙しい。
電話。
鳴る。
受付。
走る。
「今。」
「お前きっかけで。」
「店全体が回ってる。」
カイ。
「……。」
「だから。」
真紀。
「ちゃんと寝ろ。」
カイ。
「はい。」
シュウ。
『……。』
⸻
夜。
帰宅。
カイ。
風呂。
ベッド。
横になる。
電気。
消す。
(シュウ。)
『何だ。』
(今日はやめてね。)
『何を。』
(編み物。)
沈黙。
『……分かった。』
(本当に?)
『寝ろ。』
カイ。
目。
閉じる。
十分。
二十分。
寝息。
静か。
シュウ。
待つ。
三十分。
『……。』
チェンジ。
目。
開く。
「……。」
時計。
見る。
午前零時四十二分。
シュウ。
起きる。
押し入れ。
開ける。
奥。
箱。
出す。
カイには。
見せていない。
完成品。
一つ。
二つ。
三つ。
マフラー。
手袋。
帽子。
セーター。
小物。
そして。
中央。
黒。
白。
銀。
三色。
まだ。
途中。
大きな。
編み地。
シュウ。
座る。
それを見る。
長い。
沈黙。
「あと少し。」
針。
持つ。
その時。
店長。
言葉。
思い出す。
『手。商売道具でしょ。』
シュウ。
自分の。
いや。
カイの手。
見る。
「……。」
針。
置く。
数秒。
「一時間だけ。」
再び。
持つ。
⸻
翌朝。
カイ。
起床。
「……。」
身体。
確認。
「今日は。」
少し。
楽。
シュウ。
『よく寝たからな。』
カイ。
「そっか。」
起きる。
財布。
見る。
カード。
思い出す。
「……。」
「今月節約しよ。」
シュウ。
『そうだな。』
「毛糸買わない。」
『……。』
「シュウ。」
『努力する。』
「買わない。」
『善処する。』
「買わない。」
シュウ。
『……はい。』
⸻
同時刻。
宅配センター。
巨大。
段ボール。
一箱。
伝票。
【毛糸・追加分】
配送中。
⸻
店。
美奈子。
施術ベッド。
横になる。
カイ。
「今日はどこ。」
「いつも通り。」
「了解。」
触れる。
七つ。
ある。
でも。
使うのは。
必要なものだけ。
美奈子。
目。
閉じる。
数分。
「……。」
カイ。
「何。」
美奈子。
少し。
笑う。
「戻った。」
「何が。」
「いつものカイ君。」
カイ。
「満足度は?」
「いつも通り。」
カイ。
笑う。
「それでいいや。」
真紀。
廊下。
通りながら。
聞く。
何も。
言わない。
ただ。
少し。
笑う。
異能。
知らない。
旧世。
知らない。
廻天。
知らない。
シュウ。
知らない。
それでも。
この場所には。
カイを。
ちゃんと見ている人間がいる。
本部とは。
違う。
戦場とも。
違う。
カイが帰ってくる場所。
そして。
その帰ってくる場所を。
今。
一番危険に晒しているのは。
敵でも。
旧世でも。
なかった。
翌日。
カイ。
カード明細。
見る。
【ご利用可能額 0円】
「…………。」
シュウ。
『カイ。』
「何。」
『落ち着け。』
「チェンジ。」
『嫌だ。』
「チェンジ。」
『今日は調子が――』
「チェンジ。」
――第十九話・了




