増加
『廻天』
第十八話 できすぎる
午前十一時三十二分。
施術室。
カイ。
客。
一人。
いつも通り。
「肩お願いします。」
「はい。」
触れる。
《感流》。
分かる。
右肩。
硬い。
でも。
右肩だけじゃない。
背中。
腰。
骨盤。
左脚。
呼吸。
全部。
繋がっている。
次。
《観流》。
見える。
一本。
二本。
十本。
細い。
流れ。
右肩へ。
集中。
している。
「……。」
今までなら。
簡単だった。
原因。
探す。
触る。
流す。
終わり。
でも。
今は。
違う。
《触流》。
触れる。
《流転》。
動かせる。
《止流》。
止められる。
《結流》。
繋げられる。
《解流》。
ほどける。
カイ。
「……。」
シュウ。
『どうした。』
(どれ使う。)
『知らん。』
(肩なら流す?)
『いいんじゃないか。』
(でも腰から繋ぎ直した方が。)
『ならそうしろ。』
(いや、先に止めてからほどいた方が。)
『……。』
(でもほどいた後に――)
『カイ。』
(何。)
『揉め。』
「……。」
普通に。
揉む。
⸻
三十分後。
客。
肩。
回す。
「あー。」
「どう?」
「軽い!」
笑顔。
「やっぱカイさん上手いね。」
カイ。
「ありがとうございます。」
客。
帰る。
ドア。
閉まる。
カイ。
受付。
戻る。
「……。」
スタッフ。
「どうしたの?」
「別に。」
「満足してたよ。」
「うん。」
「何か失敗した?」
「してない。」
「じゃあ何。」
カイ。
考える。
「前と同じ。」
スタッフ。
「?」
⸻
昼。
休憩。
カイ。
弁当。
食べる。
シュウ。
『何が不満なんだ。』
(不満じゃない。)
『なら何だ。』
カイ。
箸。
止める。
(七つある。)
『あるな。』
(もっとできる。)
『できるな。』
(でも。)
一拍。
(何すればいいか分かんない。)
シュウ。
黙る。
カイ。
(前は。)
(できること少なかったから。)
(迷わなかった。)
感じる。
探す。
触る。
流す。
それだけ。
今。
七つ。
ある。
見えるもの。
増えた。
できること。
増えた。
だから。
正解が分からない。
シュウ。
『贅沢な悩みだな。』
(うん。)
『なら悩め。』
(冷たい。)
『俺も分からん。』
(役に立たないね。)
『お前より戦闘はできる。』
(エステできないじゃん。)
『……。』
勝った。
⸻
入口。
開く。
レン。
「よ。」
カイ。
「いらっしゃい。」
「客じゃねぇ。」
その後ろ。
澪。
「こんにちは。」
「澪。」
「護衛交代です。」
カイ。
レンを見る。
「帰るの?」
「ああ。」
「お疲れ。」
「軽いな。」
⸻
レン。
ソファ。
座る。
大きく。
伸び。
「あ゛ー。」
カイ。
見る。
「……。」
レン。
「何。」
《観流》。
「身体やばいね。」
「見るな。」
「腰。」
「見るな。」
「右肩。」
「見るな。」
「左脚。」
レン。
止まる。
「……。」
カイ。
「左脚。」
「昔やった?」
レン。
黙る。
澪。
レンを見る。
カイ。
「当たり?」
レン。
「昔な。」
「何したの。」
「折れた。」
「事故?」
「任務。」
カイ。
「あ。」
⸻
レン。
二十八歳。
本部実働部。
自然発現型。
能力。
《穿牙》。
カイが最初に見た時。
単純な。
斬撃能力。
だと思っていた。
違う。
レン。
自分の手。
見る。
「《穿牙》は。」
「貫通力を作る能力じゃねぇ。」
カイ。
「じゃあ何。」
「一点に。」
拳。
握る。
「集める。」
全身。
異能。
筋力。
運動。
呼吸。
踏み込み。
全部。
一点。
集束。
そして。
放つ。
刀なら。
刃先。
拳なら。
拳頭。
蹴りなら。
踵。
一点突破。
それが。
《穿牙》。
カイ。
「だから流れすごかったんだ。」
「そう。」
⸻
レン。
昔。
今より。
ずっと。
荒かった。
力。
ある。
才能。
ある。
だから。
全部。
前へ。
集めた。
もっと。
もっと。
もっと。
そして。
任務。
敵。
倒した。
同時に。
自分の左脚。
壊した。
カイ。
「自爆?」
レン。
「言い方。」
澪。
「概ね正しいです。」
「澪!」
⸻
レン。
左脚。
指す。
「踏み込みに。」
「流しすぎた。」
骨。
筋。
異能経路。
全部。
耐えられなかった。
「それから。」
「出力を落としてる。」
カイ。
「治ったんじゃないの。」
「身体はな。」
「でも。」
レン。
少し。
笑う。
「怖ぇんだよ。」
カイ。
見る。
レン。
視線。
逸らす。
「また。」
「あの感覚になるのが。」
「だから。」
「最後の一割。」
「無意識に逃がしてる。」
カイ。
《観流》。
見る。
確かに。
《穿牙》。
中心。
一本。
綺麗。
でも。
左脚。
そこだけ。
僅かに。
迂回。
している。
⸻
カイ。
「寝て。」
レン。
「は?」
「施術する。」
「嫌だ。」
「何で。」
「お前今七つ試したいだけだろ。」
「ちょっと。」
「絶対嫌だ。」
⸻
十分後。
レン。
ベッド。
寝ている。
「……。」
カイ。
「力抜いて。」
「抜いてる。」
「抜けてない。」
「うるせぇ。」
澪。
椅子。
座る。
見学。
「レン。」
「何だ。」
「緊張しています。」
「してねぇ!」
カイ。
「してる。」
「お前ら嫌い。」
⸻
カイ。
左脚。
触れる。
《感流》。
感じる。
《観流》。
見る。
できる。
止められる。
繋げられる。
ほどける。
カイ。
また。
迷う。
「……。」
レン。
「おい。」
「何。」
「普通にやれ。」
カイ。
止まる。
「普通?」
「お前。」
「昨日まで。」
「それで客満足させてたんだろ。」
「うん。」
「なら。」
「七つ全部使おうとすんな。」
カイ。
「……。」
レン。
顔。
伏せたまま。
「技が増えたからって。」
「全部使う必要ねぇだろ。」
カイ。
黙る。
シュウ。
『珍しくいいことを言う。』
レン。
「シュウ何か言った?」
「珍しくいいこと言うって。」
「あいつ出せ。」
⸻
カイ。
笑う。
そして。
普通に。
触れる。
感じる。
揉む。
緩める。
必要なところだけ。
少し。
《流転》。
左脚。
逃げていた流れ。
無理に。
戻さない。
ただ。
道。
整える。
レン。
「……。」
数分。
「カイ。」
「何。」
「そこ。」
「痛い?」
「違う。」
「何。」
「……。」
少し。
間。
「気持ちいい。」
カイ。
「でしょ。」
「腹立つな。」
⸻
施術。
終了。
レン。
立つ。
左脚。
踏む。
「……。」
カイ。
「どう?」
「普通。」
「そっか。」
レン。
数歩。
歩く。
「……。」
もう一度。
左脚。
踏む。
「……普通だな。」
カイ。
「だからそう言ったじゃん。」
レン。
少し。
笑う。
「それでいい。」
カイ。
「満足度。」
「何だよ。」
「前と比べて。」
レン。
考える。
「同じ。」
カイ。
「やっぱり。」
レン。
「何が。」
「七つ開いたのに。」
「前と同じ。」
レン。
肩。
回す。
「当たり前だろ。」
「何で。」
「昨日までのお前が下手だったわけじゃねぇから。」
カイ。
「……。」
レン。
「できることが増えただけ。」
「客が欲しいのは。」
「お前が七つ使うことじゃない。」
「楽になって帰ることだろ。」
カイ。
止まる。
「……。」
シュウ。
『本当に珍しい。』
カイ。
「シュウがめっちゃ褒めてる。」
レン。
「絶対違うだろ。」
⸻
レン。
帰る。
「じゃあな。」
カイ。
「お疲れ。」
レン。
澪を見る。
「頼む。」
澪。
「はい。」
レン。
店。
出る。
カイ。
背中。
見る。
いつも。
うるさい。
すぐ怒る。
雑。
戦闘。
大好きそう。
でも。
違う。
一度。
自分を。
壊している。
だから。
誰より。
加減を知っている。
⸻
カイ。
澪を見る。
「……。」
澪。
「何でしょう。」
《観流》。
「澪も見ていい?」
「構いません。」
「いいんだ。」
「はい。」
レンとは。
真逆。
⸻
澪。
二十六歳。
本部。
観測支援部から。
実働へ。
特殊発現型。
能力。
《銀界》。
カイ。
最初。
「目が良い能力。」
くらいに。
思っていた。
全然。
違う。
澪が。
目。
開く。
銀。
薄く。
瞳。
染まる。
その瞬間。
部屋。
変わる。
カイには。
分からない。
だが。
澪には。
全部見えている。
距離。
温度。
振動。
異能反応。
呼吸。
心拍。
空気。
物体。
人。
その位置。
変化。
そして。
「次に起こる可能性。」
カイ。
「未来予知?」
「違います。」
即答。
「現在を。」
「極端に細かく観測しているだけです。」
例えば。
レン。
右脚。
三センチ。
引く。
肩。
下がる。
呼吸。
止まる。
異能。
右腕へ。
集中。
それらから。
「次に右から来る可能性が高い。」
と。
判断。
する。
未来。
見ているわけではない。
見えすぎるほど現在を見ている。
⸻
カイ。
「めちゃくちゃ強くない?」
澪。
「弱点があります。」
「何。」
「疲れます。」
「普通だ。」
「非常に。」
《銀界》。
長時間。
使うと。
頭痛。
吐き気。
視界。
ノイズ。
最悪。
一時的に。
何も。
見えなくなる。
そして。
もう一つ。
澪。
「見えても。」
「私自身が。」
「対応できるとは限りません。」
カイ。
「あ。」
レンと。
似ている。
見える。
分かる。
でも。
身体が。
追いつかなければ。
意味がない。
⸻
カイ。
《観流》。
澪を見る。
「……。」
「どうですか。」
「すごい。」
レン。
一本。
太い。
集める。
突破。
そんな。
流れ。
澪。
逆。
細い。
大量。
全身。
特に。
目。
脳。
神経。
そこへ。
異能が。
張り巡らされている。
蜘蛛の巣。
みたいに。
カイ。
「これ。」
「疲れるわ。」
「分かりますか。」
「うん。」
「目より。」
頭。
指す。
「こっちがやばい。」
澪。
初めて。
少し。
驚く。
「……。」
「正解です。」
⸻
カイ。
「寝る?」
澪。
「はい。」
即答。
カイ。
「早いね。」
「興味があります。」
「何に。」
「カイの施術に。」
「受けたことない?」
「ありません。」
靴。
脱ぐ。
「レンから。」
「かなり上手いと。」
カイ。
「言ってた?」
「はい。」
少し。
間。
「絶対本人には言うな、と。」
カイ。
「言お。」
「やめた方がいいと思います。」
⸻
澪。
ベッド。
横になる。
カイ。
触れる。
首。
肩。
頭。
「……。」
また。
選択肢。
七つ。
出る。
でも。
今度。
迷わない。
感じる。
見る。
必要なら。
使う。
それだけ。
カイ。
《感流》。
頭。
首。
肩。
繋がり。
感じる。
《観流》。
一瞬。
見る。
そして。
閉じる。
澪。
「観流を使わないのですか。」
「もう見た。」
「結流は。」
「いらない。」
「解流。」
「今はいらない。」
「止流。」
「使わない。」
澪。
「何故。」
カイ。
普通に。
首。
ほぐす。
「必要ないから。」
澪。
「……。」
カイ。
「できるのと。」
「やるの。」
「別っぽい。」
澪。
目。
閉じる。
少し。
笑う。
「なるほど。」
⸻
二十分後。
澪。
完全に。
寝ている。
カイ。
「……。」
シュウ。
『寝たな。』
(寝た。)
『護衛は。』
(寝てる。)
『駄目では。』
(疲れてるんだよ。)
カイ。
タオル。
掛ける。
三十分後。
澪。
目。
開く。
「……。」
天井。
見る。
「寝てました?」
「うん。」
「何分。」
「二十八分。」
「……。」
澪。
起きる。
首。
回す。
目。
開く。
銀。
一瞬。
発動。
そして。
すぐ。
消す。
「……。」
カイ。
「どう?」
澪。
少し。
考える。
「前より。」
カイ。
期待。
澪。
「普通です。」
カイ。
「やっぱり!」
澪。
「?」
カイ。
笑う。
「それでいいんだ。」
⸻
夜。
閉店。
カイ。
一人。
施術室。
片付け。
七つ。
開いた。
できること。
増えた。
でも。
客。
満足度。
変わらない。
レン。
同じ。
澪。
普通。
なのに。
カイ。
さっきより。
少し。
楽。
だった。
シュウ。
『答え出たか。』
(ちょっと。)
『何だ。』
カイ。
タオル。
畳む。
(全部やる必要ない。)
シュウ。
『当たり前だ。』
(うるさい。)
『それで。』
カイ。
考える。
(必要なことだけ。)
(必要な時に。)
シュウ。
『……。』
(何。)
『お前。』
一拍。
『戦闘でもそれができれば強いぞ。』
カイ。
「……。」
少し。
考える。
(戦闘しないけど。)
『そうだった。』
⸻
店。
外。
レン。
車。
戻ってくる。
澪。
助手席。
「忘れ物ですか。」
「違う。」
「では。」
レン。
少し。
気まずそう。
「……左脚。」
「はい。」
「なんか。」
アクセル。
踏む。
「久しぶりに気にならねぇ。」
澪。
「カイに伝えますか。」
「絶対言うな。」
「承知しました。」
一拍。
澪。
「私は二十八分寝ました。」
レン。
「護衛中に寝んな!!」
澪。
「カイが。」
「言い訳になってねぇ!」
車。
夜道。
走る。
その頃。
店。
カイ。
予約表。
見る。
明日。
九人。
「……。」
シュウ。
『多いな。』
カイ。
笑う。
「ちょうどいい。」
七つ。
全部。
使う必要はない。
でも。
九人いれば。
九通り。
試せる。
シュウ。
『結局やる気じゃないか。』
「エステはね。」
――第十八話・了




