選定
『廻天』
第十一話 帰りたい
車。
高速道路。
走る。
午前零時十一分。
カイ。
後部座席。
寝ている。
「……。」
レン。
運転。
澪。
助手席。
静か。
そして。
サービスエリア。
看板。
通過。
カイ。
目。
開く。
「……。」
『起きたか。』
シュウ。
(うん。)
窓。
見る。
知らない場所。
時計。
見る。
「……。」
身体。
起こす。
「レン。」
「何だ。」
「帰りたい。」
「始まった。」
⸻
レン。
「もう半分来てる。」
「聞いてない。」
「言った。」
「片道二時間十三分しか聞いてない。」
「十分だろ。」
「本部行くって聞いた。」
「そうだ。」
「泊まるって聞いてない。」
「泊まらねぇ。」
カイ。
「ほんと?」
「たぶん。」
「帰る。」
「高速道路だぞ!!」
⸻
澪。
前。
向いたまま。
「明日の予約は十時でしたね。」
「うん。」
「現在零時十三分。」
「うん。」
「予定通りなら午前五時頃には戻れます。」
カイ。
「予定通りなら?」
「はい。」
「予定通りじゃなかったら?」
「……。」
澪。
少し考える。
「頑張ってください。」
「帰る。」
レン。
「だからどこに帰るんだよ!」
⸻
カイ。
スマホ。
見る。
「ていうか。」
「何だ。」
「着替えない。」
レン。
「必要ない。」
「風呂。」
「帰ってから入れ。」
「歯ブラシ。」
「いらん。」
「スキンケア。」
「知らん。」
「充電器。」
「貸す。」
「枕。」
「持ってくる奴いるか!!」
カイ。
「じゃあ帰る。」
レン。
「枕で本部拒否すんな!!」
⸻
シュウ。
『俺は少し興味がある。』
カイ。
(本部?)
『ああ。』
(じゃあシュウだけ行って。)
『どうやってだ。』
(知らん。)
『俺はお前の中にいる。』
(不便だね。)
『誰のせいだと思っている。』
(俺じゃない。)
『それはそうだな。』
二人。
黙る。
⸻
十分後。
カイ。
「レン。」
「今度は何だ。」
「明日休みにして。」
「俺に言うな。」
「本部から店に電話して。」
「何て。」
「国家的な用事で休みますって。」
「言えるか!!」
澪。
「国家機関ではありません。」
カイ。
「じゃあ何なの。」
澪。
「……。」
カイ。
「ほら。」
レン。
「機密なんだよ。」
「怪しい会社じゃん。」
「会社じゃねぇ!」
「福利厚生あるって言ったよね。」
「ある。」
「有給。」
「ある。」
「ボーナス。」
「ある。」
「俺も?」
「職員じゃねぇだろ!」
カイ。
「じゃあ行くメリットないじゃん。」
レン。
「お前の出生の秘密が分かるかもしれないんだぞ!」
カイ。
「……。」
少し。
考える。
「明日の予約の方が確定してる。」
レン。
「価値観どうなってんだよ!!」
⸻
午前一時四十七分。
高速。
降りる。
山。
道。
カイ。
窓。
見る。
「……。」
街。
ない。
コンビニ。
ない。
民家。
減る。
山。
増える。
カイ。
「レン。」
「何だ。」
「拉致?」
「違う。」
「怖いんだけど。」
「本部だ。」
「こんな山奥に?」
「そうだ。」
「電波。」
スマホ。
見る。
一本。
「帰る。」
「電波で判断すんな!」
⸻
さらに。
二十分。
車。
止まる。
「着いたぞ。」
カイ。
外。
見る。
「……。」
山。
森。
古い。
石段。
そして。
巨大な。
門。
寺。
にも見える。
神社。
にも見える。
だが。
どちらでもない。
古い石造りの壁が。
山そのものへ。
溶け込んでいる。
カイ。
「……。」
シュウ。
内側。
沈黙。
カイ。
(シュウ?)
返事。
ない。
(シュウ。)
『……いる。』
(どうした。)
『知らん。』
(何が。)
シュウ。
少し。
間。
『ここが嫌いだ。』
カイ。
「……。」
⸻
レン。
車。
降りる。
「行くぞ。」
カイ。
降りない。
澪。
降りる。
カイ。
降りない。
レン。
後部座席。
開ける。
「おい。」
カイ。
シートベルト。
握る。
「嫌だ。」
「子どもか!!」
「なんかシュウも嫌だって。」
レン。
止まる。
「……シュウが?」
「うん。」
澪。
振り返る。
「理由は。」
「知らないって。」
レン。
表情。
少し。
真面目になる。
「記憶が?」
「ない。」
「感覚だけか。」
「たぶん。」
レン。
門。
見る。
そして。
カイ。
見る。
「……分かった。」
カイ。
「帰る?」
「五分待つ。」
「帰らないんだ。」
「ここまで来たんだぞ!」
⸻
五分後。
カイ。
まだ。
車。
レン。
「五分経った。」
「あと五分。」
「増やすな。」
「心の準備。」
「十分しただろ。」
「できてない。」
澪。
「カイ。」
「何。」
「明日の予約。」
「……。」
「間に合わなくなります。」
カイ。
「行こう。」
レン。
「それで動くのかよ!!」
⸻
石段。
上る。
カイ。
「長い。」
レン。
「黙って歩け。」
「エレベーターないの?」
「山だぞ。」
「エスカレーター。」
「ねぇよ。」
「バリアフリーは?」
レン。
「……。」
澪。
「別ルートがあります。」
カイ。
「あるんじゃん。」
レン。
「職員用じゃねぇ!」
「俺客じゃない?」
「どっちかと言えば重要参考人だ!」
「もっと丁寧に扱って。」
「自分で歩け!」
⸻
ようやく。
門。
到着。
近くで見ると。
でかい。
黒い。
木。
なのか。
金属。
なのか。
分からない。
中央。
古い文字。
刻まれている。
カイ。
「何て書いてある?」
レン。
「知らん。」
「職員だよね?」
「読める奴ほとんどいねぇ。」
シュウ。
『……。』
カイ。
(読める?)
『いや。』
(旧世の文字?)
『似ている。』
(じゃあ読める?)
『読めん。』
(役に立たないね。)
『帰るぞ。』
(珍しく意見合った。)
カイ。
振り返る。
「じゃ。」
レン。
首根っこ。
掴む。
「帰るな!!」
⸻
その時。
声。
「うるさい。」
三人。
止まる。
門。
横。
小さな。
詰所。
そこから。
一人。
男。
出てくる。
眠そう。
髪。
長め。
無造作。
黒い上着。
サンダル。
手には。
缶コーヒー。
年齢。
三十前後。
男。
欠伸。
「何時だと思ってる。」
レン。
「……。」
澪。
「……。」
カイ。
「一時。」
男。
「お前には聞いてない。」
「すみません。」
⸻
レン。
少し。
姿勢。
正す。
「お疲れ様です。」
カイ。
見る。
「……。」
レンが。
敬語。
カイ。
澪。
見る。
澪も。
僅かに。
姿勢。
変わっている。
男。
レンを見る。
「連絡は来てる。」
そして。
カイ。
見る。
「それ?」
レン。
「ああ。」
男。
カイ。
上。
下。
見る。
「……。」
カイ。
「何。」
男。
「弱そう。」
カイ。
「よく言われる。」
シュウ。
『俺もそう思う。』
(味方して。)
⸻
男。
名前。
神代 岳。
本部。
外門守。
本部へ入る者を。
最初に。
通すか。
通さないか。
決める男。
役職。
それだけ。
だが。
レンは知っている。
本部に所属する実働員の中でも。
この男と。
正面から。
やり合いたい者は。
ほとんどいない。
⸻
岳。
缶コーヒー。
飲む。
「カイ。」
「はい。」
「中にもう一人いるな。」
空気。
止まる。
カイ。
「……。」
レン。
目。
細める。
澪。
岳を見る。
シュウ。
『……こいつ。』
カイ。
(分かるんだ。)
岳。
「名前。」
カイ。
「カイ。」
「そっち。」
カイ。
「シュウ。」
岳。
「そうか。」
それだけ。
驚かない。
質問もしない。
レン。
「岳さん。」
「何。」
「シュウのことを――」
「知らん。」
即答。
「ただ。」
岳。
カイを見る。
「二人分の気配がする。」
⸻
カイ。
無意識。
《観流》。
開く。
岳を見る。
「……。」
そして。
固まる。
レン。
流れ。
強い。
澪。
複雑。
敵。
黒く。
歪んでいた。
岳。
見えない。
カイ。
「……?」
何も。
ない。
人間。
なのに。
流れが。
一切。
見えない。
シュウ。
『カイ。』
(うん。)
『見るな。』
(なんで。)
『分からん。』
一拍。
『だが。』
シュウの声。
僅かに。
緊張。
『こいつは駄目だ。』
⸻
岳。
カイを見る。
「それ。」
「え。」
「今の目。」
カイ。
「……。」
「俺を見ただろ。」
カイ。
黙る。
岳。
缶。
置く。
「もう一回やってみろ。」
レン。
「岳さん。」
「黙ってろ。」
空気。
変わる。
岳。
何も。
していない。
構えてもいない。
なのに。
レンの手。
自然に。
刀へ。
伸びる。
澪。
銀。
僅かに。
指先。
集まる。
カイ。
「……。」
シュウ。
『やめろ。』
(でも。)
『カイ。』
シュウ。
珍しく。
強い声。
『見るな。』
岳。
「どうした。」
カイ。
考える。
そして。
「嫌です。」
岳。
「……。」
レン。
「……。」
澪。
「……。」
岳。
眉。
動く。
「理由は。」
カイ。
「なんか怖いから。」
沈黙。
レン。
顔。
覆う。
「お前……。」
岳。
「……。」
そして。
笑う。
「正解。」
⸻
次の瞬間。
岳。
消える。
カイ。
「え。」
目の前。
いる。
距離。
数センチ。
岳の指。
カイの額。
触れる。
トン。
それだけ。
カイの身体。
力。
抜ける。
膝。
落ちる。
レン。
「カイ!」
シュウ。
『チェン――』
岳。
カイの胸。
指。
置く。
「お前も動くな。」
シュウ。
止まる。
「……。」
カイ。
内側。
初めて。
感じる。
シュウが。
本気で黙った。
⸻
岳。
手。
離す。
カイ。
地面。
座る。
「……何したの。」
岳。
「触っただけ。」
カイ。
「嘘。」
岳。
「お前も似たようなことするだろ。」
カイ。
顔。
上げる。
「……。」
岳。
少し。
笑う。
「流れ。」
「見る。」
「触る。」
「弄る。」
カイ。
目。
見開く。
岳。
「珍しくはある。」
一拍。
「でも。」
門。
指。
差す。
「ここじゃ、それだけで特別扱いはされない。」
⸻
レン。
「岳さん。」
「何。」
「試したんですか。」
「門番だからな。」
「殺す気だったでしょう。」
「なかった。」
澪。
「嘘ですね。」
岳。
「ちょっとだけ。」
レン。
「あったんじゃねぇか!!」
⸻
岳。
門。
手。
置く。
巨大な門。
音。
立てて。
開いていく。
その向こう。
灯り。
建物。
人。
そして。
カイが。
今まで知らなかった世界。
岳。
「入れ。」
カイ。
立つ。
服。
払う。
門。
見る。
そして。
岳。
見る。
「やっぱ帰っていい?」
岳。
「駄目。」
「ですよね。」
レン。
「ここまで来てまだ言うのか!!」
澪。
「明日の予約。」
カイ。
「行きます。」
レン。
「だからそれで動くな!!」
三人。
門。
くぐる。
岳。
最後。
カイの背中を見る。
笑っていた顔。
消える。
「……。」
小さく。
呟く。
「シュウ、か。」
岳だけが。
気づいていた。
カイではない。
その奥。
シュウでもない。
さらに。
深い場所。
ほんの一瞬。
もう一つ。
何かが。
動いたことに。
岳。
缶コーヒー。
拾う。
「面倒なの来たな。」
門。
閉まる。
――第十一話・了




