爆発
『廻天』
第十話 呼び出し
予約爆発から。
二週間。
カイの生活は。
変わった。
午前十時。
施術。
十一時半。
施術。
十三時。
施術。
十四時半。
施術。
十六時。
施術。
十七時半。
施術。
十九時。
施術。
そして。
空いた時間。
電話。
「カイさん空いてますか?」
「来月です。」
「キャンセル待ちは?」
「十一人です。」
「十二人目お願いします。」
「はい。」
⸻
スタッフ。
受付。
電話。
取る。
「はい、ありがとうございます」
数秒。
「申し訳ありません、カイは――」
カイ。
見る。
受付。
指。
三本。
カイ。
首。
振る。
受付。
四本。
カイ。
首。
振る。
五本。
カイ。
頷く。
受付。
「最短で五週間後になります。」
電話。
『お願いします。』
受付。
切る。
カイ。
「取るんだ。」
受付。
「取るんだよ!!」
「怒らなくても。」
「誰のせいで予約表が来月まで真っ黒だと思ってるの!」
⸻
だが。
忙しくなったのは。
カイだけではない。
「カイさん無理なら誰でも!」
「今日入れる人いますか!?」
「とりあえずこの店で!」
結果。
他スタッフ。
全員。
ほぼ満席。
スタッフA。
「カイさん。」
「はい。」
「恨んでる。」
「なんで。」
「昨日九人。」
スタッフB。
「私八人。」
スタッフC。
「私、休憩十八分。」
カイ。
「それはちゃんと取って。」
「誰のせいだ!!」
⸻
シュウ。
『人気者は大変だな。』
(他人事だと思って。)
『俺は働いていない。』
(俺の身体だけど。)
『そうだった。』
(忘れんな。)
⸻
午後二時。
常連。
六十代女性。
「今日は腰お願い。」
「はい。」
カイ。
腰。
触れる。
「……。」
最近。
ここまでは。
普通。
普通ではないが。
慣れた。
触れれば。
分かる。
筋肉。
張り。
熱。
呼吸。
そして。
その奥。
流れ。
どこから来て。
どこで滞り。
どこへ抜けるのか。
今では。
かなり。
鮮明。
カイ。
「右脚もやりますね。」
「脚?」
「はい。」
「腰痛いのに?」
「たぶんこっちから。」
右脚。
触れる。
ふくらはぎ。
太腿。
股関節。
流れ。
辿る。
「……。」
シュウ。
『違う。』
(うん。)
『脚ではない。』
(分かってる。)
カイ。
手。
止める。
原因。
もっと。
奥。
でも。
今までなら。
ここまでだった。
感じる。
探す。
触れる。
それだけ。
なのに。
今日。
初めて。
その先が見えた。
「……?」
カイ。
瞬き。
する。
客の身体。
その中。
細い。
淡い。
線。
一本。
腰。
脚。
腹。
背中。
無数に。
繋がっている。
「……。」
『カイ。』
シュウ。
声。
変わる。
(見える。)
『何が。』
(流れ。)
今まで。
感覚だった。
それが。
今。
視覚になっている。
⸻
カイ。
目。
閉じる。
消える。
開く。
見える。
「……。」
客。
「どうしたの?」
「ちょっと待って。」
「何。」
「今すごい。」
「何が?」
「俺。」
「自分で言う?」
⸻
カイ。
線。
見る。
腰。
赤く。
いや。
色ではない。
そう感じる。
一本。
流れ。
途中。
妙に。
細い。
そこから。
別方向へ。
負担。
逃げている。
「……ここか。」
カイ。
腰ではなく。
腹部側。
直接ではない。
側面。
触れる。
軽く。
押す。
そして。
流す。
線。
動く。
詰まり。
抜ける。
次の瞬間。
客。
「……あ。」
カイ。
「どう?」
「ちょっと待って。」
起きる。
「まだ途中。」
「腰。」
「はい。」
身体。
捻る。
「……。」
もう一回。
「痛くない。」
カイ。
「よかった。」
「いやいやいや。」
客。
カイを見る。
「何したの?」
「……。」
カイ。
考える。
「エステ。」
『説明を諦めたな。』
(説明できない。)
⸻
施術終了。
客。
帰る。
カイ。
鏡。
見る。
「……。」
何も。
変わらない。
普通の目。
カイ。
手。
見る。
「シュウ。」
『ああ。』
「これ。」
『二つ目だ。』
カイ。
「七つの?」
『おそらく。』
一つ目。
《感流》
触れることで。
力の流れを感じる。
そして。
二つ目。
シュウ。
少し考える。
『《観流》』
カイ。
「名前ダサくない?」
『ではお前が考えろ。』
「流れが見える目。」
『俺の方がマシだ。』
「確かに。」
『腹立つな。』
⸻
夕方。
レン。
店へ。
入ってくる。
「カイ。」
受付。
「あ、予約ですか?」
レン。
「違う。」
スタッフ。
「あの肩の人だ。」
レン。
「誰が肩の人だ。」
カイ。
奥。
顔。
出す。
「レン。」
「話がある。」
「今無理。」
「重要だ。」
「あと四人。」
「……。」
レン。
時計。
見る。
十八時。
「四人?」
「うん。」
「何時に終わる。」
「二十二時くらい。」
レン。
「働きすぎだろ!」
受付。
「あなたからも言ってください!」
カイ。
「何で仲間になってんの。」
⸻
レン。
ため息。
「五分だけ。」
「三分。」
「交渉すんな。」
バックヤード。
二人。
カイ。
水。
飲む。
レン。
壁。
寄りかかる。
「本部から正式に呼び出し。」
カイ。
止まる。
「……。」
「前に話しただろ。」
「本部に連れてくか協議するって。」
「ああ。」
カイ。
「決まった?」
「決まった。」
レン。
真面目な顔。
「一度来い。」
カイ。
「嫌。」
「早ぇよ!!」
⸻
レン。
「話くらい聞け!」
「予約ある。」
「今日じゃねぇ!」
「いつ?」
「明日。」
「無理。」
「何で。」
「予約。」
「明後日。」
「予約。」
「明々後日。」
「予約。」
レン。
「いつ空いてんだよ!」
カイ。
スマホ。
予約表。
見る。
スクロール。
スクロール。
スクロール。
「……。」
レン。
「……。」
カイ。
「来月?」
レン。
「国家機関みたいな本部を一ヶ月待たせる気か!!」
「じゃあキャンセル料払って。」
「何で本部が払うんだよ!」
⸻
その時。
レン。
カイを見る。
「……。」
「何。」
「お前。」
近づく。
「目。」
カイ。
「目?」
「さっきから変だぞ。」
「どんな。」
「何か見てる。」
カイ。
「……。」
レン。
肩。
見る。
カイ。
無意識。
目。
切り替わる。
瞬間。
見える。
レンの中。
流れ。
以前より。
圧倒的に。
鮮明。
脚。
腰。
背中。
肩。
腕。
そして。
中心。
巨大な。
力。
循環。
している。
カイ。
「うわ。」
レン。
「何だ。」
「レン。」
「何。」
「めちゃくちゃ流れてる。」
「何がだよ。」
カイ。
近づく。
「ちょっと触っていい?」
「嫌だ。」
「見るだけ。」
「今見てんだろ。」
「すごい。」
「気持ち悪ぃな!」
⸻
カイ。
レンの右肩。
見る。
以前。
詰まっていた場所。
今は。
流れている。
だが。
《穿牙》を使う瞬間。
この流れが。
一ヶ所へ。
集中する。
カイ。
「……。」
レン。
「カイ?」
「これ。」
カイ。
指。
伸ばす。
触れない。
ただ。
見る。
そして。
ほんの少し。
意識。
する。
流れ。
揺れる。
レン。
「……!」
右腕。
見る。
「今何した。」
カイ。
「何も。」
「嘘つけ。」
「見てただけ。」
レン。
顔。
変わる。
「もう一回。」
「え。」
「やれ。」
カイ。
見る。
流れ。
意識。
集中。
右肩から。
腕。
少し。
押す。
触れていない。
なのに。
流れが。
僅かに。
動く。
レン。
後ろへ。
一歩。
「……。」
カイ。
「動いた。」
レン。
「お前。」
表情。
完全に。
仕事。
「これは本部に来い。」
「なんで。」
「能力が進化してる。」
「エステが上手くなった。」
「戦闘にも使えるだろ!」
「そっちはおまけ。」
「逆だろ!!」
⸻
ドア。
開く。
スタッフ。
「カイさん。」
「はい。」
「次のお客様。」
「あ。」
カイ。
立つ。
レン。
腕。
掴む。
「待て。」
「仕事。」
「今の話が先だ!」
「予約。」
「世界の話してんだぞ!」
カイ。
レンを見る。
普通に。
答える。
「こっちは待ってる人がいるから。」
レン。
「……。」
カイ。
腕。
外す。
「終わったら連絡する。」
施術室。
戻る。
レン。
一人。
残る。
「……。」
シュウ。
カイの内側。
静かに。
笑う。
『それでいい。』
(何が。)
『お前はお前でいろ。』
カイ。
次の客。
迎える。
「お待たせしました。」
⸻
午後十時十八分。
閉店。
カイ。
外。
出る。
「疲れた……。」
目の前。
車。
一台。
停まっている。
レン。
運転席。
「乗れ。」
カイ。
「……。」
助手席。
澪。
窓。
開ける。
「こんばんは。」
カイ。
「何してんの。」
澪。
「お迎えです。」
「どこへ。」
レン。
「本部。」
カイ。
「今日?」
「今日。」
「疲れた。」
「寝てろ。」
「明日十時から仕事。」
「それまでに返す。」
カイ。
「ほんと?」
レン。
「たぶん。」
「帰る。」
「待て!!」
澪。
スマホ。
確認。
「移動二時間十三分。」
カイ。
「往復?」
「片道。」
「帰る。」
レン。
「一回くらい来い!!」
カイ。
車。
見る。
レン。
見る。
澪。
見る。
ため息。
「明日の予約、遅刻したらレンのせいだから。」
「分かったよ!」
乗る。
ドア。
閉まる。
車。
走り出す。
カイ。
シート。
倒す。
「着いたら起こして。」
三十秒。
寝る。
レン。
「……。」
澪。
「寝ましたね。」
「こいつ本当に大丈夫か。」
「大物なのでは。」
「違う気がする。」
後部座席。
カイ。
熟睡。
その内側。
シュウだけが。
起きていた。
『本部、か。』
何故か。
胸の奥。
ざわつく。
知っている。
わけではない。
覚えている。
わけでもない。
それでも。
身体のどこかが。
そこへ行くことを。
嫌がっていた。
シュウ。
小さく。
呟く。
『……何だ、これは。』
車は。
夜の高速道路を。
走っていく。
カイが。
初めて。
自分を作った世界へ。
近づいていく。
――第十話・了




