第7話 手に入れた力
数日後。
ルークたちは地下室に籠もり、バルトロのもとで厳しい訓練を続けていた。
この数日間で、3人はメキメキと実力を底上げしていた。テールの槍には教科書通りだけでなく、泥臭い戦術も混ざるようになり、ジャックの放つ矢からは無駄な力みが消えつつある。
だが──ルークだけは、未だに新しい力をうまく扱いきれずにいた。
「いったい、どうやったらうまくできるんだ……」
ルークは自分の手のひらを見つめ、ため息をつきながら肩を落とした。
火を出すことはできる。だが、それを戦闘にしようとするとすぐに暴走し、使い物にならないのだ。
「まあ、そんなに落ち込むなよ。そんなにすぐ制御できるもんじゃないんだろ、それって。火を自由に出し入れできるようになっただけでも、十分すごいじゃないか」
ジャックがポンとルークの肩を叩く。
「そうよ、落ち込まないで。別にアンタ、その能力がなくてもそれなりに強いじゃない。今は焦らず、制御できるだけでいいんじゃない?」
テール先輩も隣に腰掛け、ぶっきらぼうながらも優しい声をかけてくれた。
仲間の温かい言葉は嬉しい。だが、ルークの焦りと「どうしていいか分からない」という霧のような疑問は、晴れないままだった。
「ほっほっほ。お悩み中のようじゃの、小僧」
背後から、だらしない声が響いた。
振り返ると、そこには案の定、片手に安酒の瓶を持ったバルトロが立っていた。
昼間からぷんぷんと酒臭い雰囲気を漂わせ、真っ赤な顔をして笑っている。
「お主、自分の力のイメージをきちんと掴めておるかの?どんなことでもゴールが見えないと何もできぬ。まずはそこからじゃ。きちんとした自分のイメージを掴むんじゃな。」
「イメージって言われても、どんな感じかわかんないよ。この能力のことなんて全くわからないんだから。」
そうルークは言われながら、今までのことを思い出した。自分が自分の能力を使えたときなんて、手のひらから火を出すくらいだった。そんなんじゃなく、もっと力強いものを、そうゆうイメージを……
「剣だ。」
ぼそっとルークが言った。
「ん?なんと言ったかの?悪いが老人は耳が遠いんじゃ。もっと大きな声で言ってくれんか。」
「剣です!村で最初能力が発現したとき、俺の力は剣に宿ってた。剣に火をまとわせればいいんだ!」
ルークは突然立ち上がり、期待に満ちた目でバルトロを見つめた。
「師匠、もう一回指導お願いします。今度こそ、コツが掴めるかもしれないんです!」
そうルークは頭を下げながら頼み込んだ。
「全く、そうされると弱いのぉ。しょうがない、付き合ってやろう。先にわしはいっちょるから、すぐに付いてくるんじゃぞ。」
そう言うとバルテロは酒場の奥に消えていった。その後をルークが走ってついて行った。
「ほんとに勢いすごいわね、あの子は昔から。ほんとにあの目、ずるいと思うわ。」
「え、テールさん、なんなんすかそれ。もしかして、ルークのこと好きなんじゃないすか?」
と、ジャックがニヤニヤしながらテールのことをからかう。
「なっ、何言ってんのよあんた!みぞおちぶん殴るわよ!」と言いながらジャックのみぞおちを殴った。
「もう殴ってるじゃないすか……。」
ルークはその頃、再びバルトロと最初に対戦したときのように向かい合っていた。漂う緊張の中、深く息を吸う。
バルトロは古びた木刀を構え、ルークの方をむいた。
「さあ、やってみい」
ルークは今まで考えることを避けてきた、故郷の村での出来事を思い出した。
自らの身に宿った、あの恐ろしくも強大な熱の感覚。
強く、折れんばかりに剣を握り締め、自分の力の鍵を解く。
──もう、今までの自分とは違うんだ。
今度こそ、この力を自分の意志で従えてみせる……っ!
ルークは手元にすべての魔力を込め、一気に剣を振り抜いた。
「――燃えろッ!!」
ルークの咆哮とともに、刀身が爆発的な業火に包まれる。
──新技、『赫剣』。
刀身に纏った炎は、もう暴走することはない。ルークの意志に従って、美しく、かつ猛々しく揺らめいていた。
「まさか、これまでとは……。どうやらお主を見くびっていたようじゃな」
バルトロが初めて、隻眼を驚愕に大きく見開く。
ルークの目の前には、眩い炎で赤く染まった剣があった。
その輝きは凄まじく、暗い地下室一帯を真昼のように照らし出している。剣から発せられる熱波は、ピリピリとした圧倒的なオーラとなって空間を支配していた。
「これが……これが、俺の力なのか……!」
「そのようじゃな。その力、さっそく振るってみるといい。安心せい、ここには頑丈な結界が張り巡らされている。早々のことでは崩れはせんて」
「それじゃあ、遠慮なくいかせてもらうぜ──っ!!」
ルークは爆音と共に床を蹴り、バルトロに向けて肉薄した。
今まではかすりもしなかった、元S級の間合い。
だが、今のルークの踏み込みは違った。『瞬転』を乗せたその一撃は驚異的な鋭さで伸び、一直線にバルトロの首筋へと肉薄する。
「っ……!?」
バルトロがとっさに頭を逸らし、紙一重で回避する。
しかし、ルークの剣から放たれたのは、ただの素振りではない。
──『焔刃』!!!
凄まじい速度の軌道から、炎を纏った漆黒の衝撃波(斬撃)が強烈に飛び出した。
ズドォォォォォンッッ!!!
それは、これまで傷一つなかった強固な石壁に直撃し、とてつもない大爆発を生み出した。
地下室全体の天井が激しく揺れ、ギシギシと悲鳴のような音を立てる。
「どうしたルーク! 何があった!?」
異変を察知し、階段からジャックとテール先輩が血相を変えて駆け込んできた。
そして二人の目に飛び込んできたのは──白煙の向こう側、頑丈な壁に深く、真っ赤に溶けながら刻まれた、巨大な剣の傷跡だった。
「ほっほっほ……。まさか、ワシの結界を破ってあの壁に傷をつけるとはのう。まったく、とんでもない規格外じゃ」
バルトロは少し腰をさすりながら、苦笑交じりに壁に寄りかかった。
「その力、ようやく恐怖心が消えたようじゃな。目を見ればわかるぞ」
「はい。もう、迷うのはやめました。今はただ、この力で突き進むだけです。それしか、今の俺にはできないから」
そう語ったルークの瞳には、かつての怯えは微塵もなく、ただ真っ直ぐな、揺るぎない意志の光が灯っていた。




