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第三話 目覚め

 決勝トーナメントは、予選とは打って変わって8人のトーナメント方式で進められる。各選手は各々くじを引いて、戦う相手を決める。会場には先程からの観客や、選手のオファーに来た人たち、他にも先程のトーナメントで負けてしまった人たちもいた。ルークとジャックはそれぞれくじ引き会場に入った。




「とうとうこの時が来たな。ここから俺達は名を上げていくんだ。」


そうジャックが感慨深くいった。


「ああ、そうだな。二人で必ず、勝ち上がろうな。」


このトーナメントは、必ずしも優勝しなければ一人前になれないわけではなく、印象を残し、決勝トーナメントまで残れば、仕事をもらえ、一人前と認めてもらえるのだ。




「あんたたちも気合十分みたいね。」


テールが話しかけてきた。


「ここからは格段にレベルが上がるから、せいぜい私に当たる前に負けないようにしなさいね。私はあんたたちと戦いたいんだから。」


「それはこっちのセリフですよ。そっちこそ、俺らと当たる前に負けないでくださいよ。」


そうルークが言った。そのまま顔を見合わせ、ニヤッと笑いあった。




〈それでは、決勝トーナメントのくじ引きを行います!各選手はくじ引きのところに集まって下さい!〉


アナウンスが鳴り響き、3人は揃ってくじ引きのところに集まった。そこにはルークも何度か手合わせをしたことがある剣の使い手も見られた。その中にはあの灰色の鋼鉄の中にいた小さい剣士もいた。ルークはこころの中で、その選手とは最後まで当たらないように祈った。


〈それではくじ引きを開始します!第一トーナメントの選手からくじを引いて下さい。〉


集まった戦士たちは徐々にくじを引いていった。そしてとうとう、3番トーナメントの番がやってきた。まずはテールがくじを引く。テールは箱の中に手を入れ、一枚の紙を手に取った。


〈テール選手、7番です〉


その瞬間、前に8番を引いていた選手から呻きの声が上がった。


そしてとうとうルークの番がやってきた。くじが入った箱の中に手を突っ込んだ。そして掴んだのは…


〈ルーク選手、6番です。〉


最悪だ。ルークはテールのすぐとなりの番号を引いてしまった。


「残念ね。あんたとの直接対決は決勝までとっときたかったんだけど。まあ、お互いがんばりましょう。一回戦で負けたりしたら承知しないからね。」


そう言うとテールは手を差し伸べた。ルークはその手を取り、ぐっと握りしめた。


「ああ、準決勝で待ってるぜ。」




次はジャックが引く番だった。


〈ジャック選手、3番です。〉


ジャックはすぐに二人に近寄ってきた。


「良かったぜ、お前たちとすぐに当たらなくて。お前たちとは決勝まで当たりたくないからな。」


ジャックがくじを引いたことで、残り一枠が自動的に灰色の鋼鉄の剣士になった。


〈ロミア選手、2番です。〉


「おい、あいつが俺の準決勝の相手かよ。お前たちに当たらずに済んだと思ったら今度はあいつかよ。全く、ついてないぜ。」




くじを引き終えた選手たちは観覧席に案内された。初戦はロミアとルークと前に戦ったことがあった槍使いだった。試合開始の鐘が鳴り響き両者が向かい合った。ルークはじっと試合を見た。槍使いは切られていた。会場にいた、誰一人が何が起こったのかわからず、静まり返っていた。ただ3人を除いて。




「まさか〝あれ〟を使えるとわね。さすがS級冒険者の一員なだけあるわね。」


「ああ。流石に瞬転をあのレベルまで使いこなすとは。さすがとしか言いようがないな。」


瞬転とは、この世に伝わる武術の一つで、地面を強く蹴って相手に素早く近づく技で、熟練の戦士であれば踏み込みの力は上方向ではなく、真前への推進力に変換されるため、一瞬の摩擦音しかならず、相手の懐に驚異的なスピードで飛び込める。


「もしかして、あいつお前らより早いんじゃないのか?」


そうジャックが問いかける。まさか、あのレベルの選手がいたとは、計算外だった。




続いての試合はジャックと大剣を持った戦士だ。


ジャックは弓を引き絞り、相手の鎧の継ぎ目に向かって矢を放つ。その矢は冷酷無慈悲に相手の鎧の弱い部分を次々と射ていく。しかし大剣の剣士も負けじと大剣を振りかざして向かってきた。しかしジャックはその巨体でいなし、投げ飛ばした。相手は空を飛び、場外に落ちていった。歓声が沸き上がり、ジャックは黒髪の短髪を書き上げながらそれに手を振って答えた。


「やったなジャック!」


次の試合のために下に降りてきたルークはジャックに称賛の言葉を投げかけた。


「ありがとうルーク。お前も頑張れよ。決勝で待ってるぜ。」




ついにルークの試合がやってきた。優勝候補の一人とゆうこともあり、より一層大きい歓声がなった。


相手はルークと同じ片手剣使い。ルークは気合を入れ、少し明るい茶髪を後ろで結ぶ。その澄んだ青い目は相手をキッと睨んでいた。試合開始の鐘がなり、両者向かい合う。ルークは先程ロミアが使っていた瞬転で相手の懐に一気に飛び込む。が、相手はカウンター狙いでルークの剣を防ごうとする。しかしそれすらもルークは読み切っており、紙一重で相手の剣を交わすと相手に足をかけ、体重を崩したところで勢いが乗った剣を振り下ろす。地面にヒビが割れ、剣は相手の兜のすぐ真横に振りかざされていた。たまらず相手は白旗を上げた。途端に歓声が鳴り響き拍手が鳴った。




ルークは歓声をあとにし、観客席に戻る階段を上がった。しかし、階段の踊り場で、フードを深く被り、小さな声で喋っている怪しい二人組を見つけた。ルークは気になり耳を傾けようとした。だが、話を聞く前に二人組はマントを翻し、観客席の方に消えていった。ルークもとっさに追いかけるが、たくさん人のいる観客席でもう一度見失った二人組みを見つけるのは困難だった。そんな中、再び観客席から歓声が上がる。急いで舞台の方を見ると、テールが対戦相手を下していた。これで、残るはジャックとロミア、ルークとテールだけになった。




元いた観客席に戻ると、ジャックが興奮気味に


「ああ、ルーク戻ったか。準決勝進出おめでとう!さっきのテールさん見てたか?すごかったぞ!」


とまくし立ててきた。


「ありがとう、先輩はそんなにすごかったのか?実は見れてなくてさ。それと、さっき怪しい二人組を見変えたんだ。何か喋ってたみたいだけどあんまり聞き取れなくって。」


「何だそれ、気になるな。けど、こんだけ人が集まってるんだ。流石になにか起きるってことはないんじゃないか?きっと大丈夫だろ。」


その時、試合を終えたテールが帰ってきた。


「やっとこれで、あんたたちと戦えるわ。」


と、いつにもまして明るい顔で話しかけてきた。




「けどまずはジャックの準決勝ね。あんた、なにかあいつに対する対抗策は思いついたの?相手相当強いわよ?私でも苦戦するほどだと思うわ。」


「やっぱり相当強いよな、あいつ。何しても結局はあのありえないくらい早い瞬転をなんとかしないとだな。」


「それだったら、俺がやられかけたみたいにカウンターを狙っていけばいいんじゃないか?あんなに早いなら、そこまで細かい制御はきかないだろ。弓矢で動ける範囲を絞ってさ。」


と、ルークがアドバイスした。


「たしかに、瞬転に対してカウンターは有効な攻撃手段ね。あんたの力なら、きっと押し負けることなく打ち勝てるわ。頑張りなさい!」


そう言うとテールはジャックの背中をバンと叩いた。


「おい、強すぎるってテール先輩!」


そうジャックは笑いながら言った。


「おいジャック。」


ルークは落ち着いた声で話しかけた。


「決勝で待ってろ。すぐに行ってやる。」


「おう。ちゃんと待ってるよ。」


そう言って二人はハイタッチを交わし、ジャックは舞台に飛び降りていった。


「あんた、決勝に行くためには私を倒さないといけないのはわかってる?」


「ああ、わかってるさ。けど、負けるつもりなんてちょっともないからな。今回こそは、俺が先輩の一歩先を行ってやりますよ。」


そうルークは啖呵を切った。


「そう。それじゃあ、期待してるわ。今までで一番楽しい試合にしましょうね。」


そうテールは微笑んだ。いつもはなにか考えているような難しい表情をしているテールに急にその深い蒼の目で見つめられると、ついドキッとしてしまった。




そうこうしているうちに両者の準備が整った。ジャックは弓を構え、ロミアは少し短い両手剣を構えた。試合開始のゴングが鳴ると同時にジャックが相手の動きを封じるために弓矢を次々と放つ。いとも簡単にロミアは弓矢を避けるが、次第に移動できるスペースもなくなっていく。そしてついに、ロミアが瞬転で突っ込んできた。だがもちろんジャックはその動きを予測していた。腰から素早書くダガーを抜き、カウンターの体勢を取る。双方の武器がぶつかり、火花を散らす。素早いスピードで押し込まれそうになったが、持ち前のパワーで何とか踏みとどまる。ジャックがもう一方の拳を振り下ろすが、それをロミアは体を回転させて避けると、再び距離を取る。


激しい攻防に今日一番の歓声が上がる。ロミアは再び瞬転で猛攻を仕掛けるが、ジャックも紙一重でそれをいなし続ける。次第にジャックは舞台の中心に、逆にロミアは舞台の端の方に追いやられていた。誰もがジャックの勝ちを確信していた。しかし、ロミアの狙いは他にあった。




「まずいジャック!今すぐ移動しろ!」


ルークが声をかけるが、すでに遅かった。ジャックが周りを見ると、そこは試合序盤にジャックがロミアの動きを制限した場所だった。すぐに移動しようとするが、すでに遅かった。ロミアが斬りかかり、ジャックがカウンターの形を取ったが、遅く、ダガーごと吹き飛ばされてしまった。




『飛天』




ロミアが2本の剣で斬り上げ、ジャックが中に飛び、場外に吹き飛ばされた。


「あいつ、もしかして。」


「うん。あの瞬転、もっと早かった。おそらく、もう一段階上の技術、瞬転・迅ね。まさかあそこまでの強さだったとは。流石にまずいわね。」


二人が固唾をのんだ。どうやらこのトーナメント、思ったより簡単にはいかないようだ。剣技ではまだどちらがわからないが、武術の面では明らかに相手のほうが一歩上を行っている。




しばらくして、傷を負ったジャックが帰ってきた。


「ジャック、大丈夫か!怪我は?」


「ああ、ルーク。大丈夫だよ。医療班が回復魔術をかけてくれたからな。ゴメンな、決勝に行けなくって。俺の分まで頑張ってくれよ!」


と、ジャックが声をかけたが、やはりいつもの明るい声とは違い、落ち込みを隠しきれていなかった。ルークは更に気を引き締め、舞台に向かった。ジャックの分まで、絶対にトーナメントを勝ち抜くんだ。


「言っとくけど、手加減はできないからね。私の性格、知ってるでしょ?」


「ああ。そっちのほうが俺もありがたいよ。今度こそ、先輩という壁を乗り越えて見せる。」


そうルークは言った。




舞台に二人で上がり、向かい合った。今まで何度も剣を交えてきたが、いつもあと一歩及ばなかった。今日こそ、目の前の最大の壁を超え、今度こそ打ち勝って見せる。大勢の歓声の名、お互いの武器を抜いた。




〈試合開始!〉


歓声が沸き上がり、同時にお互いが走り出す。お互いの武器が何度も火花を散らし、ぶつかり合う。何度もの技の応酬が続き、お互い一歩も引かない攻防が続いた。再びお互い距離を取り、武器を構える。


「さあ、あんたの全力で来なよ!それを超えて、私が上に行く!」


「いや、上に行くのは、俺だ!」


そうして再び瞬転で斬りかかる。テールも瞬転でやりを突き出す。




双方が全力でぶつかり合うその時、耳をつんざくような声が鳴り響く。空気が震え、地面が揺れる。


「一体何これ!なんなの?」


テールが叫ぶと同時に、大きな影が会場に影を落とした。魔獣だった。が、それは普通の魔物とは一回りも二周りも大きく、赤黒い体に紫色の結晶が飛び出でいた。




「ギャオオオオ!!」


再びつんざくような声を上げると、舞台に飛びかかってきた。その体は建物二階ほどの高さがあり、虎のような姿をしていた。これが、灰色の鋼鉄が言っていた、突然変異いた魔獣か。


「ルーク!迎撃するわよ…ルーク!」


テールが声をかけるが、返事がなかった。突然の魔獣の襲撃、しかもこれまで見たことのない迫力に圧倒され、ルークは腰が抜けそうになっていた。テールの声に反応してとっさに剣を構えるが、魔獣の腕は、すでに目の前に迫っていた。避けられない、と思った瞬間眼の前にテールが現れ、魔獣の攻撃を受け止め、ルークを庇った。が、力負けし、槍ごとテールは弾き飛ばされ、槍はカランと音を立て、舞台の端まで飛んでいった。

「全員、速やかに避難しろ! ここは我ら『灰色の鋼鉄』に任せろ!」


ルードが大声を上げ、阿鼻叫喚に包まれる観客をなだめながら、避難ルートを素早く確保していく。


「君たちも早く逃げなさい! 君たちでは太刀打ちできない!」


ルードがこちらに声をかけてきたが──すでに魔獣の爪は、倒れたテールに引き裂かんと振り下ろされていた。


そんなの、ダメだ。


今、誰も動けない。

テール先輩を助けられるのは、俺だけだ。


「俺が……やるんだ!!」


気づいた瞬間、ルークはすでに駆け出していた。完全に無意識だった。

ただ「テールを助けたい」という強い使命感だけが、ルークの身体を突き動かしていた。


その刹那、ルークの全身に、今まで体感したことのない未知の力が爆発的に湧き出る。

それに応じるように、ギュルデルの像から授かった刀身が、赤く燃え上がりながら強烈な輝きを放った。


「あの力……もしや!?」


遠くでルードの驚愕する声が聞こえる。

魔獣の巨腕がテールを押し潰す直前、ルークの身体が光の中に溶けた。


スパパパパパッ!!


激しい閃光と斬撃の音が闘技場に響き渡る。

鋼をも引き裂くはずだった魔獣の腕が、まるで紙切れのように一瞬で切り落とされた。


「ギャオオオオオッ!?」


苦しみに咆哮する魔獣。

ルークは流れるように剣を構えた。まるで最初から自分の身体が、いや、この『片手剣』そのものが、何をすればいいか全て理解しているかのように。


「──『昇剣(ひけん)』ッ!!」


赤く燃える剣が一閃され、炎をまとった巨大な斬撃が放たれる。

それは魔獣の巨体を真っ二つに切り裂いた。


激しい地響きを立てて倒れ、しばらく痙攣した後に動かなくなる魔獣。

ルークが刻んだ深い傷口は、まるで大火に炙られたかのように赤く爆ぜていた。


終わった──。


そう思った瞬間、ルークの全身から一気に力が抜け、視界がぐらりと傾く。

倒れそうになった身体を、とっさにテールが抱きとめてくれた。


「あんた……何よ、今の。あんな力、知らないわよ……」


彼女はルークを心配そうに支えながらも、その深い蒼の瞳に、明らかな困惑と怯えをにじませていた。


その時、観覧席からルードが飛び降りてきた。

しかしその表情は生存者を気遣うものではなく、まるで今から極悪非道な敵に向かっていくかのような、冷徹なものだった。


ルークの前に立つと、ルードはいきなり背中の巨大な両手剣を抜いた。

容赦のない鋭い剣先が、ルークの鼻先に突きつけられる。


「お前、一体何者だ。今の力は明らかに、犯罪組織『黒の渦(ネファリウス)』の連中が使っていたものと同じだ。貴様、もしや奴らの仲間か?」


「す、すいません、何を言ってるのか全然わかんないです……! 俺があいつらと一緒なはずないじゃないですか!」


ルークの必死の弁明に続き、テールもルードの前に立ちはだかった。


「そうです! ルークはこれまで道場での練習試合以外で、村の外に出たことすらないんです! 決して国に反旗を翻す犯罪組織の一員なんかじゃありません! 現に、今だって私を助けてくれたんです!」


だが、Sランク冒険者の長であるルードは、冷酷にその言葉を切り捨てた。


「言い訳は協会本部で聞こう。──ルーク、貴様を冒険者規定に基づき、連行する」




いかがだったでしょうか。決勝トーナメントは順調に進むかと思ったら、突然変異の魔獣が現れて会場がめちゃくちゃになってしまいました。そしてテールが殺されてしまいそうになったとき、ルークに突如謎の力が発現し、危機一髪でテールを助け出せました。が、ルードに疑いをかけられ、冒険者協会本部に連行されそうになってしまいました。一体ルークの謎の力は何なのか、なぜ魔獣が突然変異してしまったのか。これからどうなっていくのか。楽しみにして下さい。

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