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第20話 進化 

ルークの剣は3mさきほどに転がっており、その剣への道を塞ぐようにネファリウスの刺客がその両手剣をギラリと光らせながら仁王立ちしていた。


「どうやらここまでのようだな。お前の能力も剣でしか使えないようだし、所詮はここまでだ。今ここで引導を渡してやる!」


その手にされた2つの剣が振り下ろされたその時、一か八かルークは拳に火の力を込め、相手に向かって解き放った。その瞬間、その身に秘められた火が解放され、とてつもない衝撃波を放った。刺客はその攻撃をモロに喰らい、仰向けに飛ばされると数メートル先にドサッと落ちた。


「なんだ、いまのは……」


ルークはたった今出た衝撃波の余韻で震えながら手の中にあるまだくすぶっていた火を見ると、その火は今までのものとは違かった。


それは、今までの赤く燃え上がるものとは違い、より高温かつより密度が高くなっていた。それは周囲を明るく照らし、今までの火とは比べ物にならないほどのエネルギーを発していた。



炎は、オレンジ色に燃え盛っていた。



同時にルークの体にも徐々にその炎の力が流れ込んできていた。力が体を巡り、かつてないほどにルークは力がみなぎっていた。


地面に突き刺さった剣を手に取り、再びネファリエンスの刺客に向き合う。しかし先ほどとは違い、ルークはまるで別人かのように強くなっていた。


「くそっ、力を出し惜しみしてたってわけか?どうやらこっちも力を温存している場合じゃないようだな!」


そう言うと刺客はローブを脱ぎ捨て、その身を露わにした。その身からは腕がもう一本生えており、その腕にも剣が握られていた。


「今まで2つの剣でも受けきれなかったお前に、この攻撃が防ぎきれるかな!」


そう言うと相手は3つの剣を構えながら突っ込んできた。


「死ねぇ、ルークッ!!」


ガロンの咆哮が、荒涼とした荒野の夜気を切り裂いた。

その瞬間、ルークの視界は文字通り銀色の刃によって埋め尽くされた。右の長剣が首条を狙い、左の短剣が心臓を抉るように奔る。そこへさらに、ローブの下から現れた不気味な3本目の腕が、予測不能な斜め上からの軌道で必殺の刺突を繰り出してくる。


手数が3倍になっただけではない。それぞれの刃が、異なる速度、異なる殺意を持って同時に迫り来るのだ。普通の剣士であれば、その視覚的圧迫感だけで思考が収縮し、防御の優先順位を見失って肉体をバラバラに切り刻まれるに違いない。完全なる必殺の間合い。ガロンの顔には、勝利を確信した狂気の笑みが浮かんでいた。


──だが。

ルークの心は、驚くほど静寂に包まれていた。


全身の血管を猛烈な勢いで巡る、高密度なオレンジ色の魔力。それがルークの脳の処理速度を、五感の鋭敏さを、かつてない領域へと引き上げていた。

ドクン、と自身の心臓の音がひどくゆっくりと聞こえる。


(……見える。いや、遅いくらいだ)


先ほどまではただ翻弄されるだけだったガロンの超高速の剣閃が、今はまるで、水の中を動くかのように明確な軌跡を残して見えていた。


ルークは一歩も引かなかった。

地面に突き刺さっていた『赫剣』を引き抜き、両手でしっかりと握りしめる。瞬時に、刀身から眩いオレンジ色の炎がパチパチと音を立てて爆発的に吹き荒れた。その炎は激しく波打ちながらも、ルークの強固な意志によって完璧に制御され、鋭利な刃の形を保っている。


ルークは最小限の動きで、その狂乱の連撃を迎え撃った。


キィンッ!!!


まず1本目。ルークは赫剣の腹で、ガロンの右の長剣をわずかに叩いた。それだけで、オレンジ色の高熱を帯びた魔力が長剣の軌道を大きく外側へと弾き飛ばす。


ガキィンッ!!!


続く2本目。左の短剣がルークの脇腹を狙うが、ルークは半身を引くと同時に剣の切っ先を下げ、短剣の刃を滑らせるようにして地面へと受け流した。


「なっ……何だと!?」


ガロンの顔面が驚愕に染まる。2本の剣が完璧に対処された。だが、ガロンにはまだ異形の3本目の腕がある。死角である斜め上から、ルークの頭頂部を目がけて鋭い突きが肉薄する。


しかし、ルークはそれすらもまるで見えているかのように正確に、かつ軽々といなしてみせた。首をわずかに傾けて刃をかわしつつ、戻した赫剣の柄頭で3本目の剣の平を強打する。


カァンッ!!!


あまりにも正確で、無駄のない三連続の防御。

オレンジ色の高熱を帯びた赫剣がガロンの刃に触れるたび、バチバチと激しい火花が散り、強烈な熱波がガロンの顔を焼いた。ガロンの持つ双剣──いや、3本の剣は、ルークの炎の熱量にさらされただけで、わずかに赤く変色し始めていた。


「バカな……っ! バカなっ! 手数なら俺が圧倒しているはずだ! なぜ当たらん! なぜ届かないァァッ!」


完全なる攻守の逆転に、ガロンの心に初めて焦燥と恐怖が芽生えた。

かつて味わったことのない屈辱。たかが人間のガキに、己の誇る超人化の技が一切通じない。頭に血が上ったガロンは、剣士としての冷静さを完全に失い、3本の剣を同時に突き出すという、大振りの力任せな攻撃へと打って出た。


正面から迫る、3つの点。

ルークはその瞬間を、静かに待っていた。


「ここだ」


ルークはフッと息を吐くと、赫剣を円を描くように滑らせた。空間に、美しいオレンジ色の炎の弧が描かれる。


その炎の軌道は、ただの光の残像ではなかった。強力な魔力の渦が、周囲の空気を巻き込んで急激に収縮する。その渦に引きずられるようにして、ガロンが放った3本の剣の先端が、まるで磁石に吸い寄せられたかのように『一点』へと強引に集められた。


ガチィィィンッッッ!!!!!


金属同士が激しく噛み合う音が響き渡り、ガロンの3本の剣が一箇所に重なり合って完全に固定された。


「しまっ──!?」


ガロンは慌てて剣を引き抜こうと、3本の腕すべてに力を込めた。しかし、ルークのオレンジ色の炎の魔力がガロンの刃を強烈に焼き付け、熱融着するかのように完全にロックしていた。引こうとしても、びくともしない。


3本の剣を完全に一箇所に集められ、身動きが取れなくなったガロン。その胸元は、今や完全にガラ空きだった。


「これで、終わりだ」


ルークは絡めていた剣を鋭く引き抜き、一気に横一文字へと振り抜いた。


──烈火一閃。


ルークの身体から解き放たれたオレンジ色の爆炎が、凶暴な奔流となってガロンの胸元を直撃した。それはただの熱ではなく、すべてを灰に帰す絶対的な破壊の塊だった。


「ぎゃあああああああああッッッ!!!!!」


荒野に、引き裂かれるような絶叫が響き渡る。

ガロンの身体は木の葉のように宙へと吹き飛び、後方の岩盤へと激しく叩きつけられた。地面を何十メートルも転がり、その肌に浮き出ていた不気味な青い紋様は、進化した炎の熱量によって無惨に焼き切れていた。自慢の3本目の腕も、黒焦げになって力なく地面へと垂れ下がっている。


ドサリ、と倒れ伏したガロンの身体から、かつての威圧感は完全に消え去っていた。もはや指一本動かす呪力すら残されておらず、ただ荒い呼吸を繰り返すだけの肉塊と化していた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


ルークは剣を構えたまま、その場に立ち尽くし、大きく息を吐き出した。

手元を見れば、赫剣に纏っていたオレンジ色の炎はゆっくりと収まり、元の静かな刀身へと戻っていく。だが、ルークの体内には、あの圧倒的なエネルギーの感覚が、確かに新しい力として根付いていた。


「ルーク!!」


背後から、荒い足音と共に声がかける。魔獣たちをすべて片付けたジャックが、猛スピードで駆け寄ってきたところだった。その手には長弓が握られており、衣服には魔獣の返り血がいくつか付着している。

ジャックはルークの無事を確認すると、胸を撫で下ろすように大きく安堵の息を漏らした。


「無事か! すまねえ、魔獣どもが次から次へと湧き出てきやがって、足止めを食らっちまった……って、おい、あいつを一人で倒したのか!? あの三本腕の化け物を!」


ジャックは、無惨に焼け焦げて倒れているガロンを見て目を丸くした。つい先ほどまで、ルークを完全に圧倒していた強敵だ。それが、見る影もなく敗北している。


「ああ、なんとかね。ジャックのアドバイスのおかげだよ。……それよりジャック、そっちは?」


「こっちの大男なら、きっちり首をはねてやったよ。まったく、手強い連中だったぜ。……だけど、まだ終わってねえみたいだな」


ジャックの言葉と共に、二人の視線がガロンのさらに後方へと向けられる。


そこには、戦いが始まった最初から今まで、一歩も動かずにこの惨状をただ静かに眺めていた、「3人目のフードの女」がぽつんと佇んでいた。


バルカスが倒され、ガロンがこれ以上ないほど無様に敗北したというのに、その女からは焦りも、怒りも、悲しみすらも全く感じられない。ただ、底の知れない不気味な静寂を纏って、ルークたちを見つめている。


「……なるほど。ガロンもバルカスも破るとは、貴様らの実力を見誤っていたようだな」


3人目の女が、低く冷徹な声で呟いた。ゆっくりとフードを外したその顔は、青白く、感情の抜け落ちた人形のような男だった。


「だが、ルーク。お前の『火』の進化……確かに組織にとって脅威だ。これ以上の観測は不要。貴様の力、必ず我々が掌握する」


女が歪に指を鳴らした瞬間、周囲の空間がぐにゃりと歪み始めた──。

風引いて寝込んでました。毎日更新続けられなくてごめんなさい

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