第14話 帰還・特別昇格
ルークたちは北での激戦をへて、ぼろぼろになった旅団を引きずりながらも無事アドレナに帰ってきた。冒険者協会につくと、すぐに先程の会議の部屋へと案内された。
「よくぞ戻った!素晴らしいじゃないか君たち!」
ミドレアがその真っ白な歯をのぞかせながら手を広げてルークたちを向かい入れた。
その角でルードは未だに腕を組んで難しい顔をしている。
「いやあ、君たちの活躍は想像以上だったよ。まさかあそこまでの軍団を退けるなんてね。それはそうと、危険に晒して済まなかったね。北はまだ安全だと思ってたんだが」
「ありがとうございます、ミドレアさん。けど、あれは俺達だけの功績じゃないです。ジャックやテール先輩、歯車の騎士の皆さんたちの協力があってこそでした」
ルークがそう言うと、ミドレアは再びハハッっと快活な笑い声を上げた。
「実力もさることながら、内側も謙虚とは。若い頃の我々とは正反対だな、ルード」
ミドレアは笑いながらルードの方を向いたが、ルードはそちらをチラリとも見ぬまま、ミドレアの返事には答えなかった。
「つまり、今まで安全と思われていた北にも能力者含む敵軍が現れたことで、この国は完全に四方が戦場と化したわけだ。これは一刻も早く打開案を検討するべきだと思うが、ミドレア。そのような半人前に構う前にな」
ルードがルークたちを冷たい目で見ながらその眼光に負けないほど冷たい声で言い放つ。すぐに言い返そうとしたルークだったが、以外にも一番最初に言い換えしたのはジャックだった。
「あんた、いつまでルークのことを認めないつもりだ!ルークはもうあの村を燃やしたときとは違うんだ!今では立派に自分の力として使いこなしている。それに、A級でも敵わない依頼をたった今こなしてきたじゃないか!」
ジャックは肩を震わせながらルードに言い放った。すぐにルードが椅子から立ち上がる。
「貴様、誰に向かって口を……」
だが、椅子を立つ前にミドレアとロミアに遮られた。
「やめておけ、ルード。相手はまだ若者だ。そのくらい見逃してやれ。それとも、俺の静止を振り切ってあの子を斬るつもりか?俺としてはこの戦況でキミのような強力な戦力を失いたくはないんだけどね。」
「ルードさん。落ち着いて下さい。ここで反抗してもルードさんにとっていいことは何もありません。それに……」
そこまで言うとロミアはルードになにか耳打ちした。そこまで聞くとルードは深い溜息をついて再び椅子にドカッと座った。
「もういい。続けろ」
部屋にいた全員が胸をなでおろし、部屋に漂っていた緊張感が解けた。
「ふう、って急に何いってんだよジャック!どうしたんだ」
「ごめん、どうしても我慢できなくなってさ。あいつ、ルークのこと何も知らないくせにずっと文句つけてきやがる。一番苦しんでるのはルークだって言うのに。」
「そんなこと、いいんだ。実際俺が悪いのは事実だろ?とにかく、もうこんな事はしないでくれよ?」
一段落ついたところで再びミドレア喋りだした。
「それじゃあ、さっきに話の続きだ。君たちは我々の想像を遥かに超える活躍を示してくれると同時に、この戦乱の中で十分の戦力として活躍できることを証明してくれた。そのため、我々は君たちを、この特別冒険者連合に迎え入れることにした。」
そんなこと思ってもいなかったルークは固まってしまった。せいぜい少し多い報酬をもらって、再びこんな依頼が来るまで何もお咎めなしだと思っていたのだ。それがまさか、あいつらを倒す最前線の組織に入れるなんて。
「更に、連合に入るにあたって、君たちのランクを自動的に最高のA級まで引き上げることにした。これもすでに協会からの承諾は得ている。つまり君たちは、たった今からA級冒険者ギルドというわけだ」
その言葉を聞き、三人が顔を見合わせると大喜びした。
「やったわルーク!Aランクって言ったらうちの国で5人しかいないS級を除いて最高ランクの冒険者よ!これでもう厄介な薬草取りとか、溝取りとかはやらなくて済むんだわ!」
テールは二人の手を握りながらぴょんぴょんとはねた。
「テールさん、落ち着いてくださいよ。ミドレアさん、ルークが連合に入ってA級になるのはわかりますけど、なんで俺達まで?ましてやテールさんはわかるけど、なんで俺まで」
ジャックは首をしかめながらミドレアに聞いた。
「それは今の君たちのチームを崩すべきじゃないと判断したからさ。君たちはおそらく誰よりもルークくんの能力を見てきた。なら、君たちがルークくんの力を一番引き出せてあげられるだろう?」
そう言うとミドレアは二人に向かって笑いかけた。ただのおまけではなく、チームとしての評価。今までルークとテールに遅れを取っていたジャックにとって、これほど嬉しいものはなかった。今までで初めて、ルークとテールと同列に見られたのだ。途端にジャックの口から笑みがこぼれる。
──その頃。
人間の立ち入ることの叶わぬ、世界の境界線のさらに先。光の届かぬ【深淵の底】。
ドロドロとした暗黒の魔力が渦巻く不気味な空間に、漆黒のローブを纏った『7つの影』が、その異形な身体を寄せ合うようにして集っていた。
〔あの『火』……。やっと表舞台に出てきたというわけか〕
低く、地響きのような声が空間を震わせる。
〔フフフ……伝承の通りの能力、とまではいかぬが、流石に強力だな。元手が元手なだけはあるわい。我らの『黒い霧』を完全に無に帰すとはね〕
〔フン、あんなガキの能力など、取るに足るとは思えんがね。我らの大計画の前には、ただの小さな火種に過ぎん〕
傲慢に鼻で笑う影の言葉に、別の影が皮肉を混ぜて返す。
〔もっとも、我らの誇る精鋭の魔獣どもやアースゴーレムは、皆あの少年の火に焼かれて消滅してしまったようだがね? 北に配置していた『能力持ち』も、防具ごと肉体を焼かれ、這う這うの体で逃げ戻ってきた。油断は破滅を招くぞ〕
その言葉に、部屋の空気が一瞬だけピリついた。
しかし、中心に位置する最も巨大な『影』が、静かに片手を挙げると、すべての雑音が瞬時に消え去った。
〔いずれにせよ、やることは変わらぬ。……北への襲撃など、奴らの戦力を分散させるためのただの『前座』に過ぎん。我々の真の計画に、何一つ狂いはないのだからな〕
そう言うと、中心の影はその身体を大きく持ち上げ、禍々しい魔力が集う天へと、その両手を厳かに捧げた。
それに呼応するように、周りの6つの影たちもまた、深い狂信の笑みを浮かべながら天を仰ぐ。
〔全ては主のために──!〕
【全ては主のために──!!!】
黒の渦。
今回の世界を揺るがす戦争を引き起こした張本人たちであり、冒険者連合が戦うべき最大の敵。
ルークたちがA級への切符を掴み、反撃の狼煙を上げたその裏で、深淵の邪悪はさらなる大厄災の爪牙を、静かに研ぎ澄ましているのだった。




