【番外編】 ロベリア王女の憂鬱
この話は番外編になります。本編に載せようと思ったら長くなったので、ひとつのお話にしてみました。
悪役令嬢 (?)のロベリア王女です。
話はまだ【祭典】が始まる前のことである。
………………
「もう! 冗談じゃありませんわっ!! 何で、あんな田舎者に毛の生えた小娘ごときがっ!!」
「ロベリアお嬢様。もっとゆっくり、お進み下さいませ……」
『ノーム』の貴族出身の王女ロベリアは荒ぶりながら廊下を大股で歩いていた。
その二歩後ろを歩くのは、気心の知れた幼なじみのメイドひとりだけ。
「だって、ワタシだって貴族なのよ!! 幼い頃から王女になるために勉強もマナーも、必死で頑張ってきたのよ!! なのに、ポッと来た平民が王族になって、しかも『一番の女王候補』などと呼ばれるなんてっ!!」
そう。ロベリアは悔しいのである。
生まれてから『内部王族』と成るべく育てられた貴族令嬢。将来は女王というよりも、国内で権力を持つ貴族家系の一人として国を支える人間になる予定だ。今は国の在り方や国外の情勢を知るために、王宮で王女の一人として学んでいる最中だ。
もちろん、自分が貴族出身という肩書きだけで王女になったということも重々理解しているつもりだった。
だからこそ余計に憎たらしい。
ある日突然王宮へ連れられてきて、兄妹揃って魔力が高く独学で魔法も使え、妹は女王陛下と同じ『魔力過多』の性質で、兄は『神器』と呼ばれる杖まで持っている。
なんのしがらみも無く平民として育ち、外でのびのびと活動してきた兄妹。最初は挨拶もたどたどしかったのに、少しの試験ですぐに『外部王族』として迎え入れられた。
「ワタシだって、それなりに努力している……」
「ですが、最近は少々気を緩めておいでですよ? いくら【祭典】が楽しみだからと、浮かれすぎではないのですか? この際、チェリ様やダリア様と打ち解けられてはいかがでしょう? その方が楽しく過ごされるかと…………」
「うるさいわね。わかっているわ……でも、どうせ私は将来は王宮を出てどこかへ嫁ぐ身なの。領地にいる夫を立てて陰に回る妻。王宮に官僚として残る王族と仲良くしても、大人になったらワタシなどに構う暇など無くなっていくのよ……」
きっと、順調にいけばチェリが女王、アロやダリアは補佐官になって国の中枢を担うのが目に見える。
もしも仲良くなったとしても、自分だけ王宮を出てただの思い出の人物になってしまうのがツラく思えてしまった。
「ワタシはどうせ名前だけよっ!! 今は将来なんて考えたくもない!!」
メイドが幼なじみ故に遠慮ないので、ロベリアも素に戻ってしまった。本当は素直になれないだけのただの女の子である。
「いえ、今お嬢様に申し上げたいのは将来のことではなく…………最近少々、ドレスの胴回りがきつくなったのではと…………」
「っっっ!? “太った”って言いたいの!? これでも王宮に入ってから、だいぶスリムになったのよ!?」
「いいえ。『ノーム』基準では“標準”でございます。きっと、『ノーム』の殿方からは引く手数多かと……」
彼女は少しぽっちゃりしている。しかし、低身長で骨太の『ノーム』の間ではモテるのだ。
「つまり『御前試合』で、お嬢様が望まない殿方…………『ノーム』や『ドワーフ』の貴族からお声が掛けられるかもしれませんよ? 狙われるのはチェリ様だけではありません」
「い、嫌よっ!! ワタシは『エルフ』とか『魔人』の“高身長の殿方”に見初められたいのよ!!」
普通の『ノーム』とは少し違う美的感覚が、思春期のロベリアには大きな悩みの種だった。
「ですから、ダリア様たちと仲良くなって知り合いの『エルフ』の男性などを紹介していただきましょう? ほら、あの方々はマナー講座とかもやられていますから、一緒にダンスの練習ともかされてスレンダーに……」
「絶対に嫌よっ!! そんなへりくだるようなマネっ!!」
「へりくだるのではありません。『エルフ』とか『魔人』の好みに近付けるのです」
「うぅ……」
本音を言うと『御前試合』で自分が商品になるのもやぶさかでないのだ。しかし『御前試合』で王女を望むのは『魔人』が多く、彼らは『ノーム』や『ドワーフ』よりも背が高くスタイルが良い『エルフ』を好ましく思っている。
解ってるわよ! どうせ『ノーム』は『エルフ』から見ればブスよっ!! ずんぐりむっくりで…………
「こう言ってはなんですが…………『エルフ』や『魔人』って、なんかこう見た目に厳しいから、お嬢様みたいな“ずんぐりむっくり”は美しさとは遠くて……」
「あんた! ちょっとは遠慮して物事言いなさいよっ!!」
心を読まれたかと思うほどの無礼なメイドに、ロベリアは声を荒らげてしまう。
「この際、貴族じゃなくてもいいのよ。花嫁修業もいたしますから、キリッとした騎士様のお嫁さんになりたいわっ!!」
「そこまで……『人種』関係なく、高身長イケメンが良いのですね。ですが、そんな都合の良い方など……」
「うぅ、本当は騎士団に通い詰めたい……」
王子ならば剣術や魔法の訓練を騎士団でできるが、王女は基本的に彼らの敷地には入れない決まりになっていた。
「はぁ……偶然とかで、若い騎士様とかとお近付きになれないものかしら……」
「本当に、高身長がお好きですね……」
こればっかりは好みなので仕方ないが、やはり『ノーム』の娘は『ノーム』に嫁ぐのが好ましいと言われる。その方が生まれた子供のことで揉める確率が少ないという。
ロベリアが軽く悲嘆にくれて歩いていると、廊下の先で誰かが歩いているのが見えた。
辺りをキョロキョロとし、まるで道に迷っているように歩みが遅い。後ろ姿は背の高い男性である。
「……もし、どうかなさいましたか?」
自分の進路を塞がられているのも嫌なので、ロベリアは思い切って声を掛けた。
「へ? あ、はい……」
「…………まぁ……イケメン……」
振り向いた男性は、ロベリア好みのどストライクだった。
服装からして貴族というよりは騎士。
長い脚に腰から下げた長剣が似合う。視線を上に上げると、顔も整っていて茶色の髪の毛や瞳が落ち着く。
「王宮で【クリア】なんて珍しい……」
「……あの?」
「はっ!? いや、そのっ……こんなところをどうされましたか?」
「あ、その……道に迷ってしまって……」
「それは、お困りでしょう。ご案内致しましょうか?」
「ぜひ、お願いします」
凛々しい見た目に反して話し方は柔らかい。
モロ好みの殿方キタァァァァッッッーーー!!
内心、ロベリアは絶叫した。
ちゃんと身元がしっかりしていて、ちゃんと経済観念があれば【クリア】も悪くないわっ!!
それに【クリア】が子供をつくると、結婚相手の種族がほぼ確実に反映されるという。
相手が『エルフ』なら『エルフ』が、『ノーム』なら『ノーム』の子供ができる。だからこそ【クリア】は“無色透明の民”と言われるのだ。
おっしゃっ!! 王宮にいるなら、それなりに身分のある【クリア】様ですわね!!
下心満載でロベリアはにっこりと微笑んだ。
「では、どちらへ?」
「実は…………」
男性が言ったのは中庭のひとつだ。どうやら王宮に来たばかりで、少しの説明では分からなかったらしい。
「こちらですわ。付いてきてくださいませ♪」
「ご親切に、ありがとうございます」
ホッとしたのか、男性は優しそうな笑顔を返してくる。
ぎゃああああっ!!
やっぱり笑顔が好みですわぁぁぁーーーっ!!
【クリア】であるこの男性の顔は『エルフ』や『魔人』に近く、ロベリアは隣りを歩いてはうっとりと眺めた。
・~・~・~・~・~・~・~・~
長い廊下を二人は(正確には幼なじみのメイドもいる)並んで静かに進んだ。時々、通る庭を覗いて他愛ない話をした。
はぁ……顔良し、身長良し、話し方良し……たまりませんわ……
男性の顔を見上げる角度がとても心地良い。
そういえば、まだ名乗っていないことに気付いた。
「あの……わたくしは、ロベリアと申します。貴方のお名前は…………」
「あぁ。オレ……私は…………あっ」
男性が口を開いた時、急に何かに気付いたように顔を前に向けた。それにつられて、ロベリアも前方へ視線を向ける。
「ーーー!」
「チェリ……!」
廊下の向こうに現れたのはロベリアの天敵である『外部王族』のチェリだった。
チェリは慌てたように男性に駆け寄ってくる。
「ーー、ーーーー!」
「ごめん。似たような庭がたくさんあって……迷ってたんだ」
男性はその場にしゃがんで、近付いてきたチェリに視線を合わせて出迎える。
「ーーー?」
「うん。この人が途中から案内してくださったんだ」
そう言って男性はロベリアを見た。チェリもロベリアとしっかり顔を合わすと、満面の笑みを浮かべて彼女の両手をがっちりと握る。
「ーー、ーーー!」
「へ? な、なんなの!?」
「ーーー、ーー♪」
「ひっ!? わ、わかりました!! 何か知りませんけど、わかりましたからっ!!」
ぶんぶんと力強く握手するチェリの手を振り払い、ロベリアは後ろに下がって息を切らした。
「あの、貴方は……」
「すみません、申し遅れました。私は」
「おーーーい、ボウガ! お前、なに迷子になってんだよ!」
「アロ様、仕方ありませんわ。ボウガ様も王宮にいらしてまだ一週間ですもの」
チェリの来た方向から、今度はアロとダリアが姿を現す。二人が来たのを見て、男性は改めてロベリアに頭を下げて挨拶をした。
「私はボウガといいます。その、チェリ、王女の…………『婚約者』……です」
「……………………」
どことなく戸惑ったように言ったのは“照れ”のせいだろうとロベリアは確信した。
あ〜……これは両想いだわ。
名乗った後に、ボウガとチェリはお互いに微笑んで見つめあっている。どこにもつけ入る隙など無さそうな感じがビシビシと伝わった。
「ーー、ーーーー♪」
「あ、そっか。ロベリア王女、困っているところ助けていただきお礼を申し上げます。よろしかったら一緒にお茶をしませんか?」
お茶に誘われたが、もはやロベリアにこの会話は無意味なものになってしまった。
「い……いえ。会えて良かったですわね。ではっ、ワタシはここで、失礼致しますっ……!!」
言い終わると同時に、ロベリアは踵を返して速足で廊下を戻っていく。
「……もう、素直じゃありませんわね」
「あいつ、今涙目じゃなかったか?」
背後のダリアとアロの呟きなど聞こえないくらい、ロベリアの胸中は穏やかなものではなかった。
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「んぎぃいいいいいいーーーっ!! あれ、絶対に恋愛の末の婚約だわっ!!」
「お嬢様、どうか落ち着かれますように……」
自室のベッドに飛び込み、ロベリアはぼすんぼすんと枕をパンチして八つ当たりをする。
ベッドの傍には幼なじみのメイドがいて、部屋には彼女以外の者はいなくなっていた。ロベリアが取り乱す姿を見せるのは彼女だけだからだ。
「なんなのよぉーーー!! ずるい! ずるいわよっ!! 女王候補だけじゃなく、結婚相手も自由にできるなんてっ!!」
チェリは平民出身で家柄も気にしなくて良い。
一度認められれば、礼儀作法や勉学も王宮で学ぶことができる。
さらに彼は『アミュレット』と呼ばれるもので、『外部王族』にのみ許された『婚約者』だ。
「これだから『外部王族』なんて大っ嫌いなのよぉぉぉっっっ!!!!」
「ご愁傷さまです……」
まだ何も始まっていなかったので失恋とも言えないが、ロベリアの気持ちは受け止めてあげようとメイドはため息をついた。
黙って暴れるロベリアを見守った後、彼女の好物のお菓子をたくさん用意しておく。
今日くらいはヤケ食いを許そう。ダイエットは明日からである。
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これから数年後。
ロベリアは見た目こそタイプではないが、彼女を一途に愛してくれる同じ『ノーム』の貴族子息と結婚した。
彼女が王宮で頑張ったおかげで、嫁ぎ先からは“良い嫁”と評価された。
しかしそれはまた別の話である。




