↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/83

第62話 コインと武器

 そこに立っていたのは背の高い人物だった。

 真っ黒なフード付きの長いコートを着ていて、そのせいで他の情報は一切見えてこない。


 今もどうやって獣人をぶん投げたのかも、一瞬の出来事でわからなかった。


「うん? ここにいるなら出場者か? なんとも貧弱な骨格をしている……これでよく生きていけるものだ」


 フードの人物は呆れたように言って、倒れた獣人を片足で軽く小突いている。


「この野郎っ!!」

「ふざけるなよっ!!」


 倒された獣人の仲間二人は、完全に頭に血が登った状態でフードの人物に拳を振り上げた。


「ギャアッ!!」

「ぐっ!?」


 しかしそれも一瞬で終わり、獣人たちが握っていた手を押さえて床に座り込む。

 よく見ると、それぞれの拳に5センチくらいの鉄の釘が刺さっていた。


「悪いのはお前たちだ。そして、今の私の攻撃が見えないようでは『予選』の一回戦にも勝てないだろうな?」

「ぐぅっ……」

「ううっ……!」


 フードから少し見える口元がニヤリと笑う。チラッと覗く鋭い犬歯が光ったように見えた。


「ひぃいいいいっ!!」

「う、うわぁあああっ!!」

「あ、待てっ……!! 置いてくなぁっ!!」


 逃げる二人に、倒れていた獣人もすぐに起きて走り去ってゆく。


「三名脱落。ま、あれは数にならんか」


 フードの人物はフンと鼻を鳴らして、去った獣人たちを嘲笑っている。


 絡まれそうになっていたボウガは、その人物に駆け寄り頭を下げた。


「あ、あの……ありがとうございました」

「いや、礼には及ばない。鬱陶しいと思っただけだ」

「それでも、助かりました」

「……………………」

「……?」


 フードの人物は急に黙って、ジッとボウガの顔を見ているようだった。

 ボウガもフードを被っていたので、はっきりとは見えないはずなのに何故か視線が突き刺さる。


「……お互いに『本戦』で会えるといいな」


 愉しげな口調でボソリと言うと、フードの人物はすぐにボウガたちから離れていった。



 ――――今の人も『予選』に……?


 先ほどの攻撃。実はボウガにも、あの人物がいつ釘を投げたのかが見えなかった。

 首から下、コートが動いたこともわからなかったのだ。


 ――――ちょっと舐めてたかも。ああいう人には、こんな所で当たりたくないな。


 出場者全員に勝つつもりで臨むとは言ったが、ここに来てあんな人物に会ってしまったことにほんの少し臆してしまいそうになる。



「ケンティさん、『予選』にも、あんな強そうな人がいるんですね?」

「…………………………」


 ケンティに声を掛けたが、何故かケンティは硬直してフードの人物が去った先を凝視していた。


「……ケンティ……さん?」

「はっ…………」


 肩を叩かれ、ケンティはやっと我に返ったようだった。ケンティの顔から血の気が引いているのがわかる。


「どうかしましたか……?」

「…………うん、ちょっと」


 ケンティは眉間にシワを寄せて少し考え込むと、ボウガの方を見てため息をついた。


「あの人、見たことあるの……王宮で」

「え?」

「以前、あなたに話したことあったはずよ。今年初めて呼ばれた【魔神族(ジーニー)】の『人種』がいるって……」

「あぁ。気を付けろって言ってた……」


『オーガ』や『魔人』などに引けを取らないほど、戦闘に長けた『人種』だと。サーセンデス公爵家も、その『人種』を“代理”にと申し出たというのを聞いていた。


「見間違いじゃなければ、その『人種』の王太子のお付をしていた人物だわ。真っ黒のコートがやたら素材が良かったのが印象にあってねぇ……」

「えっ? そこの王族の!?」


 そこの王太子が『御前試合』に参加すると言っていた。


「陛下に挨拶するくらいなら、王子の『最側近』ね。つまり…………」

「その『人種』で一番強い?」


 冗談で参加する訳でないなら、一番強い戦士が王子の“代理”になるのは当たり前だ。


「でも……それなら、なんで『予選』の受付け会場にいるのかしら? それこそ、【魔神族(ジーニー)】の王族の“代理”なんて『本戦』から出られるはずなのに……?」


 ほとんどの王侯貴族の“代理”は『本戦』から出る。ボウガは認められずに『予選』からだが、普通に考えれば権利があるのだから『本戦』の方がいい。


「………………」


 ボウガの脳裏に浮かんだのは、獣人たちを追い払った時の笑ったあの人の口元だった。歯が見えるほど、愉快そうに口の端を上げていた。


「……“面白そう”だったから……とか?」


 なぜか、そう思ってしまった。

 ボウガが思わず言った言葉にケンティが固まる。そして次の瞬間、盛大に笑い転げた。


「アハハハ! いくらなんでも、それはないわよー! 一族の名誉が掛かってるのよ? 戦闘が得意でも、そんな野蛮とか言われそうなことはないでしょ!」

「そうですよね。普通は……ははっ……」


 どこか心の底から笑えない自分がいる。

 ボウガも時々、自分で思うよりも戦闘訓練などが楽しくなる時があったからだ。


 ――――戦うのが楽しいなんて、やっぱり物騒だよね……?


 そう自分に言い聞かせたが、しばらくあのフードの人物が頭の中で回っていた。




 ………………




「今からお呼びする番号の方は、こちらの部屋へお越しください!」


 30分くらいして、向こうからスタッフらしき人の声が聞こえる。


「あ、呼ばれたわね。行きましょう!」


 ここからは個別に部屋に通され、各個人ごとに参加のための検査などを受けた。

 身体検査をされ、見た目と『人種』が合っているかの確認、そして魔法の効果などを調べられる。



 個室では白衣を着たエルフの医師がボウガを診ていた。


「えぇと、この『婚約指輪』は試合が始まる前に、王宮で魔法の効果を封じてもらいます。いいですね?」

「はい。わかりました」


 どうやら『予選』開始の三日前から、チェリとは話せなくなってしまうようだ。


「あと『生命の護符(タリスマン)』を作ったことは?」

「ありません」

「うん。では、こちらで“採血”をさせていただきます」

「はい。お願いします」


 ………………


『生命の護符(タリスマン)』

 毎回『御前試合』の出場者が参加証として身に付ける魔道具である。試合時にこれを身につけなければ失格とされてしまう。

 形はコインのようなもので、持ち主の“肉体と魂の情報”を記録させて身に付けると、一度だけ持ち主の身代わりにどんな『死』でも免れるようになっている。


 ………………


 指に軽く針を刺し、直径3センチほどの金色のコインに血を付ける。

 これが『生命の護符(タリスマン)』である。



「『生命の護符(タリスマン)』について説明します。これは試合の本人確認まで、こちらでお預かりします。試合直前にこれを魔法で固定して身に付けていただき、一試合ごとに『タリスマン』の存在を確認をさせていただきます」


 これが『御前試合』の特徴の一つだ。


 試合では相手選手の殺害は失格になるが、血の気の多い戦士は試合中に本気になり過ぎて殺し合いになることが多かった。

 女王陛下が観戦する『御前試合』で、それはかなりの問題であった。


 しかし、この『タリスマン』のおかげで本気になって戦ったとしても、一度だけ相手の『死亡』が許される。

 それだけでなく、選手の『死』と引き換えにコインが粉々になるので、勝敗を見極める道具としても使えているのだ。



 ………………



「……逆に『タリスマン』を直接破壊しちゃえば、相手を敗けさせられる。無駄な傷付け合いを避ける方法にもなるわね」

「【精霊族(スプライト)】は凄い道具を作りますね……」


 地下から地上への階段を上がりながら、ボウガはケンティと『生命の護符(タリスマン)』について確認する。


「身に付けてから効果時間は一週間。その間にはどんな致命的な攻撃を受けても『一度だけ』絶対に死なない」


 効果が一週間続くので『予選』からの出場者も、最終の『決勝』まで身に付けていられる。


「ただし、試合外で壊されても『失格』にされるのよねぇ。だから『予選』からの出場者は『本戦』と『決勝』まで、生活の中でも気を付けなきゃいけないわ。どこにでも痴れ者がいるから……」

「つまり、『予選』で勝ち上がった選手の『タリスマン』が狙われることがある……と」


 過去に何度も、『予選』で勝ち上がって『本戦』出場を決めていた選手が、試合の合間に外で襲われて『タリスマン』を破損させてしまうことが起きている。


「もしかしたら、それを狙ってあなたを『予選』からにした可能性もあるわよ? 偶然、賊に襲われた風を装ってね……」

「………………」


 疑いたくはないが、それも十分に有り得るだろう。


「そうならないように、こちらの警備に任せてほしいところだわ。さて、登録も終わったし、今度は試合で使う武器防具の確認ね」


『コロッセオ』の一階。

 入り口では受付けの列がまだまだ続いているのが見えたが、闘技場への廊下はさほど混んでおらずに楽に移動できた。


「うわぁ、広い……」

「ここが『本戦』と『決勝』のステージよ。騎士団の訓練場なんか比べ物にならないでしょ?」


 四方をぐるりと取り囲む観客席。

 中央の広場には石でできた高さ1メートルほどの舞台が在り、大きさは騎士団の訓練コートよりも倍以上広い。

 実際に上に上がっても良いのか、戦士風の者の他に観光客らしき者も舞台に上がっている。


「ほら、あっちのスペースに『引き換え』の武器があるから、手に持って確認してみなさいよ♪」


 舞台の場外に当たる場所に、何やら特設のコーナーができている。

 そこにはズラっと武器や防具が並んでおり、これは試合で持ち込むことができるもの。どれも手に取って感触を確かめることができるようだ。


「ショートソードは……どれどれ……」


 片手剣を手に取りちょっと振ってみる。しばらく握っていたが、ボウガの顔がみるみる曇っていく。


「ケンティさん。この剣、たぶんすぐに折れます……」

「でしょうね。だって、ある意味『消耗品』だもの」


 改めて武器が置いてあった場所を見ると、そこには種類ごとにプレートが貼り付けてあった。


『片手短剣(ショートソード) 2』


「……2ポイントで引き換え」

「安いわよねぇ。隣りのロングソードで4ポイントだもの。どれくらい頑丈かは謎だわ」



 武器防具を持ち込めない『御前試合』では、選手にそれぞれ“ポイント”が与えられる。

 ポイントは試合の前後で武器や防具、薬と引き換えることができるのだ。


 初期個人所有ポイントは20。

 一試合勝利後に+3ポイントで、決勝に進出した場合は+10ポイント。

 これは『予選』『本戦』からの出場と関係なく、試合数が多い方が最終的なポイントは多くなる。



 ボウガはため息をついて武器を眺める。


 ショートソード 2

 ロングソード 4

 :

 :

 小型ナイフ 1 ※一度の所持は5本まで。

 :

 軽量の胸当て 5

 フルアーマー 10

 :

 ポーション(外傷のみ回復)  3

 エリクサー(外傷、内傷、体力回復)  5



「ポイント、こだわってみたけど……『予選』で使い果たさないようにしないと……」

「ここは団長と作戦会議ね」

「はい……」


 意外に頭も使っていくことになりそうだ。


 ボウガとケンティは一日を掛けて『御前試合』の確認をした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。