↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/83

第58話 罪と罰?

 コツン……コツン……


 王宮の暗い廊下にゆっくり歩く足音が響く。


 コツン……コツン……カチャ、キィ……


 やがて足音はひとつの部屋の前で止まり、静かにドアノブがひねられた。鍵は掛かっていない。


「………………」


 フサ、フサ、フサ……


 今度は部屋の絨毯を静かに歩く。

 広い部屋を進むと、窓からの月明かりに照らされた天蓋付きベッドが見えた。


「ー……ー……」


 大きなベッドの真ん中で、静かに寝息を立てている少女がいる。


 髪は緑が入った金色、そして触角のようなひと束の赤。

 耳の長い『エルフ』であり、薄暗がりでも判るほどの美少女だ。


「はぁ……まさか、本当に鍵を掛けずに待ってるなんて……チェリ王女、なんて美しい……」


 うっとりとため息をつき、ハゼロは眠っているチェリを眺めている。


「フー……さぁ、今夜は二人で存分に語りましょうぞ……フー、フー……」


 あまりの嬉しさに思わず息が荒くなり、寝顔に触れようと伸ばした手が小刻みに震えていく。


 あと数センチで頬に手が届くというところで、バッと白い布が視界いっぱいに広がった。


「ぐっ……!?」


 布が落ちると同時に、ハゼロの喉元に冷んやりとした石の感触があてがわれる。


 そしてそれを合図にしたように、部屋の中が一気に明るくなった。


「っ……気色悪ぃんだよ!! バーカ!!」

「えっ!? チェリ王女!?」


 ネグリジェ姿のチェリがベッドから身体を起こし、ハゼロに向けて宝石の付いた白い杖を突き出していた。


「ったく、まさか本当に来るなんて。てめぇの頭ん中どうなってんだか……」

「えっ、その、えーっ!! アロ王子ぃっ!?」


 顔の造形や身体つきは確かにチェリなのだが、汚物を見るような目つきや言葉遣い、そして突きつけられた杖は完全にアロのものだ。


「……チェリを避難させておいて正解だった」


 チェリの姿が霞みがかって、一瞬にしてアロの姿に変わる。

 これは『水鏡の魔法』という水属性の変身魔法だ。



「よっしゃあ! ゲンコーはん、かくほぉ!!」

「……阿呆だろコイツ」


 驚いたまま固まるハゼロの両脇を、二人の『リザードマン』ががっしりと抑える。

 そして横からは、ボキボキと両手の指を鳴らしながら近付く、素晴らしい筋肉体型の『エルフ』がハゼロの視界に入ってきた。


「レディのお部屋に無断侵入。これは万死に値する行為よねぇ? ハゼロ公子様ぁ?」

「いや、ご……誤解だっ!! 僕様はただ、チェリ王女と仲を深めようと……!!」

「深めるような仲なんてねぇから。それ以上、寝言ほざくなら首から上を氷漬けにすんぞ!!」


 ピキピキピキピキ……ハゼロの首周りに霜が発生する。


「ひぃゃあああああーーーっ!!」


 ハゼロはその場に崩れ落ちた。



 ………………



「こいつをこのまま、国際問題として王宮騎士団に突き出してやりたい……」


 ブチ切れ中のアロが、ロープでぐるぐる巻きにされ、猿ぐつわに芋虫状態で転がるハゼロを睨み付けた。


「えぇ。できることなら裁いてやりたいけど……」

「え、できないの? ケンティ様」

「やっちまえば? これ、立派な犯罪行為だろうに」


 困った顔でハゼロを見ているケンティに、バグナとアンクスは首を傾げて疑問を口にする。


「訴えたところで……よ。やっぱりコイツらは腐っても『魔人貴族』ってこと。特にこの【盟友の祭典】期間に入ると、浮かれてやった事として大目に見られちゃうのが通例ねぇ」

「文字通り腐ってやがるなぁ」


 バグナは思い切り顔を顰めた。

 改めて【精霊族(スプライト)】の立場の弱さと、【魔神族(ジーニー)】の優位性が明らかになったからだ。


「とりあえず、訴えられなくてもコイツには後でわからせるとして…………」

「ふぐぉ、ふぐぉ……!」


 アロは杖の先でハゼロの顔をグリグリと突きながら、顔を部屋の扉の方へと向けた。部屋の扉は半分開いている。


「さて。コイツが来るのは部屋の周りに張った結界でわかってたんだ。だから、そ(・)っ(・)ち(・)も居るのはわかってんだぞ? 魔法解いて、さっさと出てきたらどうだ?」


 アロに習って、ケンティ、バグナ、アンクスも扉の方を睨み付けた。


「うちの妹に仕(・)掛(・)け(・)て(・)おいて、黙ってんじゃねぇぞ卑怯者!」

『…………あーぁ、バレバレかぁ』


 少しの間を置いて扉の近くの空間が歪む。

 突然そこに現れたのはサーセンデスの次男『レーシブ』であった。


「ふぐーーーっっっ!?」


 ハゼロが驚いた様子なので、弟がいたことを知らなかったようだ。


「どういうつもりか、全部話してもらうぞ」

「…………ふっ……」


 アロに詰め寄られ、レーシブは冷ややかな笑いを浮かべた。



 ++++++++++




 時間は少し遡って、夕飯直後のチェリの部屋。


「チェリ様、チェリ様……どうなさいました?」

「……ー……ー……ー」


 みんなで楽しく夕食を共にしていたダリアとチェリだったが、最後にデザートを食べた後に急にチェリがテーブルに伏してしまった。

 直前まで普通に話していたのに、まるで操り人形の糸が切られたように動かない。


「チェリ様、大丈夫ですか?」

「どうされました? 具合いでも……」

「ー……」

「皆さま落ち着いて。呼吸は大丈夫です……脈も……」

「回復魔法を掛けてみますか?」

「ですが、症状は……」


 他の王女たちも心配してチェリの様子を伺ったが、すうすうと寝息を立てて眠っているだけのように見えた。


「とにかく、誰かを…………」


 ダリアが人を呼ぼうとした時、チェリの左手の指輪がキラリと光った。赤い光がボゥっと浮かび上がる。


『チェリ……チェリ……?』

「っ……!? ボウガ様ですか!?」


 精霊の『婚約指輪』はお互いに会話ができる。ダリアはすぐに相手がボウガだと判って助けを求めた。



 ボウガはすぐにチェリの部屋まで駆け付け、ベッドに運ばれたチェリの様子を見ている。


「チェリ、チェリ、大丈夫?」

「ー……ー……」


 チェリはとても深く眠り込んでいて、ボウガがちょっと呼び掛けて揺すっても起きない。


「これ…………寝ているだけ?」

「そうなのです。でも……急にだったので困ってしまって……」


 チェリは平和そうな顔で眠っている。見ていて可愛いと和んでしまうくらいに。


 さすがに苦しそうな様子なら辺り構わず人を呼んだのだが、こんな無防備に眠っている顔を他の殿方に見せるのは気が引けたとダリアが言う。

 この辺はやはり、王女としてのプライドというものだろうか。


「あの……チェリは何をしてて?」

「えぇ。皆さんと食後のデザートを食べて話していたら…………」


 彼女たちが座っていたテーブルには、小さな皿とティーセットが置かれていた。デザートは小さなカップケーキだった。


 側には紅茶をついでいた獣人のメイドが顔を青くして立っていた。ボウガはそのメイドに声を掛けようと近付いた。


「あの……」

「わ、わたしが、紅茶を皆さまにお淹れしました! あとはケーキをお配りして…………それ以外は何もしておりません!!」


 ケーキは全員同じものを切り分け、紅茶も同じポットから注いだという。


 何か疑われたと恐れているのだろう。声も体も全てが震えている。


「一つだけ聞きたいのですが、お茶かケーキに『お酒』は入れましたか?」

「へ? いいえ! チェリ様のお料理には、お酒は絶対入れないようにと言い付かっております!」


 ――――そりゃ王宮なら、チェリがお酒ダメなのくらいはわかってるか。


 村にいた時、チェリにジュースと間違えて酒が配られたことがある。ほんの一口飲んだだけで、チェリは朝までぐっすりと眠ってしまったのだ。


 ――――たぶん、お酒飲んでるな。食べたケーキとか調べてもらった方がいい。


「今すぐ、アロ王子とケンティ様を呼んできてほしいんですが……」

「は、はいっ!! ただ今!!」


 ボウガが一声掛けると、獣人のメイドは慌てて部屋を飛び出した。


 十数分後。

 アロとケンティが部屋に来ると、本格的に原因を突き止め始めた。




 ++++++++++




「……で調べたら、ケーキの方に“花の香りがするシロップ”ってのが垂らされてて、そこに極々微量に『酒』が入れられてた」


 シロップ内の『酒』は本当に少量だった。

 味は甘さに馴染み、匂いは花の香りで消えていたほどだ。


「しかもそのシロップは『チェリ王女がお好きだから』って、外部から差し入れられたものみたいね。入れられたのが、極わずかなお酒だったせいで、毒でも魔法でもなく、食事の検査にも引っかからなかったのよね」


「あと、あんた素のシロップを街の平民の雑貨屋で手に入れてただろ? 貴族ってのは損だよな、雰囲気で覚えられてたぞ」


 アロ、ケンティ、バグナが次々に畳み掛ける。実はバグナは偶然にここに居合わせていたが、少し前からサーセンデス家の者の動向には注意していたのだ。


「シロップに酒仕込んで、どうやって知ったかここの情報をハゼロ公子に吹き込んで忍び込ませたってところだな」


「昼間のこともあったし、今夜良くないことを考えそうだと言われて、おれたちもアロと一緒に見張ってたんだ。しかし、王宮の王族の塔に侵入するなんて馬鹿だよなぁ」


 このチェリの部屋がある塔は魔法でのセキュリティが物凄い。王女たちが仲良く出入りするため、元々から鍵を掛けていなかったが、誰がどこに行くかはすぐに足跡がわかるようになっている。


「ま、入られる前にとっちめてやれたんだけど…………それじゃ、お仕置できないものねぇ?」

「ふんっ! 悪いことってすぐバレるんだぞ!!」


 笑顔だが怒りが滲み出ているケンティと、取り押さえ要員に呼ばれたアンクスがレーシブへ言い放つ。


「……やはり『セントラル』ほどではなくとも、ここ『カルタロック』の魔法技術も大したものですね」


 追い詰められているはずなのに、レーシブは至って落ち着いているようだった。


「レーシブ公子、一応あんたも共犯だ。兄のハゼロ公子共々、未遂で罪に問われなくても評判は落ちる。言い訳するなら今だぞ?」


「共犯? 言っておきますが、ボクは実行しようとする兄の行動を見ていただけですよ」


「へぇ、あくまでも悪いのは兄だけってことか?」


「えぇまぁ、そういうことですが…………どうしてもと仰るなら、ボクも罰を受けなければいけませんね」


 ――――なるほど、ハゼロをけしかけたのはわざとだ。そんで自分は大人しくして、都合の悪いことは全部兄貴に被せる気か。


『魔人』の貴族階級は後継者争いが厳しいと聞く。

 こんな感じでもハゼロは長男で跡取りだ。次男のレーシブが公爵家を継ぐなら、ハゼロの評判を落として失墜させればいい。


 ――――くだらないお家騒動に、チェリのことをダシに使いやがって……!



「とりあえず、今夜は自分の部屋へ戻ってもらう。あとでサーセンデス家に向けて、こちらから抗議させてもらうので覚悟してほしい」


 胸ぐらを掴んでやりたい気持ちを抑え、アロは事務的にレーシブへと接した。

 本当なら、ここで私的にボコボコにして不問にしておくという手もあるのだが、社会的に制裁を加えた方が貴族の威信に傷が付くと思ったからだ。


 しかし、


「えっ!? 今ここで、罪に対する折(・)檻(・)は無しなのですかっ!?」


「「「っっっ!?」」」


 罰が下されないことに対し、心底驚いたようにレーシブが声をあげた。


 ――――え……今、なんて言った……?


「せっかん、って……?」


「だから折檻ですよ。兄上に今すぐ『100叩き』とか『水責め』とかの物理的な罰は無しなのですかっ!? 精神的な罰でも構いませんっ!!!!」


「「「っっっ!!!?」」」


 その場の全員が、何を言われたのかすぐに理解できなくなって立ち尽くす。


「ふぐごぉおっ!! ふぐふぐっ!!」

「は……ハゼロ! お前の弟、何なんだよ!?」


 一瞬だけ静止したアロが我に返り、足元でのたうち回るハゼロの轡を外してやる。


「ぷはぁっ!! だ、ダメだアロ王子!! 弟の……レーシブの戯れ言は無視していいっ!!」

「へ…………?」


「何を言うのです兄上!! 美形のエルフに怒られる……そんな美(・)味(・)し(・)い(・)シチュエーションを逃すなんてっ!!」

「え、えぇええええええっっっ!?」



 この晩、アロたちは『魔人貴族の闇』に触れることとなった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あ、HENTAIさん? ソッチの意味でもヤバいのね、アラアラ(笑)。
おっと!?www
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。