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火輪の皇国  作者: es
一章
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【三】魔石採掘場



 ──コンコンと金槌で岩を割って、中に魔石が含まれてないか確かめる。でも、今日はハズレばかりだった。


 また一つ割ってみたが、やっぱり魔石はない。

 舌打ちして、八つ当たり気味に岩くずをトロッコにガコンと投げ入れる。

 そんとき、視線を手元に落としたまま、隣のレンが小声で話しかけてきた。


「──ソラ、おれは今日のノルマ達成だ。サボっても問題ないから行こうぜ」

「おぉ、マジか」


 さりげなく周囲を見渡す。大人達はみんな黙々と作業に没頭して、こちらに注意を払う者はいない。

 よし今だ! レンに目配せして、目立たぬように時間差でその場を離れた。監視の目をすり抜け、坑道の一つに滑りこむ。

 この奥は地下水道施設に繋がってる。そこは、俺達の格好のサボり場になっていた。


 ある程度坑道の奥まで進んで、金槌をその辺に立て掛けておく。分厚い手袋も外す。額の上にゴーグルをずらし、俺は笑顔で親友を振り返った。


「よっしゃ成功だな!!」

「ああ」


 相変わらず淡々とした奴だな。全然十代らしくねえよ。

 魔光のランタンを掲げた俺は、「んじゃ行こうぜ」と親友を顎で促し、張りきって奥へ進む。


「これだけあれば、今日の分は足りるだろ」


 歩きながら、レンがごそごそと作業服のポケットを探った。差し出された掌の上には、純度高めの魔石が八個。

 黒く透明な石の内側がキラキラと光ってる。これが魔力の源だ。

 "天州"の抽出装置でこの魔力を取り出し、機械に供給するとか何とか。

 しかしこれだけの魔石を見つけるのは、ベテランでも結構難しい。


「すげえな、お前!」


 親友は、魔石を見つけるのがやたら上手くて、下手くそな俺にいつも分けてくれる。

 俺もたいがい負けず嫌いだし、世話になってばかりなのも癪だから、今日こそはとマジメに取り組んだのに、やっぱり敵わない。無性に悔しいのと、純粋な称賛が混じる。


「つか、なんでお前はそんなに見つけられんの? 俺頑張ったのに、たったの二個なんですけど!!」

「才能だろ」

「ふぁー……お前の能力、ちっと分けてほしーわ」

「無理だよ」

「どケチ!」

「はいはい。てか、この話は誰にもするなよ」

「わーかってる! たりめーじゃん」

「ならいいけど」


 親友が肩をすくめる。「お前こそが神だ!」とふざけると、レンは紫の目を細めて笑った。


 俺は、こいつの控えめな笑みが結構好きだ。"狂犬"が俺だけに懐いてる、って思えば特別な感じがする。

 密かに嬉しくなってると、レンも「好きなだけ崇めていいぞ」と乗ってきた。


「よっ神様! 奇跡の美少年!」

「美少年はいらん」


 軽口を叩きあってる間に、俺達は目的地に到着していた。巨大なパイプが剥き出しになった、地下水道施設だった。


「みんな働いてんのに、俺らだけサボリだなんて贅沢だなー!」

「ソラ、その思考はヤバいぞ……」


 硬い地面の上に転がって、たわいもない話をする。飽きたら昼寝だ。


 俺達が作業をサボっても平気なのは、レンの持つ不思議な能力のおかげだった。

 なぜかこいつは、昔から「魔石の気配が何となく読み取れる」という謎の勘の良さがあって、適当に岩を選んでるようにしか見えないのに、割ったら大抵魔石が出てくる。

 今日は八個だけど、本気出したら、多分こんなもんじゃない。

 だが、レンはこの能力をひた隠しにしていた。知ってるのは、親代わりのナダル爺さんと俺だけ。


 それも当然の話で、シグマをただの道具だと思ってる連中にバレたら、レンは死ぬまでこき使われてズタボロにされるだろう。きっと他に何も残らない。

 だから俺も本気で口を閉ざしてた。

 育ての親にも言うつもりはない。俺のせいでレンがひどい目にあったら、一生後悔するだろうから。




 +++++




【レン視点】


 ランタンの光を眺めながら、地面に寝そべって、外では言えない愚痴を言い合う。それは、常に気を張ってるおれ──レンという仮初めの人間にとって、何にもかえがたい時間だった。


 ソラととりとめのない話をする。ソラは仕事についてぼやいていた。


「…………よく考えたらさぁ、いくら頑張ったって魔石が俺らのもんになるわけじゃねーし、給料もそんな上がんねーしな。適当にやったもん勝ちじゃね?」

「まあ、ソラの言う通りだな。"天州"の奴らはケチだから」

「ケツの穴がちっせえやつらだよなあ!」


 ソラは足を投げ出して、ケラケラ明るく笑っている。屈託のない笑顔は昔から変わらなくて、何だかほっとする。




 初めてソラと会ったのは、おれが、"地界"の第六層に移り住んだ数日後だった。

 近所の悪ガキに目をつけられ、殴る蹴るの暴力を受けていたおれを見かねて、ソラが止めに入ったのが始まり。

 ボロボロの自分に同情したソラが、「ケンカのやり方を教えてやる」と言い出したのが縁。

 それから七年が経つ。


 ソラは強くて明るい。能天気な所が玉に瑕だけど、約束は必ず守る。口も固い。

 大事な御守りをあげたのも、魔石を見つける能力を打ち明けたのも、自分なりの信頼の証だった。


 だが、おれはソラに隠している事がたくさんある。時々、それが無性に後ろめたくなる。

 おれの人生の大半は、嘘で塗り固められた虚構にすぎないのだ。


 いつか、最大の秘密がバレたら。

 自分はソラの側にいられなくなるだろう。なんで騙してた、と詰られるかもしれない。

 永遠に隠しておけたらいいのに、と思う。しかしそれは不可能に近かった。

 その「いつか」を想像すると、ひどく憂鬱になる。




 地下水道の片隅で適当にサボり、何食わぬ顔で坑道に戻る。

 終業時刻のベルが鳴り響き、疲れた顔の大人達にほっとした表情が浮かぶ。採掘場のゲートで、魔石を持ち出してないか厳重なチェックを受け、羊の群れのように、作業員は大型エレベーターに詰めこまれていく。


 オイルくさいエレベーターが上昇し、やがて、ガゴンと大きな音を立てて停止する。分厚い鉄のドアが開くと、そこは皇都の"地界"だ。


 "地界"の移動方法は、垂直方向だと巨大エレベーター、水平方向は主にトロリーである。

 "天州"でも移動手段は基本的に同じだが、向こうは車や飛行挺といった、"地界"にない移動手段もある。


 二人でふざけながらエレベーターの順番を待っていると、暫くしてようやく順番が回ってきた。「腹減ったな」と言いあいながら、巨大な鉄の箱に乗りこむ。


 普段通り、エレベーターは上の階層に昇っていく。

 いつも通りの一日。


 そのはずだった。

 …………あの惨劇を目にするまでは。



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