【三】魔石採掘場
──コンコンと金槌で岩を割って、中に魔石が含まれてないか確かめる。でも、今日はハズレばかりだった。
また一つ割ってみたが、やっぱり魔石はない。
舌打ちして、八つ当たり気味に岩くずをトロッコにガコンと投げ入れる。
そんとき、視線を手元に落としたまま、隣のレンが小声で話しかけてきた。
「──ソラ、おれは今日のノルマ達成だ。サボっても問題ないから行こうぜ」
「おぉ、マジか」
さりげなく周囲を見渡す。大人達はみんな黙々と作業に没頭して、こちらに注意を払う者はいない。
よし今だ! レンに目配せして、目立たぬように時間差でその場を離れた。監視の目をすり抜け、坑道の一つに滑りこむ。
この奥は地下水道施設に繋がってる。そこは、俺達の格好のサボり場になっていた。
ある程度坑道の奥まで進んで、金槌をその辺に立て掛けておく。分厚い手袋も外す。額の上にゴーグルをずらし、俺は笑顔で親友を振り返った。
「よっしゃ成功だな!!」
「ああ」
相変わらず淡々とした奴だな。全然十代らしくねえよ。
魔光のランタンを掲げた俺は、「んじゃ行こうぜ」と親友を顎で促し、張りきって奥へ進む。
「これだけあれば、今日の分は足りるだろ」
歩きながら、レンがごそごそと作業服のポケットを探った。差し出された掌の上には、純度高めの魔石が八個。
黒く透明な石の内側がキラキラと光ってる。これが魔力の源だ。
"天州"の抽出装置でこの魔力を取り出し、機械に供給するとか何とか。
しかしこれだけの魔石を見つけるのは、ベテランでも結構難しい。
「すげえな、お前!」
親友は、魔石を見つけるのがやたら上手くて、下手くそな俺にいつも分けてくれる。
俺もたいがい負けず嫌いだし、世話になってばかりなのも癪だから、今日こそはとマジメに取り組んだのに、やっぱり敵わない。無性に悔しいのと、純粋な称賛が混じる。
「つか、なんでお前はそんなに見つけられんの? 俺頑張ったのに、たったの二個なんですけど!!」
「才能だろ」
「ふぁー……お前の能力、ちっと分けてほしーわ」
「無理だよ」
「どケチ!」
「はいはい。てか、この話は誰にもするなよ」
「わーかってる! たりめーじゃん」
「ならいいけど」
親友が肩をすくめる。「お前こそが神だ!」とふざけると、レンは紫の目を細めて笑った。
俺は、こいつの控えめな笑みが結構好きだ。"狂犬"が俺だけに懐いてる、って思えば特別な感じがする。
密かに嬉しくなってると、レンも「好きなだけ崇めていいぞ」と乗ってきた。
「よっ神様! 奇跡の美少年!」
「美少年はいらん」
軽口を叩きあってる間に、俺達は目的地に到着していた。巨大なパイプが剥き出しになった、地下水道施設だった。
「みんな働いてんのに、俺らだけサボリだなんて贅沢だなー!」
「ソラ、その思考はヤバいぞ……」
硬い地面の上に転がって、たわいもない話をする。飽きたら昼寝だ。
俺達が作業をサボっても平気なのは、レンの持つ不思議な能力のおかげだった。
なぜかこいつは、昔から「魔石の気配が何となく読み取れる」という謎の勘の良さがあって、適当に岩を選んでるようにしか見えないのに、割ったら大抵魔石が出てくる。
今日は八個だけど、本気出したら、多分こんなもんじゃない。
だが、レンはこの能力をひた隠しにしていた。知ってるのは、親代わりのナダル爺さんと俺だけ。
それも当然の話で、シグマをただの道具だと思ってる連中にバレたら、レンは死ぬまでこき使われてズタボロにされるだろう。きっと他に何も残らない。
だから俺も本気で口を閉ざしてた。
育ての親にも言うつもりはない。俺のせいでレンがひどい目にあったら、一生後悔するだろうから。
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【レン視点】
ランタンの光を眺めながら、地面に寝そべって、外では言えない愚痴を言い合う。それは、常に気を張ってるおれ──レンという仮初めの人間にとって、何にもかえがたい時間だった。
ソラととりとめのない話をする。ソラは仕事についてぼやいていた。
「…………よく考えたらさぁ、いくら頑張ったって魔石が俺らのもんになるわけじゃねーし、給料もそんな上がんねーしな。適当にやったもん勝ちじゃね?」
「まあ、ソラの言う通りだな。"天州"の奴らはケチだから」
「ケツの穴がちっせえやつらだよなあ!」
ソラは足を投げ出して、ケラケラ明るく笑っている。屈託のない笑顔は昔から変わらなくて、何だかほっとする。
初めてソラと会ったのは、おれが、"地界"の第六層に移り住んだ数日後だった。
近所の悪ガキに目をつけられ、殴る蹴るの暴力を受けていたおれを見かねて、ソラが止めに入ったのが始まり。
ボロボロの自分に同情したソラが、「ケンカのやり方を教えてやる」と言い出したのが縁。
それから七年が経つ。
ソラは強くて明るい。能天気な所が玉に瑕だけど、約束は必ず守る。口も固い。
大事な御守りをあげたのも、魔石を見つける能力を打ち明けたのも、自分なりの信頼の証だった。
だが、おれはソラに隠している事がたくさんある。時々、それが無性に後ろめたくなる。
おれの人生の大半は、嘘で塗り固められた虚構にすぎないのだ。
いつか、最大の秘密がバレたら。
自分はソラの側にいられなくなるだろう。なんで騙してた、と詰られるかもしれない。
永遠に隠しておけたらいいのに、と思う。しかしそれは不可能に近かった。
その「いつか」を想像すると、ひどく憂鬱になる。
地下水道の片隅で適当にサボり、何食わぬ顔で坑道に戻る。
終業時刻のベルが鳴り響き、疲れた顔の大人達にほっとした表情が浮かぶ。採掘場のゲートで、魔石を持ち出してないか厳重なチェックを受け、羊の群れのように、作業員は大型エレベーターに詰めこまれていく。
オイルくさいエレベーターが上昇し、やがて、ガゴンと大きな音を立てて停止する。分厚い鉄のドアが開くと、そこは皇都の"地界"だ。
"地界"の移動方法は、垂直方向だと巨大エレベーター、水平方向は主にトロリーである。
"天州"でも移動手段は基本的に同じだが、向こうは車や飛行挺といった、"地界"にない移動手段もある。
二人でふざけながらエレベーターの順番を待っていると、暫くしてようやく順番が回ってきた。「腹減ったな」と言いあいながら、巨大な鉄の箱に乗りこむ。
普段通り、エレベーターは上の階層に昇っていく。
いつも通りの一日。
そのはずだった。
…………あの惨劇を目にするまでは。




