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火輪の皇国  作者: es
一章
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13/16

【十二】落ちていく



「は………?」


 どういうこと?

 頭が真っ白になった。思考がフリーズする。

 ずっと男だと思ってた親友の胸部に、何かある。


 何なのあれ。


 数秒の空白を経て、俺の絶叫があたりに木霊した。


「…………え、えぇええぇッッッ!!!??」

「うるさいぞッ!」

「ガッ、いって……じゃなくて、え、待って!?」


 親友の、はだけた胸元。

 心臓の上辺りに浮かんでる不思議な紋様は、いったい何なのか。いやそれも初めて知ったが、サラシの下のかすかな隆起…………あれは、いったい。


 アホで能天気な俺でも、男女に性差がある事くらいは知ってる。だとしてもおかしくない?


 ──いや、おかしいのは自分の方なのか……

 と、そこまで考えてハッとした。


 待て待て待て。これは凝視しちゃまずいやつだろ!


 とりあえず目を逸らしておこう。深呼吸だ。落ち着け。

 赤くなった顔を誤魔化すように、俺は若干視線を上げた。


 気を失った友人の顔がそこにある。目を閉じていても、王子様のような美形である事に変わりはない。

 いや、確かに睫毛とか長えし、繊細できれいな顔だなーって思うよ。


 思うけどさ。


 つーかこれ幻覚だろ。


 だって、六年間も親友だと信じてた奴が、


「女って…………マジ…………?」


 容易に受け入れがたい事実を前に、俺は抵抗するのも忘れ、ポカンと呆けていた。


「……いてぇぞ、このカス共……!」


 その時、意識を取り戻した()()が、悪態をつきながら軽く頭を振った。だが、自分の服がはだけてる事に気がついて、はっとして顔色を変えた。

 レンはすごい勢いでこっちを振り返ったが、呆気に取られた俺を見て、全てを悟ったらしい。

 「あーぁ……」と呟いて項垂れた。


「よりによって、今バレちゃうとかありえねえだろ……」

「えっお前、マジで女だったの!?」

「まぁな……」

「ちょっ……いや、裸になるのを異様に嫌がるなぁとは思ってたけどさぁ!」

「お前は気にせず裸になってたよな」

「あーーーそれ、記憶から消せる!?」

「無理だろ」


 ポンポンと言葉をかわす。

 場違いなのは二人とも分かってる。それでも喋らずにいられなかったのは、一種の現実逃避みたいなもんだった。


 だが間の抜けた会話が出来たのはそこまで。混乱してる俺らを完全に無視して、神父は立ち上がって銃をしまいながら、俺を押さえこむ騎士に冷酷な命令を下した。


「……対象を確保したので撤収します。そちらの少年は殺して、適当に"裂け目"にでも放り込んでしまいなさい」

「はっ」

「っ、やめろ、ぐっ………」


 俺への死刑宣告に、レンが顔色を変えた。がむしゃらに暴れだした親友を、リーダー格の騎士が再度殴りつけた。

 頭を強打され、レンが小さく呻いて地面に倒れこむ。


「てめぇ、俺の親友殴ってんじゃねえよ……!!」


 拘束から逃れようと、俺も体を捻った。レンの方へ必死に手を伸ばす。だが──そんな俺の背中に、騎士の剣がまっすぐ突き刺さった。

 レンの、衝撃に揺らいでいた紫の瞳が大きく見開かれる。


「……かはっ」


 口から血が噴き出る。

 背中と胸が燃えるように熱い。剣が引き抜かれるのと同時に、勢いよく溢れた血飛沫が体を濡らしていく。


 濁っていく意識の中で、自分がズルズルと地面を引きずられていくのを感じた。

 やがて、フワッとした浮遊感が体を襲う。俺は"裂け目"に投げ捨てられてしまったらしい。


『"裂け目"から生きて戻った者はいない』


 そのことがふと頭をよぎった。


 ──レン


 別に格好つけるとかではなく、本心から、俺は自分のことなんかどーでも良かった。それより、火輪騎士団に連れてかれる親友が何より気がかりだった。

 手酷い扱いを受けないよう祈る以外、なんにもできねーのがひどく悔しい。


 ──このままじゃ死んでも死にきれねぇよ、一緒に逃げるって約束したんだぞ


 後悔が心を埋め尽くしていく。

 意識が途切れる寸前、俺の目に映ったのは──遠い"裂け目"の向こうから射す、かすかな光だった。

 力を失った俺の体は、吸いこまれるように深い穴底に落ちていった。



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