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火輪の皇国  作者: es
一章
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12/16

【十一】秘密



 パン、パン、と乾いた破裂音が響く。

 同時に、空気を切り裂くような物凄いスピードで、小さな何かが飛来した。


「ぐうっ……!」


 視認不可能な速度で飛んできたそれが、俺の右肩と左の太股に深く食いこむ。

 激痛と共に、鮮血が飛び散った。


 だが俺と違って、"狂犬"は驚くべき勘を発揮し、初撃を横に飛んで回避した。すげえな、シックスセンスかよ。

 だが続く攻撃は、さすがに避けきれず。


 再度、破裂音。

 何かがレンの脇腹に命中する。古びた作業服が、血で赤く染まった。レンは苦悶に顔を歪め、傷口を手でぎゅっと押さえる。

 だが、レンは痛みを忘れたかのように、焦りを浮かべて俺に向かって叫んだ。


「ソラッ、危ねえっ!!」


 俺はハッとして振り返った。


「死ねぇっ、クソガキがっ!!」


 下っ端の騎士が、よろめいた俺に襲いかかってくる。

 胸を狙って繰り出された剣先。それを一歩下がって(かわ)す。

 着古した作業服の胸元を、鋭く研がれた刃が切り裂いていく。服の下に隠してた、レンがくれた御守りにも小さく傷が入った。


 だが、俺も避けられたのもここまでだった。肩と太股の痛みが邪魔して、どうにも動きが鈍い。


「ぐうっ」


 蹴り倒され、地面に伏したところを、固い靴で容赦なく踏まれた。地面に押さえつけられ、俺はくぐもった呻きを上げた。


「っ、触んなッ!」


 顔を上げると、レンも別の騎士に後ろから羽交い締めにされていた。だが、ブン、と勢いよく頭を振って、頭突きを食らわせる。

 拘束が僅かに緩んだ隙に、強引に振りほどく。


「くそったれが」


 レンは振り向きざま、相手のずれたフードから覗く耳を噛みちぎった。さらに、袖に隠し持っていたペンで、仮面の隙間から眼球を抉った。渾身の力で突き刺したそれが、半分ほど奥まで埋まる。


「ぎゃあぁっ!!!」


 騎士は耳と目から血を撒き散らしながら、絶叫を上げて倒れこんだ。ペンは相当奥まで刺さったんだろう。騎士は何度か痙攣して動かなくなった。

 気絶か絶命かわからねえが、さすが"狂犬"。手が自由なら、拍手の一つでも送ってやりたいところだ。


「クッソまず」


 レンは、血まみれの耳をペッと吐き出した。足元に倒れた騎士を一瞥し、こっちに駆け寄ろうと足を踏み出す。

 だが、腕を折られたリーダー格の騎士が、レンに静かに忍び寄っていた。


「レン、後ろだッ!」

「ぐっ……」


 ガツッと剣の鞘で頭を殴られ、間髪入れず肩にも打撃を受け、"狂犬"はガクリと膝をつく。


「お前ら、よくもやってくれたなァ、ガキの分際で」


 粉だらけの素顔を晒した壮年の騎士が、憎々しげに悪態をつく。折られた腕には力が入らないんだろう。ぶらりと垂れ下がったままだ。

 それとは逆の手で、剣を収めた鞘を握ってる。

 意識を失ったレンを、男が憎悪の籠った濁った目で見下ろした。


「離せよ! レン、逃げろ!!」


 拘束から逃れようと身を捩る。だが。


「──お忘れですか。"聖女"はなるべく傷つけないように、との命令ですよ」


 リーダー格の騎士を止めたのは、神父服を纏った若い男だった。灰色の髪と眼鏡をかけたそいつは、長いコートの裾をゆったりと捌きながら、暗がりから姿を現す。

 レンの頭部を狙って振り上げられた鞘を、騎士が舌打ちしながら下ろした。


「…………ハッ、銃撃した貴様がそれを言うのか」

「私の銃では、動きを止めるくらいがせいぜいです。急所に命中しない限り致命傷にはなりません」


 右手に持っていた金属の機械──あれが銃と呼ばれる物だろうか──を胸の辺りまで持ち上げ、神父は軽く肩をすくめる。

 だが、二人の会話を聞いてた俺は、ピタリと暴れるのをやめた。何か、聞き捨てならん単語が、あった気がするんだが。


 ──こいつ、レンを"聖女"とか呼んでなかったか……?


 聖女っていえば当然女だろ。だがレンは男だ。

 レンやナダル爺さんが襲われたのは、何かの間違いだったとでも言うのだろうか。そんな理不尽な話、あってたまるかよ……!


 頭にカッと血が上る。気がついたら、俺は神父に向かって叫んでいた。


「……待てよ! 聖女っつったら女だろ? そいつは男だぞ。お前ら、なんか勘違いしてんじゃねえか!?」

「貴様は黙ってろ!」


 頭にガツンと衝撃が走る。上から押さえつけてた騎士に、頭を蹴られたらしい。しかし俺は「ふっざけんじゃねーぞ!」となおも叫んだ。

 だが灰色の髪の神父は、こっちに一瞥すら与えず、さらりと無視しやがった。


「確認します、()()を押さえていて下さい」


 神父に命じられ、リーダー格の騎士が舌打ちしながらぐったりしたレンを引き起こす。神父はその正面に屈みこみ、作業服の前を開いていった。


 やがて、埃まみれの作業服の下から現れたのは──白い肌の上に浮かびあがった不思議な紋様と、サラシがきつく巻かれた胸。


 ────。

 俺の思考が止まった。


 おかしいぞ。サラシの下になんかある。



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