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第41章

 俺がピアノを弾き始める。


 十年前のコンクールとは大違いだ。あんなに恐怖していた音楽が、今は楽しくて仕方ない。


 音楽には弱者も強者もない。誰もがやっていい。誰もが聴いていい。


 和木坂が愛おしげにコードを弾き、口がマイクに近づいた。息遣いが俺からも見えた。キーは原曲の二つ上。普通の人間には高すぎるが、和木坂にとっては何でもない。


 声が響き始めた瞬間、会場の空気が一変した。


 世界中が奇跡に包まれた。人々は呼吸することさえためらった。耳に届く歌声を聴き逃したくないんだろう。俺の弾くぼろピアノの音までが声と一つになった。


 この瞬間が永遠に続けばいいと思った。


 これだけ高音でもはっきりと歌詞は聴こえ、脳に直接シールドを差し込んだように曲の情景が浮かんでくる。


 和木坂が歌うのは、孤独に過ごした神社で、俺と歌った神社だった。別れの寂しさを乗せた曲。俺はこの曲のような思いをさせまいと誓った。


 和木坂は上手くないギターを弾きながら、完璧に歌いこなす。和木坂がコードチェンジで少しもたる箇所を俺は全て覚えている。ピアノもそれに合わせる。


 今はどんな自由に歌ってもいい。隣にいるのは俺だから。


 最後の歌詞を歌い終わり、静かに演奏も終わった。


 和木坂は涙をぽろぽろ零して、ギターを抱きしめた。俺も涙が止まらなかった。人前で泣いたことなんて無かったのに。


 客は時間が止まったように立ち尽くしていた。誰も動かなかった。その間十秒ほどだったか、漸く金縛りは解け、現実に戻ってきた者から拍手が波紋のように広がっていった。


 俺は泣き崩れている和木坂を抱き起こし、頭を下げさせて舞台袖へ。

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