第3章
水曜の放課後。部活のない日はトレーニング室を借りてちょっと体を動かすことにしている。
長く健康でいられて、ましな声が出るようになればいい。そう思ってやっているだけなのに、居合わせたラグビー部の連中までが一歩退いた態度で接してくる。
俺は彼らに何もしていないし、弱小とはいえ日々鍛えているラグビー部員と喧嘩したいとも思わない。少なくとも今は殴る理由がない。
「あー、なんで運動部でもない人が勝手にトレーニング室使ってるんですかー?今すぐやめてくださーい。迷惑でーす」
バーベルを担いでいる最中に気分を害する声が聞こえてきたが、無視して続けた。
屑の代表みたいな奴、竹田叶。見た目は美しいが頭は空っぽという、ここの女の見本みたいな女だ。
一年ほど前、こいつは何を思ったか俺に告白してきて、俺が興味ないと言ったらその場で激昂、泣き喚いてもう話にならなかった。男が例外なく、女を外見で判断するものとでも思っていたのか?
その後、人気がある男にすり寄っては誰々の彼女になったと吹聴し、俺に見せつけてくるようになった。馬鹿の悲しい末路。今は野球部のエース阪田が彼氏のようだ。
「えー無視ですかあ?なんで?まじうざいんですけど」
「ふう、あー疲れた。おい阪田、隣のそいつ黙らせとけよ」
「い、いや俺、別に関係ねえから」
「はあ?なんで関係ないとか言うの?ひどーい。あたしの彼氏だろ、おい」
「仲が良さそうで何よりだな。じゃ俺は帰るぜ。頑張れよ、阪田」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。だいたい運動部でもないのに……」
「だから帰るって言ってんだろ」
「あ、あんたなんかね、そんな自分で思ってるような価値ないんだからね」
足りないせいで意味もわからん罵倒を背中で聞き流した。馬鹿がうつるなどというが、こいつに限っては、本当に馬鹿を感染させる力があるような気さえしてくる。振られるべくして振られたことを、いつまで引きずる気なのか。
まあ、幸いなことに竹田叶は一つ上の三年生だから、もうすぐ会うこともなくなるだろう。さっさと卒業して、水商売でも風俗でもやってくれ。おまえならきっとできる。