第21章
何もかも余計なことだった。たしかにそうだ。和木坂は目立たないままで一生を過ごすほうが幸せだったのかも知れない。それを俺は、才能があるからとか言って俺の都合で無理にねじ曲げてしまった。
でも、俺だって自分のためだけに和木坂を誘ったんじゃない。あの歌を世界中に聴かせられたら、きっと世界も、和木坂自身も、幸せになれると思ったんだ。俺がどうやっても得られない才能だから、余計に惜しかった。
それをあのぼく女は、俺が俺のことしか考えてないみたいな言い方をしやがった。
いや、違うか。あれも和木坂なのか。気の弱い和木坂が本当の自分を表現するために生んだ人格がぼく女で、あれが本音なのか。
俺はもう考えたくなくなった。家族とだって最後まで分かり合えなかった俺に、他人を理解できるわけがないんだ。
俺は身を引こうと思った。俺が関わらないことで和木坂が幸せになるなら、それでいい。でも俺は、初めてあいつの声を聴いたあの瞬間から、あいつの歌声を、あの横顔を、あの空間を好きになってしまっていた。
やめろ。もう余計なことを考えるのはやめろ。俺は俺だ。強く生きていかなければ、俺に価値はない。誰かに期待するのは弱者の仕事だ。
いつもの生活に戻った。勉強して、軽音でギターとボーカルをやって、たまに筋トレして、コンビニで弁当とオレンジジュースを買って帰る。俺にとって和木坂は、教室にいても気づかないほどの存在になった。これで元通りだ。一度、俺に聞こえる距離で二人の噂話をしてた呆けがいた時に机を叩き割ったら、もう誰も俺の前では話をしなくなった。
しばらく経った放課後、下駄箱から靴を出そうとした時、手紙が入ってるのに気づいた。
まさか和木坂から?
心は少しざわめいたが、まともな紙に書いてあるから違うだろうとも思った。
「おまえの彼女は預かった。返してほしかったら放課後、旧体育館まで来い。逃げたら男共全員で彼女を犯す」
勝手にしろ。と思ったが、女特有の丸っこい字に男共なんて表現、何より計画の馬鹿さ加減で俺は首謀者を特定した。
呆けが。




