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第20章

 鳥居をくぐって境内までは少し距離がある。だんだん怪しげに暗くなっていく道を歩いていたら突然「こらあ」という怒声が聞こえた。禿げがこちらに走ってくる。


 いつかの俺を泣かした禿げだ。俺は確信した。


「何勝手に入ってやがるんだ、こら」

「神社ってそういうもんだろ」

「境内には行かせんぞ」禿げは突然殴りかかってきたので、俺はスウェーバックで避けつつ左フックのカウンターを禿げの顎に叩き込んだ。禿げは前のめりに倒れて動かなくなった。


 神主か何か知らんがいきなり暴力とは、高校の奴らと変わらん馬鹿さ加減だ。


 境内の奥、静かなので今日は来てないのかと思ったが、和木坂はいた。もう一人の自分と会話してるようだった。いつもの和木坂のほうは泣いていた。


「ひぐっ、えぐ」

「まうたん泣かないで。まうたん大丈夫だよ。ぼくがいるよ」


 盗み聞きするのも悪いかと思い、俺は和木坂の前に出て行った。


「和木坂」

「うあ、あ、あ」

「どうした?」

「……きみのせいだよ。まうたんが傷ついたのは」

「俺が、悪いことしたか」

「自分で分かってないの?まうたんは誰にも知られずに、一人で歌うのが好きだったのに、きみがこの場所を踏みにじったんだよ。勝手な期待をかけて追いつめて、まうたん生きてるのがつらくなっちゃったんだよっ」


 もう一人の和木坂も感情的で、喋りながら涙声になってきていた。俺は鬱陶しくなったが、とりあえず謝ろうと思った。


「たしかに勝手だったかも知れん。すまんな」

「ちゃんと心から謝ってよ。なんでまうたんを弄ぶようなことしたの?無理やりステージに上げて、恥ずかしい思いさせて、歌えなかったら捨てる気だったんでしょ」

「もういいよ真宇ちゃん、悪いのは私だよ」

「そんなことないよっ、悪いのはあいつだもん。あいつがまうたんを殺そうとしたんだもん」

「おい。俺はそんなこと」

「したよ。したんだよ。きみみたいな強くて無神経な人にはわかんないよね?まうたんの気持ちなんか。まうたんがうまくできないのは努力してないからだ、とか言うんでしょ?いくら努力したってできない子だっているんだよ?努力させられることを死にたいくらいの苦痛に感じる子だっているよ?なんで陽の当たる場所にひきずり出そうとするの?暗いところで生きてたい子だっているんだよ」

「真宇ちゃん、お願い、やめて」

「嫌だ、やめない。これからはもう、まうたんに近づかないで。まうたんはきみがいないほうがずっと幸せなんだから」


「……わかった。すまんかったな。弁当置いてく」

「いらないよ。さっさと帰って」


 黙ったまま弁当は置いて帰った。境内の前まで来たらまた禿げが立ってたので、今度は本気で五発ぶん殴った。それでもまだ感情が収まらないので壁を手当たり次第に殴って歩いた。拳の皮膚が破れて血が流れた。


 帰って手を洗い、カップ焼そばに湯を入れて捨てて食った。

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