表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能で無能な俺!?  作者: グラハム・A
入学編 〈上〉
6/32

【自分との向き合い】

「よし、次の感情意識テストに移ります。楽しい事や嬉しい事を想像して。その意識を継続させて下さい」


「はい………………」


 人形の指示と共に目を閉じ、楽しい事や嬉しい事を頭の中で思い描く。

 家族と一緒に遊びに出かける自分を想像する。

 父親が車を運転し、母親が助手席に座り、自分と美愛が後部座席。

 車内では母親と父親が仲良く話し、自分は妹の話しを聞く。

 時々、母親と父親が自分たちの会話に口を挟みさらに盛り上がる。

 家族が同じ時間を共有し、気兼ねなく談笑している充実した休日。

 想像しただけで、自然と笑みがこぼれそうな気持ちになる。


 この状態を維持して、数分が経過すると人形は終了を史弥に知らせる。


「…………………………よし! ありがとう! もういいよ須山くん」


 そう言われ史弥は想像の世界から現実へ戻る。

 瞳を開けて目の前の状況が広がる。

 目の前には人形が計測用端末を右手に持ち、表示されている計測値に目を凝らしていた。

 なぜこんな状態になったかというと、ECT開始時に人形は史弥に声をかけていた。

 内容はこうだ。

『君はこれからESP Abilityの正体を調べるための基礎テストを私と行いますので、一緒に来てください』だ。

 そう笑顔で告げた人形は、他の生徒達から離れたスペースへ史弥と移動し、この感情テストを始めたのだった。

 テストを始める前に人形はある事を告げていた。

 このテストはニューマンが中学生に上がった際に全員に行われると言う事を。

 本来、感情の発達段階で中学生の青年前期は、人間としての生き方を踏まえ、自らの個性や適性を探求する経験を通して、自己をみつめ、自らの課題と正面から向き合い、自己の在り方を思考する時期であり、そう言った事を踏まえるとこのテストはニューマンにとって自分を知る大事な通過儀礼なのだ。

 さらに史弥が装着しているこのヘッドレストは頭部保護以外にも、脳波計測装置の役割も兼ね備えていた。

 ニューマンはESP Ability発動前兆及び、発動中は特殊な脳波を検知できるため、現在は簡単な感情テストを繰り返し、波形が強く記録される感情領域を調べてもらっていた。


「どうですか先生?」


「うーん、そうですねー…………。

 やはり嬉しい事や楽しい感情では計器の反応値が低いですね。

 現状、怒りの感情で一番反応値が高く記録されます。

 どうやら怒りの感情に近い範囲に能力発現が眠っているようですね」


「怒りですか」


「そう、怒りです。須山くんは過去に大きな怒りを覚える事はありましたか?」


「そうですね……………」


 史弥は思考した。

 過去に強い怒りをあらわにした事があるか。

 だが少し考えてみても思いつかない。

 思い返せば、小さい頃から武術 ジークンドウを学んでいた。

 この武術のおかげで常に冷静さを欠かかさずに生活してこれたと思う。

 怒りという気持ちは正常な判断を狂わせる。

 これが武術の世界で場合によっては相手の思うツボになる。

 怒りに身を任せ、動きが単調になり、思考が麻痺する。そうなれば相手に思考を読まれやすくなり、動きを把握されてしまいやすくなる。

 それは勝負の場では避けなくてはならない。

 史弥は武術のため、私生活でも怒りを律し、常に冷静に判断をしてきた。

 結果、ジークンドウもみるみる上達した。

 思えばいつ最後に怒っただろうか。

 確かに小中の頃に不快な奴はいた。だが怒りを覚える程の事はなかった。

 心の奥底の記憶を呼び起こしても怒った思い出がなく、思い出そうとしても思い出せるわけがなかった。


「言われてみると今までに強く怒りを表した事がないです」


「君が今まで力を発現させてこなかったのはそれが起因なのかもしれないね。

 でも逆にこれまでの人生で強い怒りを覚えなかったとは周りに恵まれていたのかな?

 と言ってもまだ高校一年生。これからいろんな人に会うだろうから怒る時なんていくらでもくるさ」

 人形は軽く笑う。

 そして、彼は「さぁ、次の段階に移行しよう」と促す。

 史弥は了承し、人形が次の準備に入る。ふと周りの様子が気になり見渡す。


 周囲には他の生徒達が散らばり各自で基礎練習に取り組んでいた。

 ある者は風を操り、ある者は地面の砂を操っていた。他にもいるが傍から見ている限りではさっぱり何の異能力なのか分からない。

 最近知った事なのだがアストレイは特殊系統異能力という事もあり、同種の能力を有するニューマン同士は僅かだ。さらにニューマンの中で全体の八分の一以下と少ない。

 二クラスの内、約八名がこの広いフィールドで実習を行っている。

 おまけに能力自体が個々で違うために唯一無二の存在に近い。

 故に専用マニュアルというものが存在しない。

 実際、今も複数の教員が巡回し、各自のESP Abilityの記録を行っている。

 時々話しかけ、能力の解説や感覚を本人に聴取している程だ。


「周りが気になるかい史弥くん?」


 周囲を見渡していた史弥に気付いた人形は問いかける。


「えぇ、気になります。自分は最近まで一般人として過ごしていましたので」


「それもそうだね。君はこれからこの一年は驚くことの連続になる。私が保証しましょう」


「もう既にここにいる事が、驚きなんですけどね」

 乾いた笑顔が史弥から漏れる。

「君からしたら今の状況そのものがそうだったね」

 確かにそうだなと納得の表情を浮かべる人形。


 さらに周りを見渡し、ふと、ある生徒に目が留まる。

 何もない空中で発火させ、炎を空間に固定。さらに固定した炎を自身の周りで自在に移動させ、操る。さながら怪談で登場する火の玉だ。

 形状も火の玉だけではない。

 棒状にしてみたり何かの動物の形へ変えたりして、形状も自在に変化させている。


 史弥の視線の先に気付いた人形は親切心なのか解説を始める。まるで営業マンのように演技がかかった手振りで大袈裟に表現して。


「彼のESP Abilityは周りとは一線を画する。戦闘向きの能力と言っても過言ではない。

 有する能力の固有名称は“イグニッション(発火)”。

 自在に空間に炎を発火させる。使い方を誤ればとても危険な能力だね」


「先生は自分が鈴原と摸擬戦するのはご存知ですよね? あれに一般人が戦って勝てると思いますか?」


「確かに圧倒的に不利だと思います。でもそれはただの一般人であればの話です。君にはまだESP Abilityという潜在能力が秘められています。

 この摸擬戦という状況が自分を追い詰めて、能力発現のトリガーになるかもしれません」


「本当に効果あるのですか、この摸擬戦は?」


「先ほどの結果を加味した上で話すならばこの摸擬戦で相手を倒してやる意気込みでやってもらえれば、良い結果が得られるのではないでしょうか。

 元来、戦いとは闘志のぶつかり合いです。その闘志とは怒りに近い感情にもなります」


「ほぼ結果が分かってしまうような戦いで闘志なんて出ないんですが………」


「なに、ドッチボールをしている感覚で臨めば良いのです。

 実際相手に能力をぶつけ削り合う。唯一ドッチボールと違うのは見えないシールドがあり、身体に攻撃は接触しない事。ESPDチョーカーが手前で防いでくれますからね。

 そう考えればむしろドッチボールより安全ですよ」


「確かにそうですが………………」


「スポーツ感覚で楽しんで下さい。これは殺し合いでは無いのですから。それとニューマンは能力を適度に開放してあげないとストレスというものが溜まるものです。過去に能力使用を極度に抑えたニューマンが、その能力を突然暴発させたなんて事例もありましたからね。そんな事もあって過度な自制は身体には逆に毒です。適度に能力を解放してリフレッシュさせてあげないと」


「元一般人なのでよく分からないんですが、そんなものなんですかね」


「それに同時に能力制御の感覚も掴めて一石二鳥です。

 今の君の場合はどちらかと言うと、扱う事に意識するよりも解放する気楽さで挑むと良いかもしれませんね」


「気楽にですか…………。頑張ってみます」


「その調子です。…………………………………………おかげで私達も良いデータが取れて助かります」


「先生? 何か言いましたか?」


「あぁ、なんでも無いです。では早速次を始めましょう」


「はい…………?」


 最後に聞き取れなかった人形の言葉をそれほど気には止めなかった。

 史弥には今が一番重要な時だったからだ。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ