【デュアルフェイス】
この春より晴れて高校一年生になった須山 史弥は入学の決まったこの国立稲沢高等学校の校門前に立ち尽くし、門をくぐる事を戸惑っていた。
彼が戸惑っているのには原因があった。
単純明快である。
ニューマンが集まる教育課程へ入学する事になったからだ。
彼は中学三年まで一般人として過ごしていた。
言葉通りの一般人であってニューマンとは認知されていなかったのだ。
しかし中学三年、春の定期健診に行った検査でニューマンと診断されたことで新生活は一変する。
目指していた志望高校を強制変更され、自宅から一番近いこの国立稲沢高等学校へ編入となったのだ。
強制とは未成年のニューマンは国が定めたニューマン専門教育課程と、指定された国立学校に入学せねばならないと義務付けられているからだ。
本来、出生時に行う検査にて判別され、その時点で国に用意された指定育児施設と各都道府県に設立された小中高エスカレーター式の国立学校に入学する事になっている。
だが彼は出生時の検査では陰性であり、出生からだいぶ経った今になり陽性と判定されたのだ。
(今頃判明するなんて迷惑な話だよ、全く)
「しかし、片道一時間の通学はしんどい…………早速通学が辛くて不登校になりそう」
ここまでの通学に悪態をつく。
朝の通勤ラッシュ直撃で満員電車に揺られ、乗り換えを経て、さらにまた満員電車。
あげくニューマンと診断され、志望校を強制変更された史弥は半ば人生設計が滅茶苦茶にされたと言っても過言ではない。
将来を左右する高校受験とはよく言ったものだ。
そんな史弥を他所に周りの生徒達は入学式だというのにもう既にある種のグループを形成して登校に勤しんでいる。
──周りは顔なじみばかりなのか?
小中高エスカレーターとあってか周りの生徒同士は挨拶を掛け合ったり、通学途中から一緒に登校してきた生徒で溢れている。
「入学式なのにすでに仲間外れ感が……。
でも心細いけど高校デビューはし易い環境だよな」
顔馴染みがゼロで入学する史弥にとっては新しい自分を作る機会でもあった。
如何に馴染めるかが重要であり、高校生活三年間を左右する。
ここで失敗するという事は三年を不意にするという意味に近い。
土台を一から作らなければならない状況が肩に重くのしかかるのを史弥は感じた。
「でもアレのせいで新しい友達出来るか心配だな……。ちょっとした話題のネタくらいになれば良いけど……」
一抹の不安が彼の心にしこりを残す。
史弥が心配したのには訳があった。
その理由もこの後わかるだろう。
なぜ中学三年の春にニューマンと診断されたにも関わらず即日転校にならずに高校一年の四月からになった訳を。
そうこうしている内に、気が付けば周囲の生徒からジロジロ見られていた。
声を潜めて生徒達は耳打ちに近い会話をしている。
そのいくつかが史弥の耳へ届く。
──あの子誰? 小中の時にいなかったわよね?
──おい、あれ見ろよ。知らない顔がいるぞ。
史弥は周りから向けられる奇異の目に恥ずかしくなり、急ぎ足で校門内へ歩みを進める。
門をくぐり、事前に配布されていた校舎案内を鞄から取り出す。
校舎案内を眺め自身が割り当てられた教室を確認するとまだ見慣れない道をとりあえず進むことにした。
国立稲沢高等学校の校舎は全部で三つ。
四階建ての本館と一・二号館に分かれている。
小中も敷地内に併設されており、混雑を避けるために小・中学生は別で用意された校門を利用して登校している。
そう考えると敷地は非常に雄大で広い。
だが他施設を散策する活力や時間は史弥にないためここでは割愛した。
本館正面玄関から入り、一階にある本館と渡り廊下を渡ると一号館へ行ける。
一号館は一・二年生の教室になり、二号館は三年生のみが使用している。
史弥は正面玄関から中に入り、渡り廊下を目指す。
途中で廊下を小走り気味に走る男子生徒二人が彼を追い越した。
追い越される際に会話が聞こえる。
「なぁ聞いたか? 渡り廊下にすげー美少女がいるってよ! 去年いなかったからきっと転校生だよ!」
「あぁ! 早く見にいかないとどっか行っちゃうぞ!」
二人は急ぎながら走って行った。
「へー、俺以外にも同じ人がいるんだ。それに走って行くほどの美少女か。
ちょっと気になるかも」
転校生という事もあり、その美少女に少し共感を抱きつつ、どうしても年相応の興味も混じる史弥。
見れたら良いなくらいで歩いていた彼は渡り廊下がある角を曲がると小さな人だかりが出来ていた。
中心に先ほどの男子生徒達が会話していた美少女が人の隙間から見え隠れする。
それは史弥が目指す教室へ向かうため、一つしかない渡り廊下を通るのに非常に邪魔であった。
「こんな場所で溜まられたら俺以外の生徒達も通れないだろ」
少し目を細めながらその人だかりに向かって小言を吐く。
美少女とやらに興味はある彼だが優先するべきは教室への着席と入学式までの準備である。
ブレずに人だかりに彼は突入した。
生徒をかき分けていくとどうやら美少女の前に柄の悪そうな男が三人立っている様子に史弥は気付く。
「あきらかに何か面倒ごとに絡まれてるな。
俺も巻き込まれないように大人しくここは通り過ぎよう」
不意に史弥の頭の中で昔に母親に言われた言葉がよぎる。
『フミ君はお父さんに似て面倒見が良くて、見過ごせないタイプだもん。お母さんは分かってるからね。
それにお父さんもそうだけど辛い思いをしている人を見て見ぬフリ出来ない。優しいフミ君はお母さんの自慢の息子よ』
──その人にとって迷惑かそうでないかは分からない。
だが、もしここで行動を起こさなければ、少し経った後の自分が許せない。
取り返しがつくことであれば、例え間違っていても良いよな。
後で反省できるから。でも後悔はしたくない。
「やっぱり見過すのは性分じゃない。……フッ、やっぱり俺も父さんとあまり変わらないんだよな」
何処か含み笑い浮かべた彼は進行方向を変え、人だかりの中心に向かう。
近づくにつれ中心で喋っている柄の悪そうな三人組の声が史弥に届いてくる。
「なぁ良いじゃんか、入学式前に場所を変えて少し話そうぜって言ってるだけだしー。なぁケイ? お前もそう思うよな?」
「同感だよ浩介、何を嫌がってるんだよ?」
「その……私は…………そう言うのは良いので…………ここを通してもらいたくて…………」
柄の悪そうな三人の内、取り巻きのような二人が道を塞ぎ、通れずにオドオドしている美少女に言い寄っていた。
最後の一人は取り巻き二人の後方でその様子を見ている。
オドオドしているが美少女は明らかに断っていた。
史弥は溜め息交じりにヤレヤレと思いながら間に割って入った。
「おい、それくらいにしておけよ。明らかに嫌がってるだろ」
少しの驚きを見せた柄の悪い男子生徒──ここでは不良生徒と揶揄できる二人はすぐに嫌悪の表情を浮かべ、突然乱入した部外者を不快に思い排除しようとする。
「なんだお前は? 別にお前には関係ねぇだろ。邪魔すんなよ!」
浩介と呼ばれていた不良生徒は明らかにメンチを切っている。
「あんまり見ない顔だな。とりあえずどいてくんない?」
浩介の状態に呼応してケイと呼ばれていた不良生徒が俺に向かって言葉を吐く。
「関係なくても関係あるんだよ」
もう既に傍観者から当事者になった史弥は内心で面倒毎が肥大化しているのを感じてはいるものの引き下がるわけにはいかなかった。
この行いが後ろの名前も知らない美少女が有難迷惑でない事をただただ彼は祈るのみであった。
「俺達はその子と仲よくしようとしてただけなんだよ。
だから勝手に入ってくんな!
……ん? テメェー右肩に何も入ってねぇじゃん」
史弥が着込む制服の右肩に刺繍がないことに気付いたケイは指摘する。
「何も入ってないなんてプリントミスか? この紋無し野郎が!」
続けざまにケイは罵って放つ言葉の意味に理解を示せずに史弥は首を傾げそうになる。
(紋無し? 何のことだ?)
浩介も見かねて罵声を飛ばしてくる。
「マジでお前なんだよ? いい加減、鬱陶おしいから消えてくんない?」
「嫌だね、この子と一緒にここを通るまでは動かない」
だが史弥も負けじと意思を貫き通す。
擁護されている美少女は相変わらず後ろで挙動不審気味だが、少し体を預けるように史弥の背中の陰に隠れていた。
そうしていると柄の悪い生徒二人の後ろから今まで一言も喋らずに立っていた三人目が前出てくる。
その右手にはいつの間に煌々と炎を立ち上がらせている。
皮肉にも史弥の目にはそれが大道芸や手品の類に見える以外は何の意味も持っていなかった。
だが周囲の生徒達にとってはそれが威嚇の一種であることが理解できた。
その証拠に場の空気が凍るのを史弥は感じていた。
「邪魔だなぁお前。退けって言ってるのが分かんねぇの?
俺が用あるのはその子だからてめーには用ないの。お分かり?」
明らかに見下した態度をとる三人目の不良生徒。
よく見るとその三人目は右肩に黒線で刺繍された六芒星の紋章がついている。
体格は一般高校生並みで髪の毛はしっかり整えられ世間ではイケイケ系お兄さんと呼ばれる分類だろう。
俗にいう渋谷系男子雑誌に写っていそうな容姿をしていた。
「涼! 能力を使うのはやべぇって! ここは能力行使禁止エリアだし、それに風紀委員が黙ってないだろ」
涼は浩介を睨みつけた。
「何ビビってんだよ。
それにお前らがチンタラやってるからだろ?」
指図されたのが気に食わなかったのか史弥にイラついているのかどちらかは史弥には分からない。恐らく両者なのだろう。
浩介も威圧的な視線に怯むが、食い気味だった。
「でもそれで力を使うのは…………」
「あぁ? いつからお前は俺に意見を言うようになったの?」
涼はそのまま浩介を左手で軽く突き飛ばす。
突き飛ばされた浩介はその場に踏みとどまると顔を俯かせ、仕方なくそのまま従う形となった。
「で? お前誰だっけ?」
「須山 史弥。お前は?」
「鈴原 涼。この名前を覚えておけよ。もう二度と生意気な態度をとれない男の名前だからな」
「ずいぶん大きく出るんだな」
「で、お前はその子の何なんだよ?」
「別に何でもない。ただ困ってる子を放っておけないお人好しなだけさ」
「お人好しも度が過ぎると身を滅ぼすぞ。良い機会だからここで学んでいけよ」
「あぁそうかい、なら学ばせてもらおうかな」
史弥はしっかり啖呵を切り、売り言葉に買い言葉の応酬でついに喧嘩沙汰まで発展しようとしていた。
涼は自身の右掌を史弥に向けかけたその時だった。
「お前達そこで何をしている!」
突然野太い声が史弥の後ろから響く。
そして人をかき分けて体格の良い筋肉質な男子生徒が姿を見せ、さらに割って間に入ってくる。
その野太い声を放った男子生徒の顔を見て忌々し気に毒を吐く。
「ちっ! 戦国か」
涼に戦国と呼ばれた男子生徒は巌のような顔付を両者に見せつけ、容姿、声色もあってかこの空間を支配していくような妙な空気があった。
「新入生の教室に用があって向かっていたらこの騒ぎはなんだ! うん……? またお前か涼!」
「関係ないだろ。俺はそこの須山に用が出来たんだよ。引っ込んでろ」
「お前は風紀委員の俺の目の前で力を行使する気か?
この禁止エリアで使うことの意味を分かっているんだろうな?」
そう言った戦国の空気中が振動しているような耳鳴りを感じ取る。
まさに二人は一触即発だった。
だが涼がその向けていた右手を下げる。
まるでその振る舞いは白けたような素振りだった。
「まぁいい。今日はな」
「それに戦国、お前も助かったな。
他の生徒を巻き込まずに俺とヤりあうことは出来ないからな」
涼は身体を転身して一号館の方へ歩いていく。
浩介とケイもそれに続いていった。
周囲で見物していた生徒達も風紀委員が現れてバツが悪そうな顔で離れていく。
どの生徒も顔に取り締まられるのはNGと書かれているように史弥は感じた。
背中を向け、廊下の角から涼の姿が消えるのを見届けた戦国は史弥達に振り向くと声をかけてきた。
先ほどと違って幾分か声色は柔らかい。
「二人とも大丈夫か?」
怪我の心配をするところからこの戦国は史弥達が被害者であることに気付いているのだろう。もしくは涼の相手がいつだって被害者だというのが慣例化しているのか。
「俺は問題ありません。君も大丈夫だよね?」
史弥の後ろに隠れていた美少女はコクコクと頷くと、目まぐるしく変わった状況に思考が追い付いていないようだった。
「あ、あの、須山君、庇ってくれてありがとうございます!」
そう言った美少女は深々と頭を下げてきた。
「あれ、名前教えたっけ?」
顔を上げた美少女は史弥の顔を捉えると質問に答える。
「さっき涼って人に名乗っていたの聞いてたから…………」
「そういえばそうだったな。全然構わないよ。
困っていたらお互い様だろ?」
少しキョトンとした美少女は自然な微笑えみを浮かべ史弥に作る。
垢ぬけたそんな彼女の容姿と相まって心がザワつくのを史弥は覚えた。
(どこかの母親の顔を思いだすな……)
「二人とも知り合いじゃないのか?」
お互い知り合いだと思っていたのか涼を退けた戦国は質問をぶつける。
「この廊下で彼女が巻き込まれているところを自分が見つけて、割り込んだんです」
「そうだったのか。まずは彼女を助けてくれてありがとうな須山君。
俺は二年風紀委員の戦国俊平だ。よろしくたのむ!」
戦国は腰に両手を置き、体格の大きい身体をさらに大きく見せる
「君達の事初めて見た気がするけど、もしかして転校生かい?」
「はい、今年から入学した一年の須山 史弥です」
「私も今年から入学する事になった一年の春山 可憐と言います」
「君たちが転校生の二人か! これはちょうど良かった! 今、君達二人を迎えに行くところだったんだ」
「迎えですか?」
そこで史弥は先ほど割り込んだ戦国の発言を思い出す。
「そうだ! 先生達から君達二人の学校案内と校則の説明を任せられていてね。
何分ニューマンは学校生活で制約が多い。まぁ再確認みたいなものだ。そんなに煙たがらないでくれよ」
戦国は俺について来てくれとジェスチャーを交えて合図すると二人を先導しようとする。
「じゃあ早速立ち話もなんだから本館にある風紀委員室について来てくれ。
そこで学校生活の規則や案内をさせてもらうよ」
「「分りました」」
二人は了承すると、先輩である戦国の後ろにつき、そんな二人を見て戦国は歩き始めた。
廊下を歩き始めると様々な視線が史弥達に向けられる。
正確には先ほど可憐と名乗った彼の隣にいる美少女に。
男子生徒が集まってくるくらいに容姿は特筆している。
そして当然その横にいる史弥と比較されていることだろう。
明らかに釣り合わない男女として、史弥は男子諸君から妬み、嫉みを受けることは必須だ。
先行き芳しくない悩みに彼は頭を悩ましたが諦めの境地に達し、ひとまずは無関心を決め込むことで折り合いをつける。
そんな史弥の悩みの種を知らない戦国は無言な時間を嫌ってか少し振り向きながら話しかける。
何故か、声は体格に似合わず小さめだ。
「そういえばさっき渡り廊下で絡んできた鈴原涼という生徒には二人とも気を付けろ。
この学校に限ってというわけではないんだが、この稲沢高等学校は他校のニューマン教育課程校と比べて、旧人類との差別意識やニューマン内でのアストレイとベーシックとの優劣意識が非常に高い。さっきの涼と呼ばれていた生徒も差別意識が高い生徒の一人なんだ」
忠告する戦国は真剣だった。
史弥はそこで聞きなれない単語について疑問を口にする。
今まで一般人として過ごしてきたが故の仕方ない質問だ。
「すみません。ベーシックとかアストレイって何ですか?」
「あーすまない! 春山さんは元々ニューマン出の学校だったからついな。須山くんは今年からだったな?」
なぜ俺の来歴を知ってるんだ、と疑問に思った史弥だったがここで訊いても話が折れるので今はそっとして同意した。
「まずベーシックとは基本ESP Abilityの内、浮遊・透視・治癒のどれか一つを有している者たちを指す言葉だ。そしてアストレイと呼ばれる者達はこのベーシックに該当しない特殊系統の事を言う」
史弥はそこで気付く。アストレイと呼ばれる語源の意味に。
「だからアストレイなんですね。王道から外れているから」
「そうだ、これがベーシックとアストレイの違いだ」
「それとベーシックには同じ異能力でも力の強弱が決まっている。
それがこの右肩に入っている縦線だ。
本数が増えればその分、力が強いという事だな。
皆、この強弱をAbility level(異能段階)と言っている」
levelは1~3まである。
まぁこれが劣等感の原因にもなっているんだが……」
若干躊躇い気味に戦国は右肩の逆三角形の紋章を見せる。線が三本入っている。
「先に言っておくが、俺はこんな事で優越感に浸ったりなどしない。
友人を選んだり、ましてや差別もしない。あくまで公平な立場で接するからな」
戦国は偏見や能力で差別するような先輩でない事を主張した。
「その方が助かります。
俺も同じことを信条にしていますので」
「ただし! 上下関係はあるからな。
俺と君達は先輩後輩だから、年上は敬うように!」
戦国先輩はあまり慣れていない様子で少し気恥ずかし気に言い放った。
顔は少し照れている。
兄貴感をだしたいのか普段言いなれていない先輩風を吹かせているのが二人には見え見えだった。
逆にそれが戦国の人柄を表しているようで場が和む。
ふいに二人はあまり甲斐甲斐しくもない言動に可笑しくなり笑いを堪える──つもりだったが吹き出してしまい戦国にバレてしまう。
「お、お前ら何笑ってんだ!」
可憐が目尻に涙を浮かべながら答える。
初対面にしては失礼な態度だったかもしれないが戦国の人柄はそれを厳しく咎めることはしなかった。
「戦国先輩って親しみやすいなって思ったんですよ」
「春山さんは俺の事馬鹿にしているのか?」
「いえ、そんなつもりはありませんよ!」
「俺も同感です」
先ほど廊下であったばかりの二人だが通じ合えるのかさらに笑い合う。
「お前らなぁ~!? まあ良い! 好きにしてくれ」
ため息交じりに戦国は諦めて、歩き続ける。
気付けば一同は風紀委員室前に到着していた。
「さぁ着いた。ここが風紀委員室だ」
戦国は風紀委員室の扉を開け、中に入る。
二人も続いて中へ入る。
室内には長方形のテーブルが中央に一つあり、腰を掛けられるように椅子がいくつか置いてある。
さらに奥の窓際に風紀委員長と書かれた名札が卓上に置かれた小さい机が一つあり、壁際には棚とそこに陳列されたトロフィーや様々な書物が並べられていた。
「今日は入学式ということもあって風紀委員は俺を除いて全員が会場整備に出ている。
もちろん君達もこの後は入学式に出てもらう。
さぁーて、早速だが簡単に規則について説明させてもらおうか」
室内に入った二人に向き直ると戦国は校内説明を始める。
「基本的に学内では自由にしてもらって良い。但し、一部エリアでは俺達に規制がある。もう分かっていると思うが、ESP Abilityについてだ」
戦国が言わんとすることは史弥にも一瞬で理解できた。恐らく使用には危険を伴う能力が存在することは世間で公表もされている。もちろんそれくらいの知識は史弥も百も承知だ。
「能力の使用を絶対禁止するエリアが学内には存在し、特定行事中には学内すべてが禁止エリアになる。しっかり覚えておいてくれ」
「逆にそれ以外は能力の使用を許可しているという事ですね?」
「その通りだ須山。逆にその能力を生かした行事や能力制御を目的とした授業も存在する。この学校はニューマン育成学校だからな」
史弥の横で聞いている可憐は常識のように要所要所で頷いていた。
だが史弥にとってはどれもが非常識であり聞きなれないことだらけなのだ。
「それと須山の右肩の紋章についてだ」
戦国は史弥の顔色を窺い見る。
恐らく先ほどの来歴の事もそうだが、事前に史弥の周辺状況を理解しているのだろう。
それを踏まえ彼は戦国へ簡潔に首肯した。
「問題ないです。どうせ皆知る事になりますし」
戦国は短く「分かった」と答えると話を続けた。
「春山さん勘違いしないでくれよ。
実は須山くんはまだ能力の覚醒が出来ていないんだ。
能力が未だに不明という事もあり、紋章が制服に付いてない。
今後は能力の発現によって学校側が紋章を付与する事になっているのが彼の現状だ」
「それで制服に紋章が…………。
大丈夫です戦国先輩。私は人を能力で差別したりしませんので」
「ならいいんだ。良かったな」
安堵の目線を戦国は史弥に送る。
史弥もそれに応じて表情が柔らかくなる。
「ありがとう春山さん。
少しでも理解してくれる人がいて助かった」
それからは施設の簡単な説明とESP Ability禁止エリアの指定エリア説明を受け、風紀委員室を退出した。
風紀委員室を退出し、しばらく二人は教室まで歩いていると可憐は急に立ち止まった。
「須山君。さっきは本当にありがとうございます。
私、あのままだったらどこに連れてかれたか分りませんでした。
自分でどうにかしなきゃって思ってたけど、どうにもできなくて…………、本当になんてお礼すれば良いか………………」
「気にしなくて良いよ。
それと何度も言うけど困ったときはお互い様だろ?
逆に俺が困ったときは助けてくれよな」
気負わないで欲しいと主張する史弥は何か見返りを求めるような人間ではなかった。
それが可憐にとって親近感が湧く原動力に働いたのか嬉しそうに「はいっ!」と返事を返す。
「あ、あと私の事は可憐って呼んでください。
須山君は…………こ、この学校での最初の友達ですから!」
突然小っ恥ずかしいことを言うものだから史弥は面食らってしまう。
こんな美少女にファーストネームで呼ぶことを許可された自分は一体どんな顔をしているのだろうと彼は考慮した。
恐らく情けない顔をしているのだろう。
微妙な間を作ってしまったことが彼女を不安にさせたのだろう、「……嫌でしたか?」
とつぶらな唇が伺うように訊いてくる。
「いや! そうじゃないんだ! じゃあ俺の事も史弥って呼んでくれよ。
この学校の始めての友達って言われるとなんか光栄だな」
ここで史弥は改めて居住まいを正して可憐をしっかり見直す。
突発的な小競り合いのせいで可憐をしっかり見ていなかったが、すごく可愛い。
髪型は左に流したサイドテール。
髪色は若干茶髪で、髪先は少しウェーブしている。
パッチリした黒目、ぷっくらした唇、鼻も整っており小顔だ。
他の女生徒もそうだが制服は黒のスカート、クリーム色のブレザーで胸元には赤のリボンが採用されている。
襟・袖は紺色で横に白のラインが入っており、可愛らしい。
可憐の容姿と相まってまるで綺麗な洋式人形のように、見るものを魅了している
「須山君? どうかしましたか? 私の顔に何かついていますか?」
どうやら史弥は見とれていたようだ。
誤魔化すように彼は、
「いや、何でもないんだ。
それより教室へ行こう。可憐はどこの教室なの?」
話をはぐらかして話題を変えた。
「私は1-Aです。史弥君は?」
「奇遇だね。俺も一緒だよ」
「本当ですか!? さっそく頼もしい人が傍にいてくれて良かったです!」
「俺いちよ無能力なんだよなー…………」
「史弥君は無能力でも他の人に比べて全然頼もしいですぅ!」
そういうとその短い舌を少し出して可愛く言って見せる。
中々にしてあざとい。
彼女は目的地の方向へ向かって振り返る。
「それじゃあさっそ…………」
進もうと言葉を言いかけたが、可憐は急に言葉を詰まらせる。
すると可憐の髪色が茶髪から金髪へ色が変わり、史弥に振り替える。
さっき程の時とは雰囲気が変わり、ピリピリしている。
他者を寄せ付けないような荒々しい気性の粗さを表しているように。
両目の色が変わりオッドアイの赤と青の瞳が史弥をしっかり捉え、真っ直ぐに見つめ返す。目つきは先ほどと変わってキツい。
「あ、あの可憐さん………………?」
「あぁ!? 気安く私を呼ぶんじゃねぇよ! まだあんたを認めたわけじゃねぇんだからな! それとあたしの名前は憐可さんだ!!」
「…………えぇええぇーー!?」
その姉貴肌が板についた美少女に彼は罵倒され、困惑と驚愕が入り混じった声を漏らしていた。




