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異能で無能な俺!?  作者: グラハム・A
入学編 〈上〉
2/32

【変貌の前日譚】

 一九九九年某日。

 五角形が特徴的な建物であるアメリカ合衆国国防総省、通称“pentagon(ペンタゴン)

 その建物内にコンクリートで囲われ、窓がなく、両開きの大きなドアが一つある一室があった。

 中央に楕円形の円卓と囲うように椅子が並べられ、壁には液晶モニターがかけられている。

 会議向けのシンプルな部屋。凝った装飾はどこにもない。


 突然両開きの扉が開かれる。

 体格の良い黒スーツ姿の金髪米国人二人が、左右の扉を室内に押しながら姿を見せると、今度は室内に雪崩れ込むようにスーツ姿の男女が入っていく、

 黒スーツとは対照的にビジネススーツに身を包んでいる。

 各々が着席する中、最後の一人が着席すると扉が閉まる。

 腰かけた男女達はすぐに両隣の者と話し始めていく。

 合間から聞こえてくる言葉は口々に信じがたいと言わんばかりの発言ばかりだった。


「デービット、この資料を信じられるかい?」


 デービットと声を掛けられた男はため息交じりに眉間に皺を寄せながら肩をすくめて見せ、お手上げのポーズを取る。


「信じられるわけないだろグラント。

 この資料は馬鹿げている。我々の国家予算がオカルト研究に割り当てられていたと思うと非常に腹立たしいばかりだ」


 デービットは苛立ちまじりの声色でグラントに言葉を返すと、次に皮肉交じりな冗談を飛ばした。


「まぁこの資料が事実なら、先日パパラッチされた私の浮気相手の名前を世間に公表しても良いくらいだ。事実の話だったらだがね。フハハハハッ……」


 二人は肩を揺らして哄笑こうしょうした。

 すると遅れて扉が開く。

 一人の白髪交じりのスーツ姿の男が入ってくると、瞬間、室内の雰囲気が張り詰めたものへと変わる。

 静まり返る室内。

 着席していた者全員が立ち上がると、どこからかハッキリとした声量で室内に号令が響く。


「合衆国大統領に敬礼!」


 一寸違わぬ動作でその場の全員が敬礼した。

 一同を見渡した白髪の男──大統領は全員に向かって言葉をかける。


「楽にしてくれ」


 休めをかけた大統領は中央の空席に座る。

 上質な革で仕立て上げられた椅子が大統領の体重を受け止め、沈み込むような軋み音を静かになった室内に立てた。

 その様子を見る彼らは大統領の一挙手一投に注意し、大統領が着席したのを見届けてから合わせて着席していく。


「早速だが、皆に緊急の閣僚会議招集を行った経緯については省かせもらう。この問題については早急に対応策を考えなければならない。

 事前に配布した資料に全員、目を通したかね?」


 大統領は見渡し、異論がない事を確認すると続ける。


「これから話す内容について口外は厳禁だ。極秘とする。全員徹底するように。

 まず我々にこの資料を提出した研究責任者を紹介しよう」


 大統領は横に付き従う補佐官に合図し、閉められた扉を開けさる。

 扉が開くと、扉の前で待機していた人物が中へ入る。

 ブロンドの綺麗な髪をストレートに背中まで伸ばし、伊達メガネをかけたビジネススーツ姿の北欧美女だった。

 北欧美女は大統領の横まで歩むと、姿勢を正して口を開いた。


「皆さま初めまして。ESP(超感覚的知覚)研究所所長 ユーリア・ベックマンと申します。

 本日は貴重なお時間を割いて頂きありがとうございます」


 感謝を述べた彼女の口調からは若干の緊張がみられた。

 それもそのはずだった。この室内の大半は各省のトップで構成されている。

 同時に現政権の閣僚であり、合衆国を支えている政治家が着席していたのだ。


「これから彼女と共に我々は来るべき時代の検討を行う。分からない事があれば彼女へ質問をしてくれ」

 大統領は名乗ったユーリアに「続けた前と」促して話を進めさせる。


「本日お集まりいただいたのは、これから先に起こる人類の変革について早急な対応策を各省で行っていただく為です」


 ユーリアは一拍置いた。

 彼女の表情はより一層の緊張に包まれる。

 対照的に閣僚達は辛気臭い顔ぶればかりだった。


「皆様には結論から申し上げます。

 “我々人類はこの一年以内に異能力に目覚めます”」


 会議室内がざわめき始める。ある者は冷笑し、またある者は取り合うのを馬鹿らしくしている。

 そんな様子を予想していたのか、あまり大きな動揺は彼女にはなかった。

 深刻な面持ちのままである。


「皆様が疑われるのも無理はありません。

 ですがこれは事実です。事前にお渡しした資料に目を通して頂けたのなら理解できるはずです」


 そこで先ほど資料について批判を述べていたデービットが割り込む。

 口調は強く威圧的で強張った顔だ。


「馬鹿馬鹿しい。

 こんな与太話をする為に大統領へ緊急閣僚会議を開いかせたのか、君は!

 我々も暇ではないのだよ!!」


 取り合おうとしない強い物言いのデービットに対して動じず、皮肉っぽい含みを持たせユーリアは発言する。


「何かご不明な点でもありましたでしょうか? デービット()()()()()()()()


 それがデービットを逆撫でさせ、苛烈に声を荒げさせる原因となった。


「そもそもESP研究所などという機関は聞いたことがないぞ!

 Flyng(フライング)human(ヒューマン)(空飛ぶ人)? Clairvo(クレヤ)voyance(ボンス)(透視)?

 我々を馬鹿にしているのか! ここは君のふざけたオカルト研究を発表する場所ではない!」

 激しい叱咤を見せたデービットはさらに続ける。


「我が国は現在も多くの問題を抱えているのだぞ! それもうちそとにだ! 我々はその責務を果たす為にここに来ているのだ!」


 言い切ると大統領へ目線を向け、「このふざけた学者を摘まみ出して下さい!」と懇願する。

 だがそうはならなかった。

 それまで閉ざしていた口を大統領は開きなだめたのだ。


「落ち着くのだデービット。

 まずはESP研究の発端から聞いてもらえないだろうか?

 君達には私と同じ()()()()()()()()()()()()


「しかし、こんな下らない話など…………」


「デービット」


「わ、分かりました…………」


 納得のいかないデービットだったが大統領から放たれた圧力を感じ、押し黙る。

 デービットをたしなめ、大統領はユーリアへ説明を続けるように促す。


「ユーリア所長、説明してくれたまえ」


「了解しました」


 ユーリアは一拍置いてから閣僚全員に向かって語り始める。

 大統領が鎮めたデービットを含め、閣僚達は耳を傾けて聞き入っている。


「この研究が始まった事の発端は、第二次世界大戦まで遡ります。

 大戦中だった我が国はドイツ領土への侵攻中、とある資料を接収しました。

 当時のナチスにやよる非人道的な人体実験の資料です」

 皆さまもご存知かと思いますが、ナチスは非人道的な人体実験を行っていた歴史があります。

 大戦終戦後、実験内容は公表され、世間に広く知れ渡る事となります。

 ですが公表された実験は “一部”であり、すべてではありませんでした。

 そして歴史から欠落したLost(ロスト)Number(ナンバー)(欠落した資料)が、私が所属する機関の前身となる部門の創設に繋がるESP研究と呼ばれるものになります」


 閣僚達は歴史に欠落した史実がある事に、若干の興味を示し始め、彼女の次の言葉に耳をさらに傾ける。

 デービットだけは胡散臭そうな顔を変えていない。


「大戦中、ナチスはこのESP研究をスーパソルジャー計画と呼び、連合への戦略プランの一つとしていました。

 当時、指揮を執った司令官はこの研究に興味を示し、ESP研究が進めば一人の兵士でより多くの戦果をあげ、戦術の幅を革新的に広げ、今後合衆国は絶大な軍事力を手に入れると考えて本国へESP研究を引き継ぎました。

 この研究はナチス政権崩壊後、全ての資料を接収。

 さらにドイツ同盟国日本の七三一部隊(生物兵器研究・開発機関)でも同様の研究が行われており、実験データ及び亡命高官を吸収。

 我が合衆国が現在までその先駆者となり、引き継いできたのです」


 秘匿されてきた史実を知った閣僚達はざわめき始める。

 彼らが問題しているのは旧ドイツ、ナチスの忌むべき研究を引き継いでいる事実だった。


「今日まで我々の存在が隠匿されてきたのはこの事実による、世論の批判を避ける為。当時の総司令官・及び大統領により、極秘研究として命令を受けて今まで継続してまいりました。

 そして、現政権内でこの機関の所在を知るものはただ一人を除いていません。それがここにいらっしゃる大統領となります」


 さらに飛び出した事実に、デービットは呆れ顔で大統領に確認する。


「この研究をご存知だったのですか…………?」


 大統領の表情は落ち着いていた。

 動揺と呼べるものはなく、その時が来たのだと観念したように言葉を紡いでいく。


「知っていた。前大統領から極秘裏に継承していたのだ」


 注目が大統領へ集まる。

 閣僚達の視線は様々だった。

 不信、失望、疑念。様々な思いが込められ突き刺すように向けられている。


「皆にはすまない。

 君達の事は信頼しているが、この研究が明るみにでれば国際的な避難は確実。

 絶対に漏洩は出来なかったのだ」


 閣僚達は全員が複雑な顔をしていた。

 立場と板挟みになった大統領の気持ちも察せれるからだろう。

 ここで次に口を開いたのはデービットだった。


「これまでの経緯は分かった。だがそれがどのように関係して人類が異能者になっていくのかさっぱり分からんよ。我々に分かるように説明してくれ」


 デービットはユーリアへ向き直り、机に置かれた分厚い資料を指さして政府高官でも難解な資料に対して解説をつけるよう催促さいそくする。


「ユーリア所長、彼らに説明してくれ。

 皆、これから話すことが本題だ。しっかり聞いてくれ」


 大統領はユーリアに資料内容の説明を促す。

 彼女は『了解しました』と短く頷くと話し始める。


「事前に配布しておりました資料は研究者向けであったこと、お詫びします。

 ここらからは要点のみを掻い摘んで説明します。

 まず我々の脳には未使用領域があることはご存知でしょうか?

 今まで脳科学において脳は特定の領域のみがフル活用されているのではなく、機能ごとでメインとなる領域を変えながら、全体的に使用している事までは解明されていました。

 ですが実際に脳のどれ程の割合が使用されているのか、あるいは、脳は百パーセント使用されているのか、答えられる学者はいませんでした。

 そして、ESP研究もこの未使用領域が鍵となっておりました。

 端的に申し上げますと、ナチスより引き継いだスーパーソルジャー計画とは、脳の未使用領域を特定し、未開拓の使用領域を人為的に拡張することで起きる現象を軍事転用しようというものなのです。

 そして我々はそのプロセスを完全に解明し、ESP Ability(特異能力)と呼称しています」


 ユーリアはここまで冷静な口調で話していた。

 だが、彼女は次の言葉からその表情に曇りを見せ始める。


「今回の研究にてESP Ability発現には放射能が大きく関わっております。

 能力を発現させる条件は特定量の放射線を脳に照…………

 わかりやすい言葉にしますと脳を被曝させる事なのです。

 結果、被験者は透視や空中浮遊などの超常的な現象を任意で起こせるようになったのです。

 では、ここからが本題です。なぜこれが全人類に関わる事なのか。

 現在、我々を頭上から照らす太陽は絶え間なく宇宙空間に大量の放射線を常時放出しており、NASA(国際宇宙センター)はその活動観測を行っていました。

 そして数日前より非常に活発な動きを観測しております。

 NASAはその被曝量が人体や自然にどのような影響を起こすか専門機関及び関係省に報告、我が研究機関もその観測結果を極秘に受け、被曝量を当研究過程における被曝量と照らし合わせたところ、能力発現量と断定しました。

 その放射線量が地球圏に到達するのはNASAの予測によると七日後………………」


 彼女はこの報告で、全人類の経済活動、生命活動に対してどれ程の影響を及ぼすのか、想像を超えている状態だった。

 故にその表情には暗い陰りしかない。


「我々人類は目前に変革を迎えようとしているのです」


 言い終えた会議室内は微妙な空気に包まれていた。

 それもそのはず。突拍子もなく浮ついた話の連続で思考が追い付いていないのが関の山なのだ。

 確かに差し迫った内容ではあるが何処か遠い話、危機感に欠ける話しなのだ。

 しばらく黙っていたデービットが声を上げる。


「ユーリア君、発言してもかまわないか?」


『どうぞ』とユーリアは言葉を返すとデービットは続ける。


「今回の件で起こる人類へのリスクは?」


 デービットの表情は真剣そのものだった。

 国土安全保障長官という立場が彼をこの質問に駆り立てたのか、それとも一人類としてはなのか、この室内にいる者は分からなかった。

 だがこの質問は的を得ていたようだった。

 証拠にユーリアは疲れた表情で答えあぐねている。

 しかし時間は待ってはくれない。

 ゆっくりと彼女は解を口にした。

 深刻な事実を。


「…………突然変異に耐えられるず、一部死滅します」


 閣僚達はこの議題の重要性に少しずつ気付き始める。

 何処か俯き気味な顔のユーリアはそれ以上の何も言わない。

 まるで考えたくもないように。

 デービットに緊張が走り始め、冷や汗が頬を伝う。


「君の予想する死者推移を教えて欲しい」


「私見ですが人類の二割強かと…………」


 閣僚全員が反応を示し、ザワつき始める。


 ──そんな馬鹿な!? 二割強だと!?

 ──我々人類への神の選別なのか……、なんて無慈悲な……


 中でもデービットは血の気が引いていた。

 現在の世界人口は六十億人。

 七日後に人類はランダムで突然十二億強が死亡する。

 第一次世界大戦では約三千七百万人、第二次世界大戦では約八千五百万人近く犠牲者を出した。

 しかし、その数が霞んでしまう程かけ離れた数字。

 人類史史上最大の災害。

 誰もが恐怖する事実だった。


「今回の件、君が話した研究や我々が直面している事態を理解した。

 だがそれでもあまりにも突然の事で私は俄かに信じがたい。

 皆、そう思わないか?」


 デービットは皆の顔を確認し、閣僚達は頷いた。


「何か確証はないのかね?

 例えば、“ 実際にESP Abilityを我々に見せる”とか」


 デービットからの提案は施設へ連れて行けと同義になる。

 ユーリアは困惑気味に大統領を横目で見る。

 視線に気づいた大統領は何かに対して首を縦に振った。

 同時に回答はユーリアの口からではなく大統領から放たれる。


「無論そのつもりだ。

 ユーリア所長、説明ご苦労。ここからは私だ。

 先ほどの説明のみでは信じがたいのも事実。

 私もそう思い君たちをESP研究施設へ最初から案内しようと思っていたところだ。

 実際に見た方が、話が早いからな」


 大統領は閣僚達に告げる。


「全員、エアフォースワン(大統領専用機)に搭乗後、研究施設へ移動する」


 言われた閣僚達は移動を余儀なくされ立ち上がる。

 信憑性が掴めないままだが、すべては研究所についてから答えは得られると信じて。

 そのなか一番重い腰を上げたデービットは大統領へ質問する。


「まだ聞いていないのですが、何処へ向かうのですか?」


 呼び止められた大統領は答える。


「ラスベガスより北北西約二百キロ、我がアメリカ合衆国ネバダ州リンカーン群にある。

 君もゴシップを読んだ事があるならよく知っているんじゃないか?

 オカルト愛好家の間では宇宙人の研究施設と呼ばれる場所だ」


 大統領は何かを思い出したのか苦笑いを見せる。


「ゴシップも馬鹿にならんな。

 ()()()5()1()。それが研究施設の名称だ」


 デービットは返された答えに神妙な面持ちになり、呆けて立ち尽くしていた。

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