【目覚め】
⇨New 2019.10/16 C97に向けて本作を自費出版決定!大幅加筆・修正、三人称から一人称へ変更で出品予定!
こちらも出品後は製本版と同様に修正されます!
イラストレーター様に作成して頂いた挿絵、表紙も付きますのでそちらも宜しくお願いします!!
こちらはキャラクターラフ絵になります!
須山史弥──本作の主人公
春山可憐──今作のヒロイン
鈴原涼──???
二〇三十年四月一日。
薄暗い部屋の中で目覚まし時計は設定されたアラームの時間を目指して針を動かしていた。
だがそれよりも早く少年は眠りから目覚めた。
そしてベッドから起き上がり、窓のカーテンを開ける。
「明るいな、まったく…………」
窓から見える景色はこの街を照らすために日が登り始めている最中だった。
目覚まし時計を見て、朝の五時半だと認識し、学校の準備をすることにした。
──午前六時三十分。
二階の部屋を出て、一階のリビングへ降りる。
階段を降りていくと微かに一階のリビングから物音が彼の耳に伝わってくる。
仄かにトーストが焼ける香ばしいにおいと共にだ。
階段を一段一段下がるたびにその音とにおいは増していく。
「母さんだな…………」
呟いた彼は一階の扉を優しく開ける。
同時に台所に立っている女性と目が合う。
「フミ君! おはよ~~」
のほほんとした雰囲気を醸し出し、挨拶をするこの女性は母親だ。
息子の彼から客観的に見てもかなりの美人だった。
髪は少しウェーブがかかったロングで、癒し系美人である。
時折魅せる笑顔は御近所でも評判で特に殿方達を魅了し、骨抜きにしている。
しかし、その殿方が独身か既婚者なのかは別の話。
御近所さんの夫婦喧嘩の種になぜか母親がいることも少なくないという。
それはさておき家事もでき、優しい。
この調子であれば学業もそつなくこなした事さえも伺える
まさになにもかもパーフェクトな母親だ。
それに加え、その若すぎる容姿は異常なのだ。
大学生に見える程に。
姉と間違われることもある。
実年齢はいまだに実の息子にも中々教えてくれず、その理由は『知らない方がみんな平和ですよ~?』だそうだ。
──母さん、全く意味が分かりません。
母親の不可思議な言動を思い出し,内心でツッコミを入れた彼は母親にすかさず挨拶を返す。
「おはよう母さん」
母親はいつもの朝の挨拶を聞くと、朝食づくりに戻る。
右手に持っていた卵焼きとウィンナー、サラダが盛られている皿をテーブルに置いていく。
どうやら今持っていた皿が最後の分らしく、家族四人分がセットされていた。
テーブルには今の皿の他にコーヒーと、先ほどの階段で漂ってきた匂いのトーストも並び、朝食の王道は全て揃っている。
それらが並ぶテーブルの一角に用意された椅子に少年は腰掛ける。
「もう少し待ってね。お父さんに美愛ちゃんも、もう少ししたら起きてくると思うから」
彼は頷き、家族が全員揃うのを待った。
するとリビングに年相応の中年男性が入ってくる。
「おはよう史弥」
「おはよう父さん」
リビングに入って来た平凡な容姿で落ち着いた雰囲気の中年男性は父親だ。
職業は普通のサラリーマン。
家ではパッとしない人だが、どこか頼りがいがあり、信頼できる人物でもある。
母親が言うには社内で行動力があり、部下に信頼されているそうだ。
昔、会社に入社したばかりに就いた上司の不正を正し、社内での一大プロジェクトを成功に導き、学生時代に帰宅途中だった今の母親を不良から助け、それがキッカケで知り合ってもいる。
自分の知らない所で父親は人徳を遺憾なく発揮しているのだ。
しかし、彼の見える範囲の父親は自宅でいつもゴロゴロして、貫禄がまるっきり感じられない。
良い意味で完全に自然体。
悪い意味で牙を抜かれた虎。
そしてその年齢は四十歳。
父親と母親は結婚する前から同じ高校で三年間同じクラスだったと、父親からこっそり少年は聞いていた。
ここで母親も同い年なので年齢が確定する。
(まぁこんなこと母さんに言ったらどうなるかわからんから言わないけどね)
父親の後から美幼女もリビングへ入ってくる。
「おっはよぉ! お待たせ!」
太陽のような笑顔でショートヘアーに若干寝癖を残す美幼女こと、妹の美愛は元気に少年からみて右の椅子に着席した。
着席する時に勢い余って少し左肩が彼にぶつかり、
『えへへぇ~…………、ごめんね?』と純粋無垢な笑顔で謝罪する。
彼は心の中で誓う、この妹の笑顔を守りたいと強く。
同時に母親への感謝を述べていた。こんな可愛い妹を産んでくれてと。
少年は朝の可愛らしい一連の動作に頬を緩ませた。
真横に座った妹はそんな兄の顔も知らず、ソワソワとしつつも興奮したような落ち着きない様子だ。
「美愛、新学期が楽しみなのかい?」
兄である彼の問いかけに美愛は元気な返事を返す。
「うん! 小学五年生になったんだよお兄ちゃん! 一つまたお姉ちゃんになったから他の子の面倒いっぱいみるんだ!」
「おぉ、偉いぞ! でもお姉ちゃんになったなら次からゆっくり座るようにしないとだめだぞ? 大人のレディは落ち着いて御淑やかにするんだから」
彼は美愛に優しく諭す。
すると行儀よく座りなおした美愛は胸を張る。
「しまった! 美愛頑張るね!」
そんな愛らしい所作に兄としては抱きしめて愛でてしまいそうだったが堪えて尊厳を保つ。
兄妹の様子を見ていた母親が微笑ましい表情でこちらを眺める。
「本当に仲良しね~、お母さんなんか妬けちゃうわ~」
さらに父親も母親の左の椅子に着席する。
「よっこいしょ、待たせて悪かった史弥、母さん」
全員が向かい合いながらの食卓。
家族が一同に会しての食卓はこのご時世少ないだろう。
「さあ全員揃いましたし、早速頂きましょう。頂きます!」
母親は手を合わせる。
家族も続いて手を合わせた。
「「「頂きます」」」
食べ始め、父親が脈絡もなく、話し始める。
「最近疲れっぽくなったかな、昨日なんか夜中に母さんが迫っ……、げほっ……」
気付けば父親の脇腹に肘が入っている。
少年は母親へ同情を送った。今のは父親のデリカシーに欠ける発言だからだ。
父親の横の席から不穏なオーラが流れる。
表情が少し赤く見て取れた。
「な・に・か・言いましたかお父さん?」
「……いえなにも」
父親が面食らって押し黙る。
「フミ君や美愛ちゃんの前で、そういうこと言うの、やめてくださいお父さん!」
母親は朱色の頬を向け、叱りつけるように抗議している。
「すみません……」
父親は申し訳なさそうに言葉を返す。
もはや威厳が皆無であり、見慣れた光景となっている朝のやりとりを片目に彼はコーヒーを啜った。
(最初から言わなければいいのに。それにしてもほんと仲いいな。正確には昨日の夜からか? これ以上は深く考えないでおこう……)
そうこうしていると美愛が兄の袖を軽く数回引く。
戸惑いを露わにした表情を浮かべ彼に尋ねる。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん。お母さんとお父さんは何をしてたのぉ?」
十一歳児の唐突で際どい質問に少年はバツの悪そうな顔になる。
理解させてしまうと精神衛生上に良くないことを鑑みるとニュアンスをぼかさなければならない。
好奇心の強い小学五年生を誤魔化す妙案を彼は思考した。
「良いか美愛。お母さんとお父さんは夜中にプロレスごっこをしていて疲れているということだ」
美愛は首を傾げて疑問を呈する。
「どうしてプロレスしてたの? しかも夜中に?」
さらに追及は続く。純粋無垢な好奇心の眼差しが誤魔化す彼の心を痛めたが、妹には知識が早すぎると戒め、抑え込む。
来る精神年齢を迎え、知るべき知識であって今知るべきではない。
「うーん、そうだな。二人の家族愛を確かめる為かな?
美愛もお母さんとお父さんが好きだろ? そういう事だ」
愛という言葉を使用しオブラートに包み、表現方法については一切触れない。
最後は察してもらい小学五年生の想像力に委ねる。
なんとも他力本願である彼に両目を閉じて瞑想した妹は何か閃いたのか納得顔になる。
「わかったよお兄ちゃん!」
両親の前に向き直ると美愛は笑顔で告げた。
「お父さん、お母さん! 美愛もプロレスする!!」
──ごめん母さん、父さん。フォロー出来なかった。あとは任せます。
少年は匙を投げた。元より父親の失言が原因でこの事態を招いたのだ。
最後は元凶が解決するのが筋であると、今は他人事のようにコーヒーを一口含む父親に視線を向けるのだった。
さらに母親は顔を真っ赤にさせ、茹蛸のようになる。
恥ずかしさが極限に達して湯気が見えそうなレベルだ。
容姿も相まってより虐めたくなってしまうのは男性としての性なのだろうか、少年は可愛いらしいと思えてしまう。
「……ズゥー…………」
母親を横目に父親はコーヒーを飲みながら聞こえていないフリをしている。
収集付かずで話が流れるのを待っているような素振りだった。
お通夜のように静寂が場を支配し、全員が俯いてやり過ごそうとする。
逆にその行動が美愛を困惑させてしまう。
全員の顔を見渡しながら可笑しなことを言ったのだろうか頭に疑問符を浮かべる姿に解決の糸口を彼は掴めないままだった。
結局、少年は話しを逸らす方向性で答えを差し向ける。
「美愛。大人じゃないとプロレスは怪我しちゃうだろ? 今の美愛じゃ危ないって事。分かるかい?」
美愛は疎外感を感じ、今にも泣きだしそうな表情だったが、理解してすぐに顔を明るくする。
今回は純粋無垢であるがゆえの彼女に救われる形となった。
「それなら美愛も大きくなったらプロレスするね!!」
若干、父親がコーヒーを咽らせる。
母親は絶句している。
彼はそれ以上何も言わない。苦笑を浮かべる表情からは諦めが滲み出ていた。
何年後かの両親に情操教育を丸投げした時、父親が遅すぎる切り替えを始める。
「そ、そうだプロレスで思い出した! 最近は色んな格闘技が増えたよね!
そうだよね? オカアサン?」
「ソ、ソウネ! オトウサン! 増えたわね!
特に最近はNBCなんてものが流行っているわよね!」
片言交じりが違和感を強調するような見え透いた話のすり替えを行う両親に少年は冷たい視線を送るがどうやら押し切るつもりのようだ。
だが十一歳児は気にも留めずすぐ釣られた。
好奇心が勝ったのだ。
「NBCってなぁに?」
美愛はNBCへの興味を口にする。
少年は手元の皿に盛られたソーセージを口に運び、咀嚼すると答える。
「NBCは新人類であるNew Millennium Human略して“ニューマン”が決められたフィールド内で能力を使って、相手を気絶もしくは戦闘不能にした方の勝ちって格闘技の事だよ」
簡潔にNBCについて説明をした。
細部まで説明するとNBCとは耐熱・耐衝撃スーツを着た選手が異能力や格闘技を交えて行う総合格闘技の事で、レギュレーションによって異能力がクラス分類され、同クラス内で対戦を行う。
基本的には殺傷能力がクラス分類に影響し、同クラス内、序列一位をキープし続ければ、上位クラスへの挑戦権が与えられる。
だがクラス分類されている時点で能力差は歴然としており、過去一度も上位クラスへ進出した選手はいない。
トーストに嚙り付こうと横目で妹を見るとキョトンとした表情を表していた。
「ニューマンって超能力が使える人たちだよね?」
「そうだよ」
彼は同意する。
超能力と美愛は言ったが、世間では色々な呼び方がなされている。
異能力、魔法、怪異、等々。
それは人智を超えた現象。
総称してESP Abilityと呼ばれることが定着している。
科学の力で解明されつつある能力だが、それでも解明が難航している能力は多数存在し、未だ謎の多い力だ。
「いいなー、美愛も超能力使ってみたいなぁー、だってお空を飛んだり、透け透けで物がみえたり、するんだよ? ほかにもいろんなことが出来るから人助けいっぱいできるじゃん!」
美愛は天使のような笑顔を彼に向ける。
だが彼はその笑顔に応えることが出来なかった。
世界が他者を思い遣る心遣いに溢れていれば平和で幸せだっただろう。
しかしそうはならなかった。
人智を超える力に人々は恐怖し、危惧したのだ。
やがてその感情は伝播し、迫害という形へ変貌する。
日常生活が脅かされるのではという根も葉もない思想が世界的に広まり、差別が始まる。
世界ではこのことを旧人類の恐慌として"オールドショック"と呼んだ。
異能力を世界は弾き出したのだ。
その一つを除けば同じ人間であることに変わりない。
「お兄ちゃん難しいこと考えてる?」
そこで美愛に指摘され、少年は食べる手を止め、考えに耽っていることに気付く。
「ごめんごめん。お兄ちゃん入学式だから緊張してるのかも」
はぐらかして彼は作り笑いを浮かべる。
──俺にそういった偏見はない。実際に話し、接していけば分かる。
何も一般人と変わらない事に。
現在は早期に各国の政府がインフラ整備を行ったことで、多少は緩和し、安定していた。この日本も同様だ。
「そうなの? じゃあ美愛がおまじないしてあげる!」
美愛は指切りげんまんのポーズでよく使われる小指を差し出してきた。
その指に彼は小指を絡める。
「痛い痛いの~あいつに飛んでいけ!」
美愛は頭上の虚空に向け、史弥の小指ごと振り解いた。
「これは何?」
「美愛が考えたおまじないだよ! 今、同じクラスの男の子に痛い痛いの飛ばしたから!」
「その飛ばされた男の子が可哀そうだからだめだろ?」
ついでに言うとどこも痛くないのだが、と少年は心の中で呟いた。
元気で活力みなぎる圧を放つ妹は唇を尖らせて抗議する。
「えー、でもその男の子がよく美愛に意地悪するから仕返しで飛ばしたんだよー」
「「その話し、詳しく教えてもらっても良いかな?」」
少年と父親の声がハモリ、妙な殺気を放ち始める。
二人の表情は笑っているが目が笑っていない。
「もぉ~、二人ともふざけてないで早く朝食食べないと遅刻するわよ」
母親がそう告げ、少年はリビングの時計へ視線を向けると家を出ないとまずい時刻へ指しかかっていた。
「ほんとだ! 急がなきゃ!」
気を取り直して少年は朝食を済ませていく。
そんなこんなで騒がしい朝食を終え、彼以外の家族が身支度を始める。
父親は仕事。母親はパート。美愛は小学校の登校準備。
それぞれが今日の準備をしていた。
その中で身支度を家族で一番早く済ませている少年は玄関先で靴を履いていた。
真新しい制服に身を包み、今日から晴れて高校生になる少年は入学式へ向かうために片道一時間の電車通学をする。
そのため家族の誰よりも早くに家を出なければならない。
「遠いな」
少年は悪態をつく。
彼が決して自ら志望した高校ではなかった。
本来の志望校は自宅の近辺にある。
しかし彼が入学できる条件の高校はその場所にしかなかったのだ。
すべてはあの診断が──
「フミ君、忘れ物ないわね~、財布と定期はある? あとケータイ!」
意識を戻された少年の背後に母親が立っていた。
「全部持ってる。あといい加減高校生になったんだから、フミ君じゃなくて史弥って呼んでよ」
「フミ君はフミ君でしょ! 変えません!」
母親は頬を少し膨らませる。
自然に行っているのであれば、まさに小悪魔。ワザとならまさにアザといとはこの事だ。
「あと最近、物騒な事件が増えてるから気を付けてね。
特にニューマン失踪事件とか増えてるそうだし……」
「まさか俺が狙われる訳ないよ。でもいちよありがとう母さん」
そうこうしていると美愛も見送りに奥から現れる。
「お兄ちゃん! 行ってらっしゃい! 新しい学校頑張ってね!
あと帰ってきたら美愛のお勉強に付き合ってね……?」
靴を履き終え、立ち上がった少年に上目遣いで訴えるその瞳に抗う術はなかった。
何処の誰かから受け継いだであろう小悪魔的な素質に兄である彼は戦慄を隠せない。
妹の行く末に男として恐怖を覚えつつ「あぁ」と了承すると、新学期を迎える美愛にも激励を返す。
「美愛も新学期頑張れよ! お兄ちゃん応援しているからな?」
「ありがとお兄ちゃん!」
美愛の可愛らしい返事を聞き終え、二人に「行ってくる」と告げて玄関を出た。
外は少し肌寒く、吐息を吐くと空中に白い煙が見える。
“須山”と掛けられた表札の門を通り過ぎる。
道のコンクリートの亀裂から芽生えるつぼみが開きかけている。
少し春は先だと感じさせているようだった。
しばらくそんなことを考えていると駅に着く。
これから乗り換え含め片道一時間の電車通学の始まりだ。
そして始まる高校生活三年間に気を引き締めていこうと少年は胸に固く誓った。
「でもなんで俺がニューマンなんだ…………?」
懐疑的な言葉をその虚空に呟いていた。




