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異能で無能な俺!?  作者: グラハム・A
入学編<下>
29/32

「救援と淡い何か」

 史弥から反応出来ないスピードで拳が繰り出される。

 西条がそれを知覚したのは左頬を掠めた後だった。

 そのまま急に足に力が抜け、崩れ去るように尻餅をつく西条。

 呆然と史弥を見上げて顔面は蒼白──血の気が引いていた。

 その呼吸は息が止まっていたのか、尻餅をついてから少し荒く微かに聞こえ始める。

 西条が殴られると思っていた攻撃はわざと外されたのだ。


「お前をどうこうしたって苦しめられた人達の失った時間が戻る訳じゃない。お前の小さな承認欲求を満たすためにどれだけの人が苦しんだかを考え続けろ。今は見逃してやるがこの程度じゃ次は済まさない」


 力の入らない脚を西条は見つめると俯いていた。

 その様子を史弥は見届けると、翻して麗華の元へ向かう。

 今はこの非力で臆病な少女に構っているよりも重要な使命がある。

 史弥は冷たい床に倒れている麗華にすぐさま駆け寄ると膝をついて容態を確認した。

 衣服は皺くちゃになり、ブラウスを胸元で止めるリボンははだけてそのキメの細かい白い肌が胸元から男子を魅力するように露わになっている。

 下半身に纏う黒タイツも所々断線していて、艶かしい雰囲気を漂わせて史弥を悦に陥れてしまいそうだった。

 (かぶり)を振って邪念を振り払う。

 麗華の全身を冷静に、無心で、客観的に観察すると特に目に見える範囲で出血などの外傷が見受けられないことにひとまずは安心する。

 だが目に見える範囲が全てではない。服の内側で怪我を負っている可能性もある。

 史弥は麗華の上半身を抱え起こすと呼びかけた。


「会長、しっかりしてください!!」


「…………ッツ!、須山くん……か? どうしてここに…………」


 閉じていた瞼をゆっくり開き、麗華は史弥の姿をその瞳に映す。

 弱弱しい姿は普段の姿からは想像もできない様だ。


「今はそんなことは良いですから、痛むところがあれば教えてください! みんな会長の事心配してるんですから」


「ハハ……そうか、みんなに悪いことしたな……本当にすまない……………………全身痛むかな……」


「全身打撲ってところですか……ひどくやられましたね。

 無理はしないでください、立てますか?」


「なんとか…………ひゃッ!!」


 史弥が優しく介抱しようとした時、突然、奇声のような可愛らしい悲鳴を史弥の胸の中で麗華は上げると頬は朱に染まり、赤面して胸元を隠すように両手で覆った。

 脚を閉じ、黒タイツの所々から見える肌が妙な背徳感を演出し、羞恥心を含んだ表情で目を潤ませて史弥を凝視している。

 もちろん気にしているのははだけてあられもない姿を晒したことだ。


「いや、勝手に直して良いものか判断に困りまして、えぇ…………」


「み、見たな……?」


「…………その……はい……見ました…………」


「────!!」


 麗華はさらに茹蛸のように赤面する。

 明らかに不可抗力だった。

 どうしても史弥の瞳に、視界に入るのは必然だ。

 年相応の少女のように可愛らしく問い掛けると史弥を潤んだ瞳がさらに見つめる。

 改めて史弥は再認識する。生徒会を指揮する代表として皆の前では気丈に振舞ってもこの人は一人の少女に──乙女であることに変わりはない。

 いくら自分を律したところで根本は変わらない。

 寧ろ今までが大人び過ぎていたくらいだと。

 それほど史弥から見て、今の彼女は儚く映っていた。

 そう史弥は思うと麗華を急に愛おしく感じてしまう。

 だが同時に卑劣な所業が行われようとしていた事実に胸が痛んだ。


「…………すみません。見るつもりはなかったです。それにもうちょっと俺が早くここに辿り着けば、こんな姿にさせなくて済んだのに…………」


 史弥は申し訳なく頭を下げ謝罪した。

 本来なら史弥に非などない。むしろたどり着けたことを褒められても恨まれることはない。

 それでも自分の至らなさを口にしないと史弥の中で渦巻く遣る瀬無い感情を潰しきれなかった。

 予想外の史弥の謝罪に戸惑うも麗華は先程よりは落ち着きを取り戻し、紅潮が収まり始める頬のまま微笑む。

 元々責めるつもりなど毛頭なかったが、真摯な史弥の態度が麗華の羞恥心をいち早く薄めさせてしまう。


「まったく君は本当に優しい…………彼女に好かれるのも頷けるよ」


 ◇◇◇


 彼女にとってこんな屈辱は初めてだった。

 付き随い労われることに喜びを感じていた中で、直言を言ってのける人間が現れたのはこの人生で記憶するところ、これが最初だ。

 相手の五感を支配下におけるセンス・ジャックの優越感で手を下さずとも相手をねじ伏せられる高揚感。

 視界を奪う、聴力を塞ぐ、触覚を感じない、味覚を麻痺させる、嗅覚を狂わせる、人間が感じ得れる情報を掌握して使い方によっては相手の生命の危機すらも脅かす無欠の特異能力。

 この世で逆らえない人間などいないと自覚し、自身の能力特性を把握した瞬間から特別だと西条は己の存在を揺るぎない自信で満ち溢れさせた。

 西条は未だに制御できない足腰を竦ませて、史弥を見上げる。

 この立ち位置も初めてだ。

 見下げることはあれど、見上げるのは今までない。

 だから込み上げてしまう。

 これほどまでに侮辱と惨めで、我慢できないほど腹立たしいのを。


 左頬を空気が掠めた感触を思い出すと背筋に悪寒が走り、自分が助けられたと実感する。

 これも屈辱だ。

 情けで外された拳撃に胸焼けして吐きそうなほど不快にさせられる。

 その醜いまでの瞋恚しんいを西城は史弥へ向ける。

 ────そこに立ち、情けをかけるのは私であって、お前ではない。

 西条は怯えていた瞳に怒りの炎を灯すと苛烈させ、劣情を燃え上がらせる。


 史弥が翻したのを見届けると、止まっていた思考が戻ってくる。

 史弥の鋭い眼光から外れて恐怖から解放され、沸々と憎悪の感情が湧き出ると汗ばんでいた手に力が、脚に活力が、顔に血色が戻ってくる。

 その時、倒れていた配下の生徒と僅かに目があった。

 史弥に倒された二人目の生徒だ。

 二発目の史弥の攻撃は西条が一瞬視界を奪ったことで距離感を失い、正確な力加減を損なっていた。

 それでも一瞬意識を消失したが、まだ配下の生徒を完全には意識を刈り取られてはいなかった。

 数秒感、脳内がスパークしたようなホワイトアウトをくらい、完全に落ちる前に意識を留めると彼は息を潜め、倒れながら西条の様子を視線で伺っていのだ。


(──起きるのが遅いわよ、このグズが。でもこれであいつの不意をつけそう。良いわ、従順な貴方を使ってあげる)


 不意に天井部が老朽化して酷く脆いことを知っていた西条は亀裂の入った天井を素早く見てアイコンタクトを送る。

 訴える目線のメッセージを受け取った配下の生徒は西条が写す視線の先に気付き、天井部を見ると視線を西条へスライドする。

 戻った視線に対して小さく西条は頷く。

 倒れ臥す配下の生徒は状況を理解し、西条からも分かる薄っすらとした笑みを浮かべる。


 意思疎通が通った瞬間だった。


 ◇◇◇


 麗華は天井をバックにした史弥の顔を見上げると体を彼に預けていた。

 記憶が正しければ防御に徹して力尽き、重い身体に痛みが走り最後は強い衝撃で気を失っていた。気付けば今という所だ。

 目を覚まし、周囲の状況を認識して状況を整理する。

 そしてもう一度史弥の顔を見直すと安堵を覚えていた。

 史弥が助けに来てくれた。

 周囲に倒れている生徒がそれを物語っていた。

 史弥の強さを武道場の一件を通して知っているからこそ多少の安心感が生まれるのも理解できる。

 しかし、彼女は知り合って間もない彼にそこまで信頼を寄せているかと言われればまだ分からなかった。

 まだ彼の一面しか知らない。

 でもその一面は好印象なものだ。

 短い期間で知った一面は誠実で、真面目で、根が優しくその癖逆境に打たれ強い剛健な精神力。

 何処か頼ってしまう頼もしさを感じずにはいられない何かを持っている。

 だから自然と気を許してしまう。

 自分の弱さを見せてしまう。

 さらに吊り橋効果のように危機的状況を打破して、力強い腕に抱き寄せらるこのシチュエーションで自然と距離が近くなっているのが麗華の心の深いプライベートスペースを易々と突破してくる。


(強く抱きしめられたのは初めてだ…………)


 気付けば服がはだけてふしだらな格好を晒しているのに麗華は気付くと一気に羞恥心が押し寄せ来る。


(……………………!?!?!?!?)


 こちらの顔色に史弥も気付くと気まずい表情で目を逸らす。

 自身の心臓の鼓動が早く脈打つのが麗華でも分かる。

 間が持たない。

 見ていたのなんて分かっていたのに聞けずにはいられなかった。

 問い掛けると史弥は申し訳なさそうに自分の行動の至らなさも含め謝罪してくる。

 そこまでの謝罪を求めたつもりはなかったが彼は責任を感じてくれていた。

 下心もない純粋な気持ちが伝わってくる。

 心のたがが外れていくのを麗華は感じる。

 先輩や役員とはまた別の違う感情が大きくなっていくのを。

 彼が他にどんな顔をするのか見てみたい、とさえ思えってしまうくらいに麗華は興味を抱いてしまう。

 でもすぐにこれは一時の感情に過ぎないと押しとどめる。

 全ては劇的な現状の演出で飲まれているに過ぎない。

 何を考えているのだと麗華は自身を律する。


「まったく君は本当に優しい…………彼女に好かれるのも頷けるよ」


 ────そう、彼は誰にだって公平に優しい。

 独占したいと思った自分の突然のわがままな気持ちに蓋をして、それが何なのかもわからないまま麗華はこの優しい後輩にしばらく身体を預けることにした。

 が、急に粉上の粒が目に入り、異物を取り除こうと目を擦る。

 見上げていた史弥の顔から後ろの背景にふと意識が移る。

 最初はぼんやりと何が起きているのか視認出来ていなかったが、だんだん焦点が合ってくると亀裂の入ったコンクリート天井が軋みと歪に裂け目を広げている事実が視界に飛び込んでくる。


「須山くん、上だ!?!?!?」


 麗華が危険を発した時には天井は抜け、そのまま大小さまざまなコンクリートの落下物が落石となって降り注ぐ。

 史弥は麗華の訴えにすぐに反応して頭上の異変に察知すると、

 その身を盾に、出来る限り包み込むように、頭を重点的に保護して麗華を力強く抱きしめていた。

 無論男性の、しっかり鍛え抜かれた力強い腕力に逆らえるはずもなく、なすがままに麗華は包み込まれて危険な状況であることも忘れてしまいそうな包容感に内も外も満たされる。

 次の瞬間には激しい衝撃音が鳴り響くはずだった。


「危なかったな史弥。それに会長も」


 聞き覚えがある上級生の頼もしい声が二人の耳に響いていた。


 ◇◇◇


 落下していたコンクリート片を済んでのところで阻止した上級生でもあり、風紀委員でもある戦国は自身のESP Abilityであるレビテーション(浮遊)の力加減を()()させていた。

 先ほどまで自重で落下する物体は重力に従い下方向へ向かっていたが、戦国の能力により、受け止められ防がれるも、今度はそれに対してさらに下方向へ干渉する力が働いていた。

 戦国と同一能力であるレビテーションだ。

 同一ESP Ability同士が力を同一物体に対して行使した場合、事象干渉力の強さにより優先権が決定する。いま戦国は別の者が発生する干渉力に合わせて相殺するように落下する同一物体であるコンクリート片を相反する押し上げる力で反発させていた。

 勿論、戦国にとって発生源であるニューマンの正体の目星はついている。


「おい、お前…………! 俺と力比べがしたいのか?」


 一際低くドスの利いた声が抵抗するニューマンである西城の配下である男子生徒に届く。

 まるで引導を渡すような突き刺すような鋭い視線を戦国は突き付ける。


「ちくしょうッ……なんで動かない! こっちは全力なのに……!!」


 微塵も微動だにしないコンクリート片は相変わらず麗華たちに真上で制止していた。


「そんななりふり構わず力んでいたら他の人に危ないだろ。弁えて力を使え」


「黙れ! クソっ、クソっ……クソっ……!!」


 向きになって全力で反抗する西城の配下の男子生徒は必死だった。

 そんな彼に対して冷ややかな視線を送ると、

「ちょっとお灸を据えてやらないとダメか」

 短く告げて今度は必死な男子生徒の真上の天井が正方形に割れ、頭上か落下してくる。


「おい! やめろぉ! うわぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」


 咄嗟の事で何が起きのか理解する前に命の危機に瀕した彼は頭上を見上げながら断末魔のような悲鳴を上げて、絶叫していた。

 しかし、落下する物体は当たると思われた男子生徒の頭上2㎝ほどで綺麗に、静かに止まる。

 大怪我を覚悟し、下手をすれば死を目前にした男子生徒はその重圧に耐えきれずに失神していた。正方形のコンクリート片は垂直離陸機のような轟音も立てることもなくホバリングして横方向へ移動すると失神した男子生徒の横に音もなく着陸した。

 制動力、力加減、正確性、柔軟力、どれをとっても戦国が如何に卓越した能力の持ち主かという事が理解できる。


 ◇◇◇


 史弥は瞬時に状況を把握すると戦国が攻撃を防いでくれている間に反撃へ転じる。

 この空間で今の落石を命令できる敵のボスは一人しかいない。

 その相手は直接的な危害は加えない。

 だから史弥は更生するチャンスを与えた。

 しかし、そのチャンスを踏み躙られた。

 そんな相手に最早、容赦はない。

 西条へ史弥は凍りつくような射抜く視線を浴びせる。

 ただ無機物を見つめるような、対象としか認識していない冷たい眼差し。


「……ヒィッ………………!?」


 西条が失敗したと悟り、理解した瞬間、運命は決定づけられた。

 史弥は片手で麗華を支えながら、非常時に際して風紀委員室から持ち出していたとある武器を取り出す。

 ──暴徒鎮圧スタンウィップ。

 殺傷を避け無力化することに特化した変わった護身具だ。

 校内で大規模な暴動が起きたことを想定し、一般職員がニューマンを鎮圧する為に常設されている学校の備品。

 風紀委員室には常時、このような類の物が置かれている。

 武道場の一件で使用された刃がオミットされたカランビットナイフもこれに含まれる。

 史弥は緊急に際して、全て素手で対処できるとまでは思っていなかった。

 何事にもイレギュラーは付き物だ。

 そのため、もしもを考え、風紀委員特権を使い常に飛び道具は一つ携帯するようにしていた。

 史弥が常に最悪の事態を想定する癖の結果だ。

 制服の裏地に引っ掛けるようにフックで固定して、ポケットに収まりきらない大きさを有し、警棒────どちらかと言えば十手に近い形状の物体を空いた片手に携帯する。

 露出したスイッチを押し込むと、柄状の持ち手からワイヤーが射出され瞬時に伸びる。

 それは高分子ワイヤーを使用した鞭だった。

 西条と史弥の距離はそれほど空いていない。

 一気にしならせるように振り抜くと、空中を切るような独特な風切り音が聞こえたと思えば、すぐさま西条の身体にワイヤーは絡みつく。

 史弥は巻きつくのを認識すると間髪入れずにスイッチをもう一度押し込む。

 持ち手部分に内蔵されたバッテリーから高分子ワイヤーへ高圧電流が放電された。


「なに、これ……きゃぁぁぁあああッッ!!!!」


 西条は言葉にならない叫びを上げる。

 高圧電流が流れ、小さな身体を小刻みに痙攣させる。数秒の後、気を失うと西条はその場で横に倒れた。

 いたいけな少女を力づくで痛めつけるのには史弥でも流石に抵抗を感じ、気が引ける。

 ギリギリでできる少ない配慮がこの装備を使わせた。


「そこで寝てろ」


 吐き捨てるように冷徹な言葉を史弥は呟いていた。


 ◇◇◇


「ふぅーー、おっと、こっちも退けないとな!」


 今度は麗華たちに降りかかっていた瓦礫も撤去していく。

 史弥は女子生徒の意識を奪うと戦国をその視界に認識し、救われた事を実感する。


「危なかったな史弥」


「戦国先輩、本当に助かりました……。非常に危険なところでした」


「いや、俺も同伴して行くべきだった。しっかり史弥が連絡してくれたおかげで間に合うことが出来たし、結果オーライということにしておこう」


 戦国は微笑むと史弥から緊張の糸が解けて行く。

 そのまま周囲を戦国は見渡し、苦笑を作ると史弥に褒めているのか微妙なニュアンスの言葉を発する。


「しかし、本当に史弥は何者だ。度胸があるというか、実践慣れしているというか、ちょっと前までは何も知らなかったのに。まぁ、逆にこっちとしては心強いのだが」


 軽く笑って見せると史弥も苦笑いを見せる。

 史弥は格闘技の飲み込みの速さを見込まれ強面の武術家達とトレーナである杉田を通して手合わせをする機会が幾度となくあった。

 彼らの多くは特殊な空気と殺気を纏うとゆうよりはコートを着るように着込んでいる。

 だからだろうか、そんな相手に慣れ切った史弥にとってこの程度のプレッシャーなど毛ほどにも感じなかった。


「と言ってもほとんどは会長が倒していて、自分が相手にしたのはこの部屋の三人くらいですよ」


「おぉ、そうか! ところで史弥。そろそろ会長を離してやってくれないか?」


「えっ? ……あっ、す、すみません、会長!?!?」


 すっかり危機的状況で自分がどんな行動をとったかすらも頭から抜け落ちていた史弥は取り乱した。

 その腕に強く抱き寄せる冬月麗華をすぐに離してホールド状態から解放すると微妙な距離感をとる。

 完全に麗華の顔は紅潮し、淡い黒目の瞳を潤ませ、思考が停止して放心状態だ。

 両手は何処を握ればいいの分からないくらいに活きの良い秋刀魚が如くピンと張って伸びている。


「か、会長!? しっかりして下さい!?!? 会長!!」


 呼びかける史弥を横目に戦国は嘆息を漏らす。


「まったく、自然とそうゆうのが出来てしまうから……末恐ろしいよ史弥…………」


 この後、麗華が思考を復帰させるのに暫く時間がかかった。

 復帰後、起き上がりざまの麗華は明らかに目が泳いでいて、よそよそしく、史弥と目も合わせられないほど動揺していた。

 史弥は卑猥ひわいな行為だったと凄い勢いで平謝りしていたが、恐らく麗華本人は微塵も感じていなかっただろう。それどころではないほど酒気を帯びたような眼差しで心ここにあらず、そう傍目で分かるほどの麗華とそれに気付いていない史弥を戦国は見守っていた。


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