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異能で無能な俺!?  作者: グラハム・A
入学編<下>
26/32

「生徒会役員による打ち合わせ」

 生徒会長講演会が二日後に迫った放課後。

 生徒会室に集まった生徒数名が机を囲んで洋皮椅子に掛けて会議を行っていた。

 ──生徒会役員会議。


 差し迫った講演会に際して各自の役割分担、タイムスケジュール、備品準備の最終チェックを確認し合っていた。


「──鹿乃(かのん)、あとは頼んでも良いか?」

 中央席に座る麗華は、向かって左側に座る女子生徒に告げた。


「構いません。音響設備に照明類全ての動作チェックは済んでいますので、このまま設営を進めます」


 淡々とした口調で、手元にある機材チェックシートを確認しながら二年の鹿乃は答える。

 綺麗でつややかなサラサラのミディアムショートの黒髪。

 整った顔立ちに小柄な少女は充分可愛い分類だ。

 その切れ目気味な瞼が向かえ側に座る人物を捉える。


柳瀬(やなせ)副会長の方は大丈夫何ですか?」


 鹿乃に向けられた視線の先には少年の蛹を脱ぎ捨てようと脱皮中、はたまた青年への階段へ順調に上り詰めているような容姿をした爽やかな少年が、会場整備に努める生徒名簿のページを捲りながら座っていた。


「概ね問題ない。風紀委員会にも会場整備は依頼してあるし、実行委員も充分配置されている」


 落ち着いた口調で返答を返した鹿乃と学年を同じくする二年の柳瀬は鹿乃へ顔を向けた。

 特段何も変わった事のないやりとりだが妙な空気感が漂い始めていた。


「では大丈夫ですね。柳瀬副会長はたまにミスをする時がありますので心配になりました」


 ツンとした言い方に柳瀬は少しムッとしたかと思うと、自制心を働かせて平静を保つ。

 いつものやりとりであるこの状況にいちいち口論していては、会議に支障が出ると思ってのことだった。

 そう彼らにとってこれは日常茶飯事だった。

 馬が合わない事が。


「鹿乃会計、日常の細かなミスなんてお互い様。譲歩し合わなければ息苦しいだけだ。そう思はないか?」


「確かに共感できる部分はありますが、果たしてそれが細かなミスと言えるのか、私ははなはだ疑問ですが…………」


「ほぅ、そうか、よほど鹿乃は先日の人員配置予定表の訂正について自分のことをやたら攻撃したいようだな」


「別にそんなことは言ったつもりはありませんが」


 しかし、明らかに鹿乃の目は間違いなく言及していた。


「ほぉー? 俺も誰かさんの機材トラブルに散々奔走したのだからお互い様だと思うがな」


 もちろん吹っ掛けられた柳瀬は名前を上げずに誤魔化すように言ってのけるが、ほとんど特定できてしまうような誹謗ひぼうだった。

 柳瀬の口調は熱を伴い、鹿乃が睨みを効かせ、別の意味でヒートアップし始めようとする会議は乱闘の前触れのようなピリッとした空気に切り替わる。

 この光景もいつものことだ。

 鹿乃が吹っかけ、柳瀬が反論する。

 飽きずに顔を合わせればループさせるこの口論に逆に仲が良いのか、犬猿の仲なのかよく判らない関係性を築いていた。

 そしてこの山火事に発展しかかったボヤも、消火する係はいつも決まっていた。


「二人とも、もうそれくらいにしといてや」


 関西弁で仲裁に入った少女の声。

 鹿乃の前に制止の意味を込めた片手がかざされる。

 遊びが掛かった毛先にブラウンの髪色、少し制服をだらしなく着込んだ少女はおっとりした雰囲気をしていた。


「そんな揉めとったら話進まへんやん。会長さん困っとるよ?」


 溜息交じりに呆れる麗華に、二人の役員が気付くのに数秒もかからなかった。

 揉めていた二人は麗華へ軽く頭を下げながら謝罪を口にする。


「会長、失礼しました」


「会長、すみません」


 申し訳なさそうに謝りながらも、二人の間にはまだ見えない火花が散っている。


瑞希みずき書記ありがとう。もう少し二人とも仲良くしてくれるか?

 いちいちこんなことで会議を止められていたら話が一向に進まんし、先日のミスは私の最終確認不足も一端にある、だから私の痛い話でもあるからよしてくれ」


 そんな二人にいい加減うんざりした麗華は、制止したこちらも二年の瑞希へお礼を述べつつ、お灸を据えるように文句を溢していた。


 瑞希と呼ばれた少女はヒラヒラと手を振りながら、「かまへんで〜」と朗らかに笑ってみせると会議はやっと元のレールに戻る。

 いつもこの二人の仲裁に入る係がこの少女──瑞希の役目だった。

 ついでに彼女の名前を呼んだことで麗華は一つの懸念を思い出して再度名前を呼んだ。


「瑞希、司会進行は問題ないな?」


 司会進行に対する責任感での緊張等々、講演会へのストレスを心配して麗華は声をかけたわけではない。

 もっと単純なことだった。


「なにぃ〜、会長さんはうちが標準語しゃべれへんと思っとるの~?」


 言葉遣いの単純な問題だった。

 元々、家が関西出身の瑞希は普段から関西弁が定着していた。

 しかし、ここ稲沢高等高校は関東圏に設立されている高校だ。

 となれば公の場で使用される言葉は関東圏の標準語である。

 彼女からしてみれば関西弁が標準語なのだろうが、郷に入っては郷に従わなけばならない。ここでは仕方ないが直してもらわなければならなかった。

 それで麗華は心配になったのだ。


「いや念のためにな」


「心配せんでもカンペ見れば話せますー。それくらいのことは、うちかて朝めし前やわ!」


 とめどなく不安が押し寄せてくるが、麗華は何とか押し殺し、一抹の不安を抱えたままとりあえず次の業務進捗状況を確認する事にした。


「じゃあ、次だ。(あずさ)庶務、皆のバックアップは上手くいってるか?」


「はい! 多分出来てると思います!」


「そうか。いろいろ大変だと思うが頑張ってくれ」


「は、はい! 頑張ります!」


 瑞希の向かえ側、柳瀬の隣に座る梓と声をかけられた小柄な少女はキョロキョロ四人の顔色を目まぐるしく見て回ると頷いた。

 一年 中野(なかの) (あずさ)、今年入学して間もなく生徒会入りした下級生である。

 まだいろいろな意味で日の浅い彼女は上級生を窺い見て、まだ慣れない生徒会の空気に居心地の悪さを覚えていた。

 それでも彼女には与えられた仕事をこなそうとする気概はあった。

 そんな感情が入り混じった梓の挙動は、同年代に比べ小柄な体格と相まって、小動物のような可愛らしさを醸し出している。

 その守りたくなるような動きが男子生徒の騎士道精神をくすぐる事は誰が見ても分かりきったことだ。

 皆から愛されるキャラクターなのだ。


「なんや、うちらだから大変みたいな言い方やなー」


 何故か不満口調で口をへの字にした瑞希は麗華へジト目を送った。

 お荷物のような言い方に聞こえたのか瑞希の逆燐に触れたようだった。


「誰がやっても大変だと思う。それでもしっかりみんなこなしてくれるから信頼している。だから特に他意はないよ」


 口では否定してみる麗華だが、本音の所では一癖も二癖もある生徒会メンバーだと思ってはいた。

 この麗華が副会長でなければかなり扱い辛い人材であるのは事実だ。

 簡単に言えば個性の強いメンバーが集まったことに他ならない。

 しかし、しっかり仕事を良くこなしてくれるとも同時に思っていた。

 癖は強いが責任感をしっかり持った優秀な生徒だと本人達はどう思っているか分からないが、彼女は自負していたのだ。


 誰かが欠けていてもダメな絶妙なバランスを保ち、いつ崩れても可笑しくない危うさを持ち合わせる生徒会が、麗華は嫌いではなかった。

 むしろ面白い奴らだと彼女は思っていた。


「はぐらかしとらへん? …………まぁ、気にしてもしゃーないけどな。

 なんかあったら、あずさよろしく頼むわー」


 瑞希は梓に向き直り、気持ちを切り替えると声を掛けた。

 梓も元気に新米らしい「頑張ります!」と同意の返事を返す。


「柳瀬と鹿乃もいい加減にして業務に戻れ」


 麗華は未だに海上封鎖をやめずに睨み合いの冷戦に突入した柳瀬と鹿乃に口を開く。

 二人は対面でお互いの顔を曇らせると、手元の書類へ視線を戻した。


「さて、では残り少ない準備に向けて頑張るぞ!」


 そう奮起した麗華は生徒会役員の面々を見渡して、活気に満ちた言動で振る舞った。


 全員が頷いて、各々の仕事に取り掛かるために部屋を出て行く。

 梓は瑞希に何か手伝うことはないか聞きながら、会場整備を詰めるために実行委員会へ、鹿乃は会場である講堂に設営チェックのために。


 残された麗華は全員が出るのを確認すると先程と同じ席に座り込む。

 足元に置かれていた自身の学生鞄を引っ張り出して、中を開けると一枚の紙を取り出した。

 書面には文章作成ソフトで羅列された達筆な文字が印刷されている。

 内容は非常に完結なものだった。


「…………ここ最近、可笑しなことばかりが起きていたのは分かっていたが……」


 彼女は自分の周りで起きていた異変に気付いていたが、確証を得られないまま講演会までの二週間を一人過ごしていた。

 ただこの時期と、生徒会権限で得られる生徒非開示情報を調べた中で、ある人物と重なった時に、薄っすらと答えは見えていた。


 明確に、短く綴られた文面を真剣な面持ちで見る麗華の表情は険しかった。


『生徒会長講演会一時間前に廃校舎へ来い。他言すればお前の大事な生徒会メンバーを傷つける』

 ──それは明確な敵意が書かれた脅迫文。


 これから始まる講演会が波乱に満ちた一日になることを、まだ彼女は知る由もなかった。


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