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異能で無能な俺!?  作者: グラハム・A
入学編<下>
24/32

「きっかけ作り」

入学して間もないとはいえ、だいぶ打ち解けてきた可憐は史弥の話を熱心に聞いてくれていた。

都合が合えば下校を共にする仲くらいにはなった二人は公共交通機関である電車が行き交いする駅を目指して夕暮れを歩いていた。

少しずつではあったが、自然な会話も成立させている。

ただ彼女にとっての敬語口調で丁寧な物腰は人柄なのだろう。

生徒会長講演会まで残り一週間を切ったとある下校時。

いつもはいない三つ目の影があった。

この日は珍客も同伴しての下校だ。

一緒のペースで歩く男子生徒は整った顔立ちで、短めの髪の長さ、清潔感と爽やかなスポーツマンを装った、吉田 日向だった。


「フフッ、史弥くんのお母さんってユニークな人なんですね。でも相談なしに決めるのは良くないですよ? お母さんの気持ちも理解してあげて下さい」


「うぅ、確かにそう言われるとぐうの音もでない。気をつけます」


風紀委員就任後、母親の荒れっぷりの話しに花が咲き、可憐と談笑に勤しむ史弥は反省の色を見せると、可憐はクスクス笑う。


「お母さんが可哀想ですから」


「…………善処します。しかし、母親のユニークっぷりは今まで会った人達で超えたのを見たことがない。キャラが立ち過ぎと言うか、濃いとゆうか……」


「そうなんですか?」


「そうだよ。でも可憐もうちの母親に似ているところはあるけどね」


「えッ!? それってどういう意味ですか!?」


「二面性的なところ?」


可愛く頬を膨らませて抗議する可憐はまさに美少女に相応しい容姿をしていた。

十人が十人口を揃えて同調するだろう。

そんなマドンナ的存在と一緒に行動するとどうなるか。

同じ下校途中の稲沢生や中には通り過ぎる関係ない通行人も目を取られる始末だ。

もはや板についてきた周囲からの──主に男性からの羨望と嫉妬が入り混じった視線が降り注いでも史弥は気にしない。

隣の可憐も今まで生きてきて、好奇な同種の視線には慣れっこなのか意にも介していなかった。


「よくこんな中で会話できるな……二人のタフさには驚かされるよ……」


「どうした日向? そんなによそよそしくして」


「何か気に触るようなことでもありましたか?」


史弥はポーカーフェイスで、可憐は抗議から心配そうな表情へ変え、二人は日向に問い掛ける。


「二人とも──いや、なんでもない」


この二人にそれを訊くのは野暮なように感じた日向は出かかった言葉を押し込めて、話題転換に努めることにする。


「それより史弥。最近、謎の転校生が風紀委員三人を相手取って無双したって噂になってるけど、時期的にみて史弥の事だろ?」


「無双したとかまた大袈裟な。ただ“無力化”しただけだよ。

まぁ夢想していたかは置いておいて、誇張表現が多分に含まれているけど十中八九、俺の事だと思う」


その応えに日向は感心したのか、尊敬したのか、よく分からない表情をとると二割増し程、声を大きくした。


「それでも事実は事実だろ? ならすげーと思うけどな」


「日向君もあの場にいたらビックリしますよ! 史弥君、強かったんです!」


ストレートに褒めるように微笑む日向の視線に照れ隠しのつもりか史弥は目を逸らす。

可憐は握りこぶしを作って、日向に見せるように空中に向かってシャードボクシングの要領でジャブをし始めて勇ましさを表現する。

その様子は何処か誇らしげだ。

そんな可憐の機微きびが史弥には理解できなかったが女心とは男性にとって未開の地である。

母親を見てもそれは歴然だ。

さすがにこれ以上続けられるとポーカーフェイスを維持するのが困難になってきている史弥をフォローするため、追い詰めた張本人である日向が助け船を出す。


「で、なんでそんなことになったんだよ」


そこで日向の問いかけに応えたのは史弥ではなく可憐だった。

何故かどうだ、と言わんばかりに自信たっぷりな雰囲気を演出して。


「それはですね、史弥くんが風紀委員に相応しいかテストするためですよ!

 結果、一瞬にして三人も倒しちゃったんですから!」


「え? 史弥風紀委員になったの!?」


「そうなんです! いまは頑張ってビシバシ取り締まってるんです!」


このままではとんでもない方向に話が逸れてしまう。

前かがみ気味な姿勢で頼んでもいないのに日向に力説する可憐は明らかに熱を帯びて捲し立てているし、日向は驚きで目を開いているし、色々大変な状態になりかけている。

(あと、そんなに取り締まってないんだけどなぁ)


一人歩きしようとする話題に割り込むように史弥は口を開く。

このままだと何処かで大きな誤解が生まれそうなので、史弥は歯車を無理やり止めることにした。


「可憐が思うほど事件も起きなければ、まだ取り締まりなんてしてないよ。過大評価し過ぎ。就任して一週間だし」


「すみません。つい私としたことが、ある事ない事を……」


制止されたことにより可憐は落ち着きを取り戻したのか、冷静に物事を考えれたようだ。


「一週間も経っていたのか……それでなってみてどう?」


「なってみてどうと言われてもな、今は何もないとしか言いようがない。基本的に戦国先輩と組んで巡回してるだけで……」


「戦国ってあの戦国さんか!?」


応える史弥を遮るように声を昂ぶらせた日向。

史弥と可憐は疑問の眼差しを向ける。

二人は転校生であり、戦国の評判を詳しく知らない。

だから昂ぶる日向を理解できていなかった。

神妙な面持ちで史弥は尋ねる。


「戦国先輩って凄い人なの?」


軽く咳払いした日向は知らない二人に向かって流暢りゅうちょうに説明し始めた。


「二年にして風紀委員長を務め、変幻自在の異名を取り、ESP Abilityのレビテーション(浮遊)はカテゴリー内最高のlevel3保持者だ」


「え? level3何ですか!?」


日向の顔を見る可憐は、驚嘆の声を上げると、その円らな瞳を大きく見開いた。


「level3って珍しいの?」


説明を受けていたのに可憐だけは理解し、置いてけぼりを食らった史弥は、今度は可憐に問いかける。

正直、levelよりも風紀委員長という肩書きを日向から初めて知ったが、今は片隅に閉まって置くことに史弥はする。


「珍しいです! 百人に一人と言われているんです! アストレイよりもレアですよ」


凄んで言い淀む可憐に事の希少性を理解した史弥はひとまず納得の声を上げる。


「なんだか史弥の周りには有名人ばかりが集まってきてるな」


「そうか?」


「戦国さんに冬月会長、可憐さんだってそうだろ?」


日向に問い返されて、思考するとそうなのかもしれないと史弥は気付かされる。

史弥は「確かに」と同意の頷きを返すと日向は「だろう」と念押ししてくる。

そこで今度は名前の上がった麗華の話しに切り替わる。

内容は生徒会長講演会だ。


「来週は生徒会長講演会だったよな。確か題目は校風の是正だったかな。具体的に何を演説するんだろう」


疑問を口にした日向に史弥は戦国から聞いていた麗華の思惑を話した。

かくいう可憐も話しに耳を傾ける。

この程度の情報開示は別段問題ないはずだから史弥が話しても問題ないと彼は思っていた。

風潮して回るような友人ではない事くらい、自分の心眼(しんがん)は曇っていないと自負していた。

話し終えた史弥に二人は複雑な表情を浮かべていた。

真っ先に口を開いたのは日向だ。


「うーん、それは波乱の予感だな。変な話し学校が真っ二つに割れるか、いろんな意見で分裂しそうでもあるな……ただ虐げられていた人達からしてみれば救済に他ならないけど」


「そうですよね。現状能力値が高い人達に強い発言力があって、下の人達は(ないがし)ろにされてますからね」


可憐は日向に同調すると、校内を客観的に見て、悲観するとちらっと史弥を見やる。

史弥もその視線に同意の意味を込めて、軽く頷くと自身の意見を述べた。


「この前の健太郎の件もそうだけど、妙な情報統制が働いて反論はあったとしても潰される状態じゃあ学校生活が息苦しいのは確かなんだよな」


「まあ、前例がないだけでやっちゃダメなんて規則は無いから良いんじゃないか? 何をするかにもよるけど、少なくとも今の時点で俺は賛成だな」


日向は偽りのない笑顔で言ってのける。

どうやらこの友人は柔軟な考えの持ち主のようだ。

通り一辺倒に偏らず、いろんな発想を受け入れる心構えのようなものができているのだろう。要するに器がデカイのだ。


「そのためにしっかり校了原稿を会長は詰めてるんだろ?」


日向はチラリと史弥を見て、問い掛ける。

最近の麗華との交流を知ってからきた視線だった。

その質問に何でも知っているわけじゃないんだけどなぁと思いながらも、今回は裏事情をたまたま知っているだけに、律儀に史弥は応える事にした。


「あぁ、多分……な」


「なんだよ、その歯切れの悪い返しは」


日向は和やかに笑うと苦笑いをもって史弥は応える。

内心、残念な姿を今日も晒していなければと。

もう一週間を切っているのだからそんなことはないと史弥は信じるしかなかった。


「まさかあの会長に限ってそんな事ありませんよね?」


「恐らくね」


再確認を含めて少々心配そうな表情をする可憐に目をそらす史弥。

会長の沽券(こけん)に関わるからあの姿が直接人目に触れるまでは黙っていようと史弥は決めた今日この頃だった。


「ところで日向、実は一つ調べたいことがあって協力してもらえないか?」


突然、何の脈略もなく史弥は日向へ話を振る。


「おぉ、どうした?」


「実は──」


話を聞き終えた可憐と日向は瞠目どうもくした。

話し終えた史弥の表情は何処か晴れ晴れとして、楽しげだった。

三人の間には友達を驚かせるのに似たサプライズ感が漂っていた。


「そんな事よく考えるな」


「良いと思います史弥君!」


「まぁ見つかればの話だけど、何か変わるかもしれないならやってみる価値はあると思うだけさ」


この話が実るのはそれほど遠くない少し先の話だ。


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