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異能で無能な俺!?  作者: グラハム・A
入学編<下>
22/32

「慕うと従う」

 史弥達が摸擬戦をした同日、別の場所。

 暗がりな室内でコンクリートの壁に覆われた一室。

 雑多に置かれた複数のリクライニングチェアの一つに腰かけた国立稲沢高等学校の制服に身を包んだ少女は、蔑むように同校の男子生徒を見下ろしていた。

 男子生徒は片手を地面につけ、ひざまずき、かしずいている。

 彼女はギョロりとした視線を送り、目を合わせるのが恐いくらいにジッと見つめていた。

 髪はショートヘアー、容姿は可愛い部類に入るだろう。

 軽く足を組んだミニスカートはその色気を漂わせる色白の太股が妖艶な雰囲気を漂わせ、嫌がおうにも目を逸らすどころか視線を集めるのは自然の摂理だ。

 しかし、そんな色香に気を取られるほど男子生徒に余裕はなかった。

 彼は酷く怯えていた。

 さらに男子生徒の後ろには二人の男子生徒が挟み込むように待機して威圧している。

 少女は小さく口を開くと問う。


「私が指示したことをどうして守ってないのかしら?」


「い、いや、それが……俺は指示通りにしたんだ。でもあいつに向けて倒した資材が触れる瞬間に奴の身体から弾き出されて…………」


「私はこう言ったはずよ。"冬月麗華を自然に見せかけて怪我を負わせろ"、覚えてる?」


「ちゃんと覚えてるさ……だが、俺には……」


「いつまで言い訳を続けるつもりかしら?」


 その言葉を最後に男子生徒が跪く背後にいる男子生徒達に目配せをすると、一人が突然勢いよくみぞおちめがけて蹴り上げる。

 蹴られた男子生徒は怯み、衝撃で倒れた。


「た、頼む…………もうやめてくれ」


 顔を上げ、懇願する男子生徒。

 苦痛の悲鳴が上がっても可笑しくはないはずだがその訴えや素振りはない。

 加減して蹴られている訳でもないのにあまりにも無頓着だった。

 不自然なほどに。

 暴行を受けすぎて痛みが麻痺しているというよりは、()()痛みを感じていないとさえ感じさせてしまう。


「貴方が失敗した罰はしっかり受けてもらわないと」


「最初から俺には無理だったんだ……!」


「私は出来る人にしかお願いしないわ。──それは私に対する不満として受け取って良いかしら?」


「ち、違…………!!」


 突然また強く蹴り上げられる。

 先程と同じみぞおちにヒットし、常人なら悶えても可笑しくはないはずだが、相変わらず表情に乏しいのか、それとも感じないのか表情に変化はない。


「さっきから貴方は言い訳ばかりで疲れたわ。

 ねぇ、この子に何発蹴りを打ち込んだっけ?」


 視線を暴行に働いている男子生徒達へ向け訊ねると、

「十発です」

 一人が短く答えを返した。

 少女は思案気に手で額を抑えて少し考えると楽し気に声を発する。


「一度この辺りにしておこうかな」


「や、やめてくれ……! 頼む!」


「もう遅いよ。どのみち後か先かの違いでしょ? 男の子なら潔よく耐えてみせてよ」


 少女は「解除(キャンセル)」と短く告げると蹴られた男子生徒は途端に大声で苦痛の悲鳴をあげる。


「あがぁぁああああッーー!!」


 妙な光景だった。

 今まで強く蹴られていた場所を押さえる。

 まるで蹴られ続けた痛みが一気に時間差でやってきたような状態だ。

 その場で痛みに悶える男子生徒を嬉しそうに眺める少女。

 周りの男達も面白そうな笑みを浮かべて見下ろしていた。


「どうかしら、 私のセンスジャック(五感封じ)わ。

   こんな感覚は初めてでしょ?

 痛みが全て遅れてくるのは」


 応えは嗚咽と絶叫で返ってくる。

 跪く男子生徒は目元に涙を浮かべ、恨みがましい視線を少女へ送る。

 息は荒く、続く痛みを抑え、堪えながら。


「ふざけるなッ! もう散々だ! お前なんか…………!」


 逆上をみせた男子生徒は勢いよく立ち上がると反旗の狼煙を上げるためESP Ability発動態勢を取る。

 彼は世間で念動力と呼称される能力、レビテーション(浮遊)を使用して、目の前に坐する少女へ攻勢に転じる一撃を、彼女が居座る近くにある資材を持ち上げて衝突させようとする。


「そんな──!?」


 だが、叶わなかった。

 視界がブラックアウトし、同時に身体の平衡感覚が失われるとよろけ、真っ直ぐ立つこともままならなくなってしまう。

 そのまま先ほどと同じ体制で跪き、激しい回転性のめまいに襲われる。


「はぁ……はぁ………うッ…………」


 目の前が見えないのもさることながら、男子生徒は特にめまいによる強い吐き気をもよおして口を必死で紡ぐ。

 男子生徒は視界の見えない状態で先程と大体の位置に、同じ状態で座っているだろう少女に問い掛ける。


「はぁ……くそッ……何をした……?」


「どうかしら? 三半規管(動物の平衡感覚を司る器官)が麻痺した気分は?」


「やめてくれ……頼む……」


「私に逆らわないと言うまではダメよ」


「わ、分かったから早くしてくれ……」


西城さいじょう 静香しずかに従うと言いなさい」


「西城 静香にし…………従います……」


 投げやり気味に男子生徒は応じる。

 それもそのはず、彼の吐き気とめまいは限界に達していた。

 西城はその言葉に満足したのか、短く「解除」と唱える。

 瞬時に男子生徒の吐き気とめまいは跡形もなく消え去った。

 解放されたことでやっと正常な思考が戻ってきた男子生徒は乱れた呼吸を整え、胸のあたりを擦ると、その瞳に力を失った眼光を西城へ向ける。


「あなたには次のチャンスを与えて上げる」


 西城は告げると悪意が籠った妖美な笑みを浮かべる。

 信頼関係と主従関係。

 冬月と西城。

 似て非なるリーダーがこの場所にはいた。


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