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異能で無能な俺!?  作者: グラハム・A
入学編<下>
21/32

「いつだって男の子は身勝手」

 いつもの団欒(だんらん)と静寂。

 少なくとも数分前まではの話だが。

 話し終えた史弥に肩を震わせながら母親はテーブルを挟んで向かえ側の椅子で座っている。

 俯き気味で前髪が顔を隠し、よく見えないのでどんな表情をしているかは分からない。

 まさに険悪な雰囲気がそのまま蛇のように纏わり付いて離れないかのようにこの場を支配していた。

 史弥もこの状況下で勝手に決めてしまった事を怒鳴られる覚悟は出来ていた。

 次の瞬間、激怒されても文句は言えない。

 幸い妹の実愛は二階の自室で勉強中なので兄のカッコ悪い姿は晒さなくて済むと思いつつも、やっぱり怒られるのは嫌だな、と後悔してしまう。

 誰だって酷く怒られるのは嫌だろう。


「……じゃあフミくんはもう風紀委員に就任したと?」


「……そうなりますね」


「さっき話した学内の風紀を取り締まる、もとい危険なことも承知で?」


「……知った上で引き受けました」


「最近、フミくんに何かあったことは覚えてますか?」


「……しっかり覚えております」


 次々と繰り出される質問と返答が母親の怒りのボルテージギアを一段ずつシフトアップしているんじゃないかとさえ史弥は思える。

 ──願うことなら何処かでシフトダウンして、ついでにクーリング走行をしたい。

 このままでは高回転、高負荷でエンジンブロー(母親が爆発)してしまうと史弥は内心憂鬱だ。


「あのー母さん? 先に言っておくけど、勝手に相談もせずに決めたことは大変申し訳ないと思います。でも大反対されるのは分かってたから……その……勢いと言いますか……」


「言いたいことは全て言いましたか?」


「…………はい」


「では、お母さんも言いたいことを言います」


「どうぞ」


「フミくんのばかぁぁぁああーーーー!!」


 恐らく家の中全域に大絶叫が広がっただろう。

 下手をすればご近所にすらその声が届いたかもしれない。

 果ては新婚夫婦の痴話喧嘩か恋人同士のすれ違い、そんな風な聞こえ方にも聞こえるだろう。

 恐らくは二階の実愛が今頃、目を丸くしているはず。


「なんでお母さんに相談せずに勝手に決めるの! 反対するかしないかは相談してみないと分からないじゃない!」


「いや、えっ…………………? 話してたら許可してくれたの?」


「そ、それは…………例え話です!」


 言葉を詰まらせて否定する母親は顔が火山噴火のように真っ赤だ。

 この勢いだと暫くは火山弾の二次災害も免れない。

 史弥は消火活動に入ろうにも、納得できる言葉を用意していなかった事が仇となり、自然鎮火して収まるのを見守るしかなかった。


「フミくんは昔からそう! いつも大事なことは話さないで隠して、心配かけないようにして! お母さんのことをもっと信用してくれても良いじゃない!」


「……ごめん」


「ごめんって言うなら最初から相談してッ! そうゆうところ、お父さんとそっくり! 二人して除け者にして!」


 心配かけたくなかったと口に出したかったが、ここでそのセリフを吐くと言うことは信頼してないの裏返しに繋がりかねないので史弥は伝えたい気持ちを抑え、堅く口を閉ざす。

 そんな息子の言いたげな気持ちを察したか察してないか分からないが、溜息をついた母親は諦め口調で語りはじめる。


「そうやって頑固なところもお父さんそっくり。──ふんッ! もうお母さん知らない!」


 顔を史弥から逸らしてそっぽを向く母親。

 だが僅かに横目でこちらの様子を伺っていた。

 反対を押し切ってやろうとする風紀委員職の理由を話せと目で訴えるように。

 その視線に史弥は気付いていた。


「………………あの学校の差別的な雰囲気を是正したかった」


 ボソリと呟いた史弥にそっぽを向いたまま聞き耳を立てる母親。

 だから聞いているであろう主に語りかけるように史弥は続けた。


「間違っている、それは違うってハッキリ言える、そんな自由でもっと楽しい学校生活を他のみんなと送りたい。

 誰かを虐げて常に怯える学校じゃなくて。

 だからその第一歩に俺が率先して前に進み出したかった。

 だから風紀委員になるって決めたんだ」


「フミくん…………」


 もう母親はそっぽを向かずに正面から史弥と向き合ってくれていた。

 少し目を閉じて逡巡を母親は巡らせたかと思うと、口を開いた。


「────フミくんがそこまで言うなら……仕方ありません、許可します!」


 もう先ほどの怒り顔は何処へやら、今度は母親の笑顔が返ってくる。

 自慢の息子だと、それが史弥だと、そう言ってくれているかのように。


「…………ありがとう母さん」


 息子の言葉を聞いた母親は、元気よく椅子から立ち上がると片袖を巻き上げ、息巻きながら張り切りはじめる。


「ならそうと決まれば今度はお父さんを説得しないと! お父さんはお母さんと違って手強いわよ! 一体どんな反対が返ってくるか分からないわ、だけどお母さんが──」


「あの……母さん…………」


「ちゃんと守ってあげるから──」


「母さん!」


「…………なにフミくん?」


 息巻く母親に史弥は申し訳なさそうに告げる。


「……もう父さんからは許可もらってる」


「………………」


 時間が停止したように固まった母親は、目を白黒させて史弥を見つめる。


「それはいつですか…………?」


「……二日前かな」


 生徒会へ返事をする前に一番厄介な障壁とおもしき父親の攻略を決行していた。

 だがその予想は外れ、二つ返事で父親は史弥に許可を出してくれていた。

 逡巡もなく、即答だった。

 ──頑張れよ。余りにも呆気ない一言にこっちが逆にやっていいのか訊いてしまったくらいだ。


「……………………」


「あはははっ〜〜…………」


 見つめられた史弥は目を逸らして愛想笑いを浮かべるしかなかった。

 段々と母親の顔が真っ赤になっていくのを感じながら。


「せめて決める前にお母さんにだって……………………お父さんとフミくんのばかぁぁぁあーーーー!!!!」


「母さん!?」


 母親はそのまま自室へ向かってリビングの出口を勢いよく開けて駆け抜けて行った。

 閉まり行く扉の向こう側で頭を抱えて項垂れる史弥の姿を残して扉は閉まった。



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