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異能で無能な俺!?  作者: グラハム・A
入学編<下>
20/32

「今日も麗華さんは平常運転」

 武道場の一件を終えた史弥は風紀委員室へ移動していた。

 風紀委員室内には戦国と麗華が、史弥の風紀委員就任に際しての説明を執り行おうとしているが、本来なら生徒会長である麗華は立ち会わずに戦国に一任すれば良いところを同伴している。

 所為、彼女は興味本位と現実逃避の両方からこの場に居合わせていたのだ。

 前者は史弥に、後者は生徒会業務である事務処理や承認案件への逃避だ。

 この場でその事を知っていたのは戦国のみであり、もう大丈夫ですよと目で訴えてみせるも面白そうだし、生徒会室には戻りたくないと拒否の視線で麗華から突き返される始末。

 結局、言及出来ずに戦国は諦めることになった。

 史弥はこの場に生徒会長が居ることが当たり前なのだと思い込み、突っ込む素振りさえない。


「しかし、須山くん凄かったな。風紀委員に貸与された警護用装備品をあそこまで使いこなすとは恐れ入ったよ。どこでそんな技術を?」


「少々、精通する方に鍛錬を積んでもらっていて、それが役に立ちました」


 師である杉田の顔を想像して史弥は苦笑いを作る。

 正直なところ少々どころではないが、麗華には知る由も無い。

 敵を倒す事とは敵を知る事。

 杉田の教えだ。

 素手対飛び道具になった際、相手の特性を知らずして正面切って戦うのは圧倒的に不利。

 ましてや自分に過信して突っ込むなど滑稽。

 愚の骨頂だ。

 井の中の蛙大海を知らず、のように相手を知る事で対策は多少練れる。

 自分の殻に閉じこもってばかりではいけない。

 広い視野を持つことも武術では重要なのだ。


「そうなのか? あんなマニアックな武器を使う人間が、少々などとは思えないがな…………」


 と史弥は思っていたがなかなか鋭い感性を麗華は持ち合わせているようだ。


「今後も使えそうな物があれば借りても問題ないですよね?」


「ああ勿論だ。あれは職務を遂行するためにある。しっかり使ってくれ。むしろ君以外は普段触らないだろうけどな」


 内心、それはそうだと史弥は突っ込む。

 一学校に常設するにしては仰々しい物ばかり。

 警護取り寄せ品カタログや事前に保管されていた備品にも目を通したが、殆どが訓練仕様の軍用品か暴徒鎮圧用品ばかりだった。

 一般生徒が使うどころか使い方すら分かるはずもない。

 訓練された特殊部隊員である熟練者が持って初めて真価を発揮する代物ばかりなのだ。

 むしろ生徒が使う事を想定していないようなラインナップでもある。

 常設させた人間はよほどの軍事オタクか、ただの軍関係者だろう。

 色々な物に触れる機会を与えてくれた杉田先生がいなければ、史弥自身、カランビットナイフなど知ることもなかった。


「……それじゃあ史弥、まずは風紀委員就任おめでとうと言っておこうか。だがやる事は山積みだからあまりぬか喜びはできないぞ」


 本題から脱線した話題を戻すため、強引に戦国が話を切り出す。

 麗華はもっと好奇心で詳しく話しをしたいようだったが、戦国は目につかない素ぶりで無視した。

 どうやらこの先輩は生徒会長の扱いを心得ているようだ。


「山積みですか…………。いちよ確認ですが、風紀委員は能力の不正使用を鎮圧する役職ですよね。山積みって事はそれだけ不正使用が?」


 戦国は頷き、肯定すると答えた。


「複雑な案件が実は沢山あるんだ」


 どうやら事はなかなかにして深刻のようで、麗華も先ほどまでの明るい表情は消え、戦国の横で眉間を指で揉みながら苦い表情をしている。


「と言いますと?」


「介入する余地もないまま終わっていたや、使用したのかしてないのか分からないなんてこともザラなんだ。こっちが巡回中に出くわさなければ全く分からない。まぁ向こうも出くわさないように用意周到に使ってたりするけどな。だから俺達はそういった未遂犯も防ぐ事が職務に含まれている」


「未然にですか? それって不可能じゃないですか?そんな事をどうやって」


 それこそ事前に情報を察知していないと出来ないことだ。

 一学生では到底遂行できない内容になる。

 それこそ性格や特徴、素行を洗い出すレベルだ。


「これを見て欲しい」


 戦国から史弥に手渡された大型タブレット端末には能力、性格、来歴、思想等いくつもの情報が映し出されていた。

 そして、それはある生徒の情報だった。


「カテゴリー1 鈴原涼……って、これあいつの情報ですか?」


「そうだ。我々、風紀委員と生徒会役員は特別に一般生徒情報が学校側から開示されている。中にはマークされている人物もいて、その一人だったのが鈴原だ」


「そうだったんですか!?」


 初耳で史弥は軽く驚き、その事実にジワリと恐れとも形容できぬ感情が染み出す。

 自分の情報も開示されているのかと思うとさらに恐さ倍増だ。

 同時に役員にこれが出回っているのだから、入学初日に来歴が戦国に分かっていたのも史弥は納得した。

 そして、さらなる疑問が浮かぶ。


「このカテゴリーって?」


「カテゴリーってのは学校側が危険思想を持ち合わせていると判断したレベルを表してる。1が最高で下に行けば行くほど脅威ではないということだ」


「そうなんです……か…………」


 史弥は言葉を詰まらせると素面シラフのまま、

 この後、二人にはこっそり隠れて自分のデータを確認しようと密かに思った。

 ──もう風紀委員なのだからバレたところで問題はないのだろうが。


「ちょっと検索の仕方教えてもらって良いですか?」


「なんだ、もう調べたい奴でもいるのか?」


「ええ、ちょっと」


「そうか、これで悪用しようなんて考えるなよ? するとは思わないが」


「もちろんです」


 妙な間を空けずにキッパリ言い切り、悪用する意思の無い表明を含ませると史弥は戦国から操作方法を簡単に教わる。

 検索タスクを開き、名前を打ち込んでいく。

 だが自分のことは後回しだ。

 自分を検索する前に一人調べたい人間がいた。

 最近知ったあの女子生徒だ。


「西条静香、カテゴリー…………2……」


「あぁ、そいつか。そいつはなかなか癖がある生徒だぞ。なんせ事件は起きてるのに取り締まるネタが全然上がってこなくてこっちもお手上げなんだ。今は何か企んでるって情報ネタも上がって、要注意視されてる」


「とゆうことは今、一番ホットな奴なんですね」


「なんだ興味あるのか? 言っとくが女を口説くために使うなよ? あとそいつはオススメしない」


 全く興味ないだけに戦国のジョークを聞こえないフリで軽く流すと資料に目を走らせる。

 麗華も気になったのか同じ画面を覗き込む。

 途端に史弥との距離が近づいた事で柑橘系の爽やかな匂いが史弥の鼻腔をくすぐり、どこか甘い幻想へ(いざな)ってしまいそうになる。

 さらに距離間も意識させられる。

 どこか胸の鼓動が速くなるような不思議な感覚が史弥を襲った。


(い、いかん…………)


 辛うじて残った正常な判断が危険信号を発し、少しだけ麗華から距離を取ると史弥は正気を保つことに成功する。

 そんな史弥の行動に麗華は気付いていない──とゆうか無自覚な行動らしい。

 証拠に麗華の注意は、史弥の持つタブレットに完全に移っている。

 危うくその美貌に取り込まれないよう、史弥は警戒

 しつつ、改めてタブレットに視線を戻すと麗華は身に覚えがあるのか反応する。


「む、そいつは……」


「会長ご存知なんですか?」


 現実に精神をを引き戻して、横から眺める麗華に史弥は質問を投げかける。

 麗華はほんの少し思考したかと思うえば曖昧な返事をする。

 どこか確信に至っていない感じだ。


「あぁ、ちょっとな。少し私も気になっている人物といったところだ」


「へぇー珍しいこともあるもんですね。二人とも接点がないのにどうやって彼女を?」


「あまり良い噂を聞かない人物なんで」


「私もな」


「そうだったんですか。まぁ俺もこいつはいけ好かねえ噂をよく耳にするんで警戒はしているが、本当に尻尾を出さない。それと史弥。良いか覚えておいてくれよ。

 今この学校が落ち着いているのは均衡状態が保たれているからなんだ」


「そんな大袈裟なほど勢力でもあるんですか?」


 失笑気味の笑みを浮かべる史弥に真剣な面持ちで戦国は答える。


「あまり甘く考えない方が良い。この学校は一枚岩じゃないって事だ。いくつもの勢力があり、生徒会と風紀委員が介入する事で仮初めの均衡を保っているのが実情だ。日々、勢力図を塗り替えようとしている。鈴原も、西条もその一角に過ぎない。その事を忘れるなよ史弥」


「……わ、分かりました」


 やけに真剣な言いように若干物怖じしそうになるが引き受けたからにはもう後には引けない。

 手元で映し出される西条の情報に目を落としながら、前に踏み出すしかない、そう史弥は決心する。


「言い忘れてたが学内・外、問わず風紀委員が能力を不正使用した場合は委員会除名の上、一般生徒より重い罰則が下るから気をつけるように!」


 思い出したように戦国は付け加える。

 恐らくこの前の一件が尾を引いて蛇足のように足したのだろう。

 史弥は首肯して理解した事を戦国に伝える。


「あとパトロールの巡回ルートや風紀委員規則については…………また別日に説明するか。今日は疲れただろ、ゆっくり休め」


「ありがとうこざいます。またよろしくお願いします」


 どうやら今日のところは帰って良いらしい。

 史弥は軽く会釈して、翻そうとしたところで麗華の疲れた声が耳につく。


「ところで戦国、このあとなんだが…………」


「今日はダメですよ。俺も仕事が残ってるんですから」


「頼むよ戦国〜〜、ちょっとだけ手伝ってくれるだけで良いから、なッ?」


 今までの口調がかなり整然だったため、急な砕けた喋り方に史弥は少し驚きを隠せない。

 どうやら根は人懐っこい性格なのだろか史弥の前だと言うのに御構い無しだ。


「なッ? じゃないですよ! そうやってこの前も書類整理だけって言って、他ごともやらせたでしょ! 今日はダメです!!」


 強い拒否を口にする戦国に唇を尖らせていじけた様に麗華は拗ねてみせる。

 どうもこの麗華はオンとオフの差が激しい性格らしい。

 公の場では凛々しいのだが、プライベートになると急にだらし無くなるようだ。

 もはや威厳など皆無。


「だって今日はあいつらオフで全員帰宅してるんだもん…………。なぁー良いだろ〜」


「ダメって言ったらダメです!」

 そう言って諭すように宥める。

 猫撫で声で甘えるように女の武器を遺憾なく発揮しようとするが、戦国には通用しないらしい。


「えぇ〜、ケチっ…………じゃあ、須──」


 そのまま麗華の視線が史弥へスライドし、目が合うが、

「俺もこのあとは予定がありますので帰宅させて頂きます」

 キッパリとお断りさせてもらう。


「そんな事言うなよーー! こんな可愛いお姉さんが一緒なんだから楽しいぞ!?」


 言い切った史弥に麗華はゴネ倒そうとする。

 意外にも折れるかと思われた史弥だったが、このあとに可憐と待ち合わせて下校する約束になっている。

 先ほどの模擬戦で帰るのを遅らせているのにさらに待たせるのは大変申し訳ないし、下手をすれば麗華にドヤされかねない。


「なら史弥行くか。じゃあ会長また明日」


 戦国はこのままだと後輩が毒牙にかかりかねないのを見越すと、退出しやすいように誘導する。

 助けてあげたい気持ちをおさえ、心を鬼にして史弥は戦国へ着いて行く。


「お前らこの薄情者ーー!」


 後方から悲痛な叫びが聞こえたが、振り切るように風紀委員室の扉を開口一番に、


「あ、会長、ここの戸締りよろしくお願いします」


「せ、戦国ーーーー!!」

 無慈悲に去る戦国と史弥の背中をバックに、

 部屋いっぱいに眉目秀麗びもくしゅうれいな美少女の絶叫が響いた。


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