「教職員会議での一幕、それは序章」
「これが事実なら、実に興味深い」
一声、投じた男は視線を集めた。
周囲にはビジネススーツ姿の男女、白衣の研究員が円卓で着席している。
声を放った人物は中央に鎮座していた。
とある会議室の一室に集まった一同。
彼らは定例となった会議を行っていた。
内容はごくいつもの定時連絡だったが、終盤になって一件のイレギュラー報告が上がったのだ。
「我々、研究チームはGNIに登録申請をかけるべき新能力であると考えています」
白衣を着た研究者然とした男は、この場に一人だったが、我々という多人数容詞を使ったことで、総意で代表出席していることが伺える。
そして、研究者は興奮気味だった。
興味と探求がフツフツと湧き上がり、今にも研究に取り掛かりたいと言わんばかりの様相を呈している。
しかし、それはスーツ姿の一団内にいる男性から否定される。
「いや、これは秘匿する内容だ。
アンチアビリティーの報告は世界でも初めて。
ニューマンに対しての抑止力として重宝される人材。
同時に、ニューマンを脅かす天敵という見方もある。
そんな人間がいることを発表しては、国内・外の組織を問わず、狙われ、拉致されかねない。まだ野蛮な危険思想である、オールドショックが根付いている昨今では、様々な組織の軍事利用への懸念と危険が付いて回るだけだ」
「では、発表はしないと?」
「あぁ、そうゆうことだ。ことは慎重に対応しなくては。ニューマンと旧人類との均衡を保つためにも、ひとまずは我々、"ネス"内でのみ共有するとしよう」
スーツの一団の一人は、告げると居住まいを正して、深く坐り直した。
研究員は落胆し、沈むように肩を落とす。
大発見を発表できないことに。
「…………では仕方ありません。分かりました……」
気を取り直したビジネススーツの男性は今後の方針を述べる。
「君達にはこのまま研究は続けてもらう。能力の詳細なデータをとり、本部へ送ってくれ」
ビジネススーツの男性はその言葉を最後に締め括った。
「それなら彼を風紀委員に推薦してみては如何ですか、風間特等?」
突拍子もなくどこからか投げ込まれる提案。
「風紀委員だと?」
中央に座して座る男──風間は片方の眉を軽く吊り上げ、ピクリと動かす。
「何故、そう思う?」
軽く手を前で組み直し、関心を抱いたかのように話しを発言者に続けさせる。
「あれは不正能力使用を取り締まる役職。実地試験に御誂え向きかと。
それにどれほどの成果を上げられるかも調査できます」
「ほぅ、一理ある。しかし、本人にはどうやって説明するつもりだ?」
「アンチ能力者である本人が一番理解できるでしょう、この役職の意味を。それに強制させるわけではないのです。あくまでも本人の自由意志に委ねるとして、生徒会へ交渉を一任。もし断るようなら別の方法でデータを取りましょう」
「うむ、強制していない事が重要だ。学外──引いては世間体の問題だ。それならば問題はないな。では、他で異論や意見がある者は?」
沈黙が周囲に流れる。
それは全員が肯定したことを意味していた。
「では、決まりだな。後日、今回の決定を生徒会へ通達してくれ。
これにて教職員会議を終了とする」
一礼した教職員達は立ち上がると、会議室を早々と退出していく。
ただ、その中で風間だけは立ち上がらず、先ほど目を通したであろう資料を開く。
教職員達が全員室内を退席したとき、一言呟く。
「須山 史弥……。途中編入の上で入学。入学早々から学内で問題行動を起こしていた鈴原 涼と乱闘事件、ESP Abilitは世界で例をみないアンチスキル。
破天荒なのかそれとも…………今は彼の成り行きを一大人として見守るしかないか」
静まり返り、誰もいなくなった会議室内で彼は、これまでの経歴を纏め上げた一個人の資料を眺め、書面では分からない人物を一考するが、やはり分かるはずもなく、小さな溜息をつくのだった。




