【生徒会長と風紀委員】
「君が須山 史弥君で、その隣の君は春山 可憐さんだね?」
そう問われた二人は首肯した。
ECTから1週間が経ったある夕方。
史弥と可憐は夕暮れの生徒会室に招集されていた。
静かな部屋に窓の隙間から漏れる運動部の掛け声が室内に木霊す。
その何気ない日常的な喧騒が、妙な室内の緊張感を幾分か和らげてくれている。
史弥に確認を行った女子生徒は前に軽く腕を組み、二人の前に対峙している。
女子生徒の立ち振る舞いは凛々しく素晴らしく姿勢が正しい。
可憐も整った顔立ちをした美少女だが、この女子生徒も美少女と言われる分類に入る容姿をしていた。しかし、可憐とは違うベクトルだ。
黒髪長髪、黒タイツを履いた長い美脚で、男子生徒達を魅了してしまうだろう。
制服がセーラー服であれば、まさに地で文武両道をいくような大和撫子と形容できる容姿だ。
言動は整然としたハッキリな口調で、先輩らしさも感じる。
その女子生徒の横には風紀委員の腕章を付けた戦国 俊平が後ろに手を組み、付き従うように肩を並べていた。
そんな凛々しくも奥ゆかしい女子生徒は、さらに口を開いて自身の名前を名乗った。
「私は三年 生徒会長 冬月 麗華だ。
早速で申し訳ないが手短にいこう。君達がここに呼び出された理由は言わなくても分かるね?」
二人がここに呼び出される理由は一つしかなかった。
先日行われたECTの騒動であり、可憐による乱入事件だ。
この事件は学内の話題の的になるまで話は広がっており、知らぬ生徒はいない程になっていた。過去にない前代未聞の乱入騒動により可憐は有名人になり、史弥は涼の被害者として名を連ねている。
そのことを重々承知していた二人は、訊くまでもなく同意の返事をすると麗華は続けた。
「なら分かっていると思うが、先日行われたECTでおきた騒動の経緯と聴取になる。
学校側からはこの件について生徒会及び風紀委員へ協力要請が出されている。
そして我々は正式に受理している。だからこういった形となったのだ」
ここで風紀委員であり、先輩でもある戦国は補足する。
「二人ともまだ知らないといけないから言わせてもらうが、ここ国立稲沢高等学校の生徒会と風紀委員は自治活動及び能力不正使用の取り締まりを任されていてな。今回はその原因究明の協力要請が学校側からあったんだ。まあ大体何があったかは二人以外からも聴取して理解している。大変だったな二人とも」
戦国は二人に簡潔に説明し、職務と先輩という難しい立場でいながらも二人を気遣おうとする。
だが生徒会長という立場にいる責任者である麗華は公平な立場を示す。
「戦国! いきなり二人に肩入れしてどうする!
まずは事実確認からだろ!」
「会長、しかし……」
戦国は反論の言葉を述べようとしたがキツく眼で威圧されると押し黙る。
あくまでも公平的な立場で物事を考えろという意味だ。
「では、事の経緯を説明してくれ。それと戦国は口を挟まぬこと」
戦国を横目に、職務を全うしようと、麗華は経緯説明を求める。
それから史弥と可憐はお互いのこれまでの経緯を説明した。
麗華は時折、頷きながら話しを聞き、思慮深い顔をする。
しばらくして聞き終えると、麗華は話をまとめる。
「ふむ、では須山くんはシールド能力がカットされたESPDチョーカーを鈴原 涼に当てがわれ、故意に攻撃を受けていた。それを知った春山さんは助けだすため、場内に入り鈴原 涼を戦闘不能まで追いやった。
そういう事だね?」
「はい」
史弥は可憐の分も含めて返事をする。
隣で声を張ってくれた史弥の代わりに同意を表明して可憐は頷いていた。
生徒会長の顔から少しの緊張が解けていく。
「説明ありがとう。これで事実確認ができた。
我々が事前に現場に居合わせた生徒達からの聴取内容と合点がいく。
『なぜか通らないはずの攻撃が男子生徒に直撃し、そのあとから同じクラスの女子生徒が突然乱入して場が騒然になった』、
ただその攻撃が故意に攻撃していたように見えたという証言や乱入した女子生徒が庇うように応戦していたという証言とね。
これで事故に見せかけた故意の傷害という事実が残る」
麗華はひとまず納得を見せていた。
だがすぐに腑に落ちない表情を見せる。
「鈴原 涼はESPDチョーカーが非作動状態だと分かった上で今回の実習を行っていたという事か……。となると誰が一体……」
麗華は顎に手を置き、軽く俯いて思案するが、答えが出ない様子だった。
「どうかされたんですか?」
史弥はそんな麗華へ質問を飛ばす。
質問された麗華は表を上げると、未だ答えが出ないようだ。
「今回の事件には不自然な点が多くてね。ここからの話は他言無用で頼みたいが良いかな?」
史弥と可憐は頷き同意を示す。
「実は今回、須山くんが使用したESPDチョーカーだが、どうやってすり替えたのかが分かっていない。元々、学校関係者と教職員しか触れないよう、厳重保管されているもので生徒がどうこうできる代物ではない。だが現にすり替えが行われた。
もちろん主犯格である鈴原 涼が計画したことに間違いはない」
「どうゆう事ですか?」
「すり替えたはずなのに、記憶が曖昧で覚えてないんだ。
まるでその部分だけが抜けてしまっているかのように」
「自分達が画策して、準備したはずなのに記憶がないんですか?」
「そこが今回の可笑しなところなんだ。
いずれにせよこれから主犯格である鈴原 涼と先ほど話に出た、共謀している二人へ深く追求していく事だろう」
ここで麗華はこの話題に一区切りつける。
「今、鈴原はどうしてるんですか?」
史弥はこの騒動を起こした本人がどうなったのかを尋ねる。
その顔色に怒りの色はなく、ただ冷静に興味本位で訊いた質問だった。
「現在はニューマン専門管理病院にて拘留されているよ。事件当日に執拗で一方的にチョーカー非作動状態だと分かっているにも関わらず、故意に攻撃した可能性があるとの証言があっては、当然の処置だ。事件全貌が分かるまでは事実上の停学という状態だな」
そこで会長が思い出したように可憐へ告げた。
「そうだ、次に春山さんが破壊した電子ロック式自動開閉扉の備品の件についてなんだが」
言われた可憐はバツの悪そうな顔になる。
人助けとはいえ、学校所有の備品破壊を行った事実に変わりないのだ。
この件については、可憐の悩むところになってしまうし、史弥もカバーできない。
だが擁護しないかと言われれば、間違いなく史弥はする気だった。
「扉については備品破損として処理され、稟議書を通して修復される。学校側も今回の事件はあまり大事にしたくないようでね。先の須山くんの件も含めてだが。
なにせ絶対安全のECTで事故など、どんな理由であれ表沙汰にはしたくない、そういう事だ。だから実習中の破損として処理される予定になる」
麗華は言葉には出さないが国の隠ぺい体質に辟易としつつ、組織としての体裁を維持するために渋々従っている、そんな印象を史弥は受けた。
しかし、可憐の責任所在もうやむやになり、結果オーライとなったことは怪我の功名ではあった。
未解決ではあるが終息した今回の事件に一息つく生徒会長。
ここで公私の公の部分を私へ切り替えたように、人の悪い笑顔を見せ始めたかと思うと、可憐へ冗談交じりに問い詰めていく。
「しかし無茶をしたな春山さん。そんなにこの須山くんを助けたかったのかい?」
そう言った麗華は史弥へ近づき、値踏みするような視線を送る。
その矛先は下半身から上上半身へと移っていく
「確かに制服越しだが体つきは他の高校生に比べて良い方にみえる。
ルックスもそれほど悪くない。君はスポーツか何かをしているのかい?」
「えぇ、武術を少々」
「そうなのか。なら納得できる体つきだ。
ところでなぜ春山さんは私と須山君の間に入ったのかな?」
気付けば可憐は、麗華と史弥の間に体の半身を割り込ませ、まるで身辺警護するSPかのように乗り出していた。
史弥はその頭に疑問符を浮かべる。
「可憐? 急にどうした?」
「え? あれ? いや、どうしちゃったのかな! わたし!」
咄嗟に取った行動なのか、可憐は自分でとった行動に呆気からんとしている。
そこで何かを悟ったのか麗華は得心がいったように半眼を閉じてこちらを見て笑う。
「なるほど、そういことか。ふははははっ! 史弥くんも中々、人が良いのだな」
「おっしゃる意味が分からないのですが……」
「今はまだ良いと思うが、あまり朴念仁だと愛想をつかされるから気を付けた方が良い。
これは女性としてのアドバイスだ」
「ですから仰る意味が……」
それ以上の言葉が出てこない程、史弥は言葉の意味が理解できなかった。
横目で可憐を見た史弥は彼女と目が合うが、すぐに向こうから逸らされてしまう。
その史弥には可憐の頬が仄かに赤く染まっているようにもみえた。
唯一、答えが分かりそうなクラスメイトは黙秘して答えを教えてくれないようだ。
自分で答えを考えろ、そう告げているように。
助け舟を求めて史弥は視線をスライドする。
戦国を視野に入れ、目線に救援を含めて送る。
だが、この中のもう一人の男である先輩も首を傾げている
「ダメだぞ須山くん。戦国も筋金入りの唐変木だ。おまけに脳筋ときている」
「それってどうゆうことですか!?」
戦国は狼狽えながら、説明を求めたが麗華はスルーした。
結局、この話は男子二人と女子二人に、埋められない溝を残して終息となった。
一通りの聴取が終わり、話しきった二人は退出するため一礼して生徒会室を後にしようと踵を返したとき、呼び止められる。
正確には史弥が呼び止められた。
「すまないが史弥君は残ってもらえるかな?」
とても自然な流れだった。退出間際に声をかけたのは狙っていたのかと思えてしまうほどにだ。
可憐だけに席を外して欲しいとは言わなかったのは麗華なりの気遣いなのだろう。
残される理由もないが、断る理由もない史弥はそのまま了承した。
可憐は残る史弥に「扉の近くで待ってるね」と声をかけて先に退出していった。
静寂が残された三人を包む。
そして静寂を破ったのはここに残るように頼んだ麗華だった。
「残ってもらって申し訳ない。実は史弥君に伝えないといけない事があってね」
「なんですか? その伝えたいないといけないこととは?」
「君のESP Abilityに関する事だ。
実は君と鈴原 涼のECT時に残された映像記録を観させてもらった。
能力の使えない状態で実に奮戦した戦いだったよ。最後の映像を観るまでは」
「それは可憐が助け出すまで……」
言いかけた史弥の発言にかぶせる様に、遮って訂正すると麗華は続けた。
「そうじゃない。君が庇うまでの事を指して最後と言ったんだ。
君は最後、可憐さんの盾になって庇った際にESP Abilityを発現したんだ」
そう告げた麗華は不可解なほど楽しげだった。
そんな生徒会長に真っ向から意見をぶつける。
「しかし、変化と呼べるものは何も起きませんでした。あれで何か起きていたと言うのですか?」
「起きていたじゃないか。目の前で鈴原の能力を消滅させるという事象が。
いちよ言っておくが、これは私の推論で話しているのではなくて、ECTに立ち会っていた研究者と教師陣からでた答えだ。
実際にECT専用スーツには多種多様な計測機器が備わっていてね。
その中の一つに、能力使用を表す計器が備え付けられていた。
そして、計器はあのタイミングで激しい反応を示していたんだ」
俄かには信じられないが、事実を受け止めるしか史弥にはなかった。
その証拠に今はその能力の正体を知るために押し黙り、しっかりと麗華の話に耳を立てている。
「映像記録を検証してでた結論を伝えよう。
君の能力はニューマンを“無力化”する力だ」
「……それは具体的にどういった能力なんですか?」
さっぱり話が掴めない史弥の出た口からは、疑問の言葉しか出てこなかった。
「発動兆候や条件は、今後、君の協力のもとで解明していく事になるが、恐らくはある条件下で対象のESP Abilityを完全無効化するといったところだろう。
なにせ類似するESP Abilityが存在しないものだから、例がなくて研究者達も興味津々だったよ。もしこれが実証されれば、グローバルニューマンインデックス(新人類能力目録)にも登録される程の事だそうだ」
そう話した生徒会長の麗華は自分の事のように嬉しく話している。
しかし、史弥は対照的に微妙な表情だった。
なぜなら史弥自身が思い描いていた特殊な能力とはかけ離れていたからだ。
期待していたのだ。
超常的な自然現象や異能力が自分に秘められていると。
だから落胆も少なからず当然の事と言えば当然であった。
そんな様子もつゆ知らず、麗華は能力の名前を告げようとする。
特徴がない事が特徴。まるで言葉遊びのようなその能力の名前は────
「仮ではあるが実証されればこの呼称が正式に付くことになっている。
『ザ・ノーマル』。君の持つESP Abilityの名前だ」
異能で無能な史弥のESP Abilityの名が、麗華のアルトで、艶やかな声で、生徒会室内に響いた。
(入学編 ~上~ 完)




