久利生遥偉編 私が愛してる人を悪く言うのは
そうだ。子供が、
<大人にとって都合のいいそれっぽい振る舞い>
をしていたらその時点で安心してしまって子供の見せている振る舞いが果たして当人の<素>なのかそれとも単なる<演技>にすぎないのかを考えようともしない大人も多かった半面、不思議とそういうのを見抜いてしまう大人もいた。
しかも、時によって見抜けたり見抜けなかったりということも。
まあそれ自体が、
『自分に都合のいいものしか見ない』
という人間の悪癖のなせる業なのかもしれないが。
普段から子供の様子をよく見ている親なら子供の様子が普段と少し違うだけでも察してしまうにしても、普段は子供のことなんてロクに見ていない親が子供の<上辺だけの振る舞い>を見抜けたりすることがあるのは、実は、
『子供のことを信じていない』
から、
『嘘を吐いているんじゃないか?』
という疑いの目で見ていてピンとくることもあるだけなのかもしれない。だとしたら実に悲しいと思うよ。
その点、俺の両親は普段から俺のことをよく見てくれていたから僅かな変化も見抜けたんだろうなとは思う。俺にとっては本当に尊敬できる人達だった。あの人達の姿が俺の頭の中にはあって、俺もそうなれるように心掛けているというのは確かにある。
そういう話をすると、久利生は、
「本当に錬是が羨ましいよ。僕の両親は僕を信じてくれていなかったと思う。だから僕が<あの人達の理想の子供>を演じても見抜かれてしまったんだろうな」
寂し気に笑ったりもした。そして多くの他人もそんな彼の内心には気付かずに表面的な才覚ばかりを見て羨んだり憧れたり妬んだりしていたのかもしれない。
これにはビアンカも、
「少佐…遥偉がそういうのを抱えていたことに私も最初はまったく気付いてませんでした。ただただ『素敵な人だな』ってときめいていただけなんです。彼のことを分かろうともしないでキャーキャー言ってただけで、その頃の自分をひっぱたいてやりたくなります」
険しい表情で心底悔しそうに心情を吐露したり。そんなビアンカを、
「あはは。僕としてはビアンカが自分をそんな風に責めるところは見たくないかな。自分を省みるのは必要だとしてもね」
労わってもくれる。するとビアンカも、
「だったら少佐…遥偉も自分のことをあんまり悪く言うのはやめてください。私が愛してる人を悪く言うのはやめてください」
涙を滲ませながらそんなことも。これには久利生も。
「そうだね。よくないね。僕も愛する人を悲しませたくないよ」
って。




