久利生遥偉編 それがもう本当にショックで
地球人社会では往々にして、
<個々人の資質に依存した体制や制度>
なんてのが生まれたりするが、そういうのは最終的に破綻して消え去ってしまったりもしたらしい。
<性善説を前提とした仕組みや制度>
なんかもそうだな。そういうのは、
<仕組みや法の理念を理解しようとしない輩>
に悪用されて破綻し、本来それを必要とする者にしわ寄せを押し付ける結果になったりもしたと。
だからここでは資質や器に依存した仕組みや制度は作らないようにしなくちゃと思ってる。
これについては久利生自身、
「僕もそうであってほしいと思ってる。他人には普通にできることが自分にもできて当たり前と思われるのはつらいからね」
とのことだった。
凡庸な俺からすれば途轍もなくハイスペックに思える彼も、優秀な人間を数多く輩出してきた久利生家の中では、
『飛び抜けて優秀』
というほどではなかった。むしろ、
「まあ、あなたはあなたなりに頑張ればいいのよ」
って感じで、大学に進学する頃に母親にそう言われたそうだ。明らかに諦め顔の作り笑顔で。
「医師の仕事を経験しておきたい」
と相談しなんとか期限付きで認めてもらったのを併せてももう両親からは期待されてなかったのを察してしまったと。なにしろ父親に至っては目も合わせなくなっていたそうだし。
さらに両親が、
「あいつは駄目だな。取り敢えず継投として無難にこなせてもらえれば上等か」
「そうですね。小さい頃はもう少しできる子かなって思ったんですけど、母親の欲目でした」
だとか話しているのを聞いてしまったらしい。
「それがもう本当にショックで」
久利生自身はやや自嘲気味に苦笑いしていただけだったものの、一緒に話を聞いていたビアンカが、
「私……この子達にはそんなこと絶対に言いません……! 親が……そんな……」
涙を滲ませながら悔しそうにそう絞り出した。
「なんでそんなこと言うんだろうね」
まったくピンときていなかったようでケロッとした様子の灯とは実に対照的だった。まあ地球人社会で暮らしたことのない灯にはなるほど想像もできない空気感なんだというのは分かる。久利生の両親のような発言が出てくる背景自体がここにはないわけで。今のこの状態を維持し続けられればありがたいんだが、人間が増えてくると次第にしがらみのようなものも増えてきてしまうんだろうなとは思うしかない。
だから地球人社会でルコアが子供を生むには本当に様々な厄介事や面倒事が溢れてたんだろうなと考えてしまう。
剣呑剣呑。




