久利生遥偉編 僕自身の矜持のために
なんにせよ<朋群人・久利生遥偉>は、今はどこまでも自分のために人生を生きている。
<畑仕事>と<鍛冶仕事>については大幅に減らし、
<医師として万が一を想定したシミュレーション>
を重ねているものの、それは、
<ルコアのためにしていること>
のようにも思えるものの、
『我が子の一人であるルコアを守りたい自分自身のために』
していることでもあるからなあ。
それにしても、ルコアの妊娠が判明してからだけでも五ヶ月以上。ほぼ毎日ありとあらゆる状況を想定してシミュレーションを繰り返しているのはもはや<執念>すら感じるよ。普通の人間だと精々数パターンの状況を想定して対処法を検討すれば済んでしまうであろうところを本当にわずかな状況の変化すら見逃さないようにしてそれに則した手法を実践するためにハートマンとグレイを伴ってVRを用いたトレーニングを行っている。
傍目に見るとVRゴーグルを掛けた男性がロボット二体に囲まれてあれこれしてるわけで、人によっては滑稽にも感じるかもしれないが、これは地球人社会でも当たり前のように行われているものなんだよな。
ああでもさすがにここまでのは一般的でもないのか。しかし相手は<サーペンティアン>。<地球人>の妊娠出産であればノウハウも十分に積み重ねられているから想定するべき<万が一>もある程度は絞り込めるにしてもサーペンティアンの場合は本当に何が起こるか分からないからな。ルコアの遺伝子を基に再現されたVRによってトレーニングを重ねていくしかないということか。
そして今日は、出産によって産道が傷付き大出血が生じたという想定で行っていたらしい。そしてそのパターンについても細かな点での違いを想定して何回もトレーニングを行う。もうそれだけで彼の真剣さが伝わってくるというものだな。
『ルコアを絶対に守る』
という気持ちがそこにはある。もちろん何にでも<絶対>なんてものは有り得ないことも承知しつつ、それくらいの気構えを持っているということなんだ。
そんな彼に対して、
「本当にありがとうございます。私のためにそこまで」
トレーニング用に設けられた小屋から出てきた彼を見たルコアが恐縮した様子でそう声を掛けるものの久利生は、
「これはいわば僕自身の矜持のためにしていることでもあるからね。負担になっているわけじゃないよ。だからルコアは自分自身を健やかに保つのを心掛けていてくれればいい」
穏やかで爽やかなイケメンスマイルでそう返す久利生に男の俺でも惚れてしまいそうだ。




