黎明編 エピローグ
こうして、結果的に<黎明の恋物語>については有耶無耶になってしまう形になった。蒼穹の件に続いて<恋物語の展開>を期待する者からすれば有り得ない話だとは思うものの、
<生きた人間の人生をエンターテイメントとして消費したい輩>
の期待に応えてやらなきゃいけない理由は俺達にはないからなあ。だから俺自身はまったくもってこれでいいと思う。
その一方で、徐々に大きくなってくる自分の腹を撫でながら、
「大丈夫かな……ちゃんと産んであげられるかな……育てられるかな……」
なんてことを度々口にするルコアについてはとことんしっかりとサポートしなければと思わされるし、どういうサポートが適切なのかもついても手探り状態だから俺達自身にも不安はある。そんな中で、
「大丈夫だよ。私がついてる。未来もいる。ルコアの赤ちゃんは私達で育てるんだ。ルコアを一人になんかするもんか」
黎明が力強くそう言って励ましていた。そしてそれは口先だけの<応援>じゃないのも分かる。未来以上にルコアの傍にいて同性だからこそ気付ける部分について実際にしっかりとサポートを行ってくれてるんだ。
黎明の気持ちがもし、
<ただの恋>
だったらここまでできなかったかもしれない。恋愛物語のキャラクターなら好きな相手が自分のじゃない子供を生むとなったら口ではあれこれ言ってても内心では怯んでしまっていたかもしれない。けれど黎明はむしろ以前のようなあどけなささえある浮ついた様子ではなく頼もしさすら感じさせる毅然とした態度を見せるようになってくれてるんだよ。
いやはや、
『環境が立場が状況が人間をつくる』
とはよく言ったものだと思う。
『ルコアに子供が生まれる』
という状況が黎明の心理に大きな影響を与えたのは間違いないだろうな。
<恋物語として望ましい展開>
ではなくても、
<一人の人間が成長する流れ>
としては十分に『あり』だと俺は思うんだよ。それを思えば黎明は実に望ましい姿を見せてくれてるんじゃないか?
もちろんこれだけで彼女が立派な<成人>になれるとは思わない。きっとこれからも未熟な部分を何度も見せることになると思う。実際に赤ん坊を前にすれば狼狽えたりしたりするかもしれない。でもそうやって行きつ戻りつしながら人間は成長していくはずなんだ。俺だってこの歳になっても自分を<立派な大人>だとは欠片も思えないし。
だがそれでいい。彼女の成長を見守りつつ俺達も成長を続けていく。それが<人間>というものだと黎明を見ていてしみじみ思う。




