黎明編 獣人の形質
ルコアの妊娠が判明して二日が経った。が、ゆっくり休んでいたのは昨日までで、今日はもう普通に<仕事>をこなしていた。野生の生き物は妊娠しているからといってゆっくりと休んでいることはあまりない。となれば<獣人の形質>を持つルコアもむしろある程度は体を動かしていた方が体にはいいのはシミュレーションからも判明している。体が鈍ると逆にリスクが高まるようだ。
ただ、
「ちょっと頭がぼんやりします」
ということなので<授業>についてはしばらく休むことに。
「残念だけど仕方ないよな」
「ルコアのが大事だから」
未来も黎明もそう言ってくれているし、
「分かった」
蒼穹も平然と受け入れてくれた。が、三人ともやたらと心配したりはしてこない。野生寄りのメンタルを持つ黎明達はこういうことではそこまで不安になったりもしないんだよ。気遣いはするものの本質的には、
『なるようになる』
と考えている感じか。特に黎明は、
「ルコアの赤ちゃん、可愛いだろうなあ♡」
すでに見てもいないルコアの赤ん坊にメロメロだ。畑仕事を一休みしている時にも、
「ねえ、おなか触っていい?」
などと訊いてくる。
「あはは、まだぜんぜん小さいから触っても分かんないと思うよ」
ルコアも少し困ったように微笑みながらも、腹に触れてくる黎明に嫌がったりはしていなかった。
そんな様子も、地球人には理解が難しい部分かもしれないと思ったりはする。地球人なら自分の想い人がいきなり妊娠したら動揺するだろうし、動揺は乗り越えても今度は過剰に心配したりするかもしれない。むしろそれが当然だと感じるだろう。でも、黎明達は違う。<生きるか死ぬかの境界線>は彼女達にとっては<日常>なんだ。『死んでもいい』とはこれっぽっちも思っていなくても、地球人ほどは<死の影>に怯えてもいない。そしてそのために毎日毎日を堪能して生きている。
素戔嗚やキャサリンを見ていてもそう感じるよ。素戔嗚もキャサリンも地球人のようにはしゃいだり笑ったりはしないものの間違いなく自身の生を謳歌している。自らの命をしっかりと使っている。地球人には理解できないかもしれないが、黎明達はちゃんとルコアを案じてくれているんだ。
その上で、医療的技術的に可能な限りのサポートを行っていく。これは<大人>である俺達の役目だ。いずれは黎明や未来もその辺りについて学んでもらって具体的な対処を行えるようになっていってもらいたいと思っているしそのための準備も整えている。




