黎明編 ミッション
<ルコアを無事に出産させるミッション>が始まったものの、俺達人間としてはとにかくルコアが不安にならないように振る舞うのを心掛けるだけだった。医学的技術的なサポートについては、
「僕も産婦人科医じゃないからね。もっとも産婦人科医だったとしてもサーペンティアンの妊娠出産なんてどうすればいいのかさっぱりだと思う」
久利生も自嘲的にそう口にするしかできなかった。ビアンカの時にも医師としての知見を総動員してサポートしてくれたが、ビアンカが黎明を妊娠出産した時には<地球人そっくりの部分>でのそれだったから、<アラニーズの本体>が付属しているがゆえの諸々については手探り状態だったもののいくらかは知識が通用する部分もあったのもまた事実。
が、今回のルコアは<サーペンティアン>。腰から上は地球人とほぼ変わらないものの腰から下はヘビのような形をしている。しかもシルエットがヘビに似ているというだけで肉体の構造自体はイルカの方がむしろ近いかもしれない。皮膚の質感とかも含めて。
なので既知の情報はほとんどあてにならない。ルコア自身から得た遺伝子サンプルを基に行ったシミュレーションの方がまだ役に立ちそうだ。そのために行ってきたシミュレーションでもある。
で、シミュレーション内での成功率は九十二パーセント。非常に高いようにも感じるかもしれないが、地球人社会であれば妊娠が継続できれば出産についての<万が一>はそれこそ十万件のうち一件程度である。しかも命まで落とすとなればそれこそ百万件に一件以下らしい。まあ人間そのものが三百億人もいれば<百万分の一の確率>であっても件数としてはそれなりのものになる。ましてや、
『八パーセントの確率で万が一が有り得る』
となると到底楽観視できるものじゃない。だから久利生も万が一に備えてモニカやテレジアと共にシミュレーションを行う。VRを用いて想定される事態に沿った処置が行えるようにトレーニングを積むんだ。その間、畑仕事や鍛冶仕事については休むことになるもののそこはホビットMk-Ⅱを充てることで補う。
基本的にその辺についてもモニカとテレジアで対処できるとは思いつつ念には念を入れてだ。ちなみに地球人社会ではロボットが主体になって医療行為は行えないが、そこはルコアが『地球人じゃない』ことが皮肉にも幸いするだろうな。加えて現状ではまだ<遭難中>であり<緊急対応>が適応される点でも幸いしていると言える。




