黎明編 ただの物語じゃない
そんなわけで、<黎明の恋物語>については意外な展開を見せることになった。普通の恋物語であればまったく話が別方向に逸れていくようなものだろうから批判も集まるかもしれないものの黎明達にとってはこれはあくまでも<現実>だ。<ただの物語>じゃない。<誰かにとって都合のいい展開>が繰り広げられるべきものでもない。こうなった以上は実際の状況に合わせて対処していくしかないんだよ。
こうして、
<ルコアを無事に出産させるミッション>
が始まった。ビアンカについては黎明の時もケイン達の時もなんとか無事にやり遂げられたが、<地球人のそれ>とは違うだけどんなリスクがあるのかすら今はまだ判然としない。場合によっては命にすら関わる事態にすら陥る可能性はあるだろう。もしそうなった時に何ができるのか、これまでも徹底的にシミュレーションしてきたつもりだが今後はさらにそれを進める必要がある。
「こういう時にルコアを人間として最優先に考えられるAIが必要なんだな」
サディマも改めてそう言ってくれた。今回の事例には間に合いそうもないものの、結果として、
<家畜の妊娠出産>
という形でAIやロボットの支援を受けることにはなるものの、現状ではそれに甘んじるしかないのは事実である以上、その中で最善を尽くすだけだ。
『人間の心を持つ女性が妊娠出産に挑もうとしてるのに家畜扱いとか酷すぎる!』
と感じる人間(地球人)もいるとは思う。それ自体は『地球人としては』異常でもないんでもない感性だと思う。だがそれは決して、
<目の前の現実と向き合う姿勢>
じゃない。
『自分が思っている理想にそぐわないものは悪だと思い込んでる』
だけだろうさ。そして地球人社会においてはそういう思い込みが無自覚に他者を傷付けるということが散々起こってきた。でも俺達はその轍を踏みたくない。今のAIやロボットがルコアを<人間>と認めてくれなくてもAIもロボットも、
『人間(地球人)である俺の幸福に資する』
ためなら途方もない献身を行ってくれる。俺が、
『ルコアに無事でいてほしい』
と願うならそのためになんでもしてくれるんだよ。それを利用する。
ただ、黎明も未来もその辺のところをまだ十分に理解できていない。だから<子供>なんだよ。<成人>と見做すことは難しい。
でも、二人がルコアのためにしたいことがあるのならそれはしてもらおうと思う。できる範囲で。できないことをさせるつもりは毛頭ないが。
地球人社会だとこれも<児童労働>と見做されることもあるんだよな。




