黎明編 陽性反応
『恋愛か友情かなんて無理に区別する必要も感じていない』
結局はそういうことなんだろうと思う。俺達の誰も<恋愛巧者>というわけでもなく、
『恋愛について一見識ある』
わけでもない。ただただその時の自分の気持ちについてなるべく客観的に捉えて可能な限り穏当に折り合いを付けたいだけだ。
『恋愛感情がそんな理屈っぽく割り切れるわけないだろ!』
と言うかもしれないが、
『自分の感情ばかりを重視してそれ以外については蔑ろにしていい』
というのは性に合わないんだよ。コーネリアス号の乗員であるシモーヌ達は特にそういう感情に振り回されて危険な状況を作り出すようなタイプの人間じゃないからこそ選抜されたというのもあって、恋愛感情に囚われて状況判断ができなくなるようなこともなかった。だから基本的に子供達もある程度はそれに倣ってるはずなんだ。
が、俺がそんなことを考えている時、
「……?」
ルコアの体がわずかにぐらついたのが俺にも分かった。俺にさえ分かるくらいだから当然、<人間をサポートするためのロボット>であるモニカには異常が察知できて、
「ルコア、血圧の異常低下を検出しました。直ちに部屋に戻って休息を取ることを強く推奨します」
声を掛ける。と同時に、
「ルコア、大丈夫か?」
未来もすぐに察して駆け寄ってくる。すると異変に気付いた黎明も、
「ルコア……!」
心配そうな表情で同じく駆け寄ってきた。これにルコアは、
「あ、うん、ちょっとくらってなっただけで気分とかはそんなに…」
と口にした瞬間、手で自分の口を押えて、
「うぷっ……!」
えずいた。これで『大丈夫』はさすがに説得力もない。顔色も明らかに悪いし。
ホビットMk-Ⅱのカメラ越しにそれを見ていた俺は咄嗟に、
『やっぱり肉体の構造的な問題が……?』
と考えてしまったが、
「ルコア、もしかして、悪阻……?」
ビアンカが近付いてきて尋ねた。唯一の<経験者>としてピンときてしまったのだろう。これにはルコアもハッとなったものの、
「そう言えば……」
なんとなく思い当たる節はあったようだ。
こうして自分の家に戻ったルコアをモニカとテレジアが介抱すると同時に検査を行って、
「陽性反応が出ました。妊娠です」
「エコーにもそれらしき影が捉えられました」
と告げてきた。これに、
「やっぱり……」
一番腑に落ちていたのはビアンカだった。
「自家受精だね……」
まったく同じ経験をした<先輩>として呟く。
「……」
対してルコアはさすがに言葉を失っていたのだった。




