黎明編 命を奪いに
『攻撃性を向けなきゃいけない理由を作らない』
そしてこれは、なにもイザベラやキャサリンについてだけの話じゃない。
黎明や未来も含めたこの地で生まれる人間達すべてについての話だ。
人間に限らず<別の命>である限りは何らかの形で衝突することはある。それまで一切合切『駄目だ』と言うつもりはないんだ。ただ、悪意でもって誰かを傷付けようとするのは避けるべきだというだけで。
でもなあ、
『何をもって悪意と見做すか?』
は線引きが難しいのも分かってる。えてして意図的に誰かを傷付けようとする人間は自身の行為を<悪意によるもの>と認めようとしないのが多いし。
だからそういうのも含めて、
『自身の攻撃性を他者に向けない』
のが重要なんだと思う。攻撃性を誰かに向けると相手も攻撃性を向けてくるから。結局のところ、
『大人の側が率先して手本を示さなきゃならない』
という話に帰結するんだ。地球人社会ではその大人が甘えていたから『他人の所為』『社会の所為』にして誰かを攻撃することをやめられなかったんだし。それをわきまえたい。その一方で、適度に攻撃性を発散させることで拗らせないように誘導しなきゃとも思う。
そして今、まさしく黎明と未来が発散している真っ最中だった。
黎明は、イザベラとビアンカから逃げようとしていたガゼル竜に対して草の陰から飛び出したのと同時に、左の掌底をガゼル竜の胴に叩き付けた。瞬間、ガゼル竜の体が突き落とされるかのように地面に転がる。実はまったく無防備に食らったわけじゃなくてすぐさま進行方向を変えて躱そうとしたんだ。しかし黎明がさらに踏み込んで打撃を届かせた。
この辺はただただ生来のスペックに頼っているだけじゃなくて、ビアンカや久利生との鍛錬によって身に付けた<体術>だった。他者から得た知見を基に自身の能力を高めることができるのも人間ならではか。しかも倒れたガゼル竜に飛びついて首を締め上げる。本当に無駄のない<獲物を仕留めるための動き>だ。だが同時に鬱憤を晴らすかのように渾身の力で『命を奪いに』きた。
もちろんガゼル竜に何か恨みがあるわけじゃない。食用肉を確保するための狩りのついでに日頃の<憂さ>を晴らしてもらうためなんだ。それを黎明はしっかりと活かしてくれてる。
一方で未来も逃げてきたガゼル竜の首に右腕を巻き付かせて締め上げつつ左手の人差し指と中指を獲物の左目に突き立てて抉った。
「ゲアアアアアーッッッ!!」
金属音のような悲鳴を上げつつガゼル竜は猛然と抵抗したのだった。




