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黎明編 拗れた感情

アラニーズの本体の足の先は鋭く硬い爪になっていて、並の獣の体など容易く貫く。


だからこの時も、ガゼル竜(ガゼル)を文字通り<串刺し>にしてそのまま地面に縫い付けた。ビクビクと断末魔の痙攣を見せる獲物を満足げに見下ろすイザベラは、自身の口の周りに付いた返り血をべろりと舐める。その姿も実に恐ろしいものだ。しかし同時に頼もしくもある。もう自分の力で自分を守ることくらい朝飯前だからな。


ビアンカも我が子の成長に顔がほころんでしまっていたのがホビットMk-Ⅱのカメラに捉えられていた。


地球人社会だとさすがにここまで血生臭い状況でのそれは引かれるどころかネットにでもアップすれば炎上さえしてもおかしくないものだろう。でもここじゃこれくらいでないと一人で出掛けるなんてそれこそ怖くてさせられない。背景がまるで違うんだよ。


<多様性>という概念を前提にしてしか今の地球人社会は成り立たないが、今なお多くの地球人は感情の面で、


<自分とは大きく異なる者>


を受容することがなかなかできないでいる。いくつものコミュニティを作っているのはそのための<妥協案>とも言えるのかもしれない。コミュニティを作って組織として異なる価値観と接するわけだ。そうすれば個人で向き合う必要がなくなるし。


その一方で、『個人として』自分の気に入らないものを攻撃もする。実に厄介で面倒な生き物だよ。朋群(ほうむ)人がそうなってしまうのはなるべくなら回避したいんだけどなあ。


地球人の場合は歴史上様々な衝突がありその度に晴れない憎しみを生みわだかまりにわだかまりを重ねてきた。ゆえにもはや解きほぐすことさえ不可能に思える<拗れた感情>がヘドロのように沈殿しているとも言えるか。


なら、そんな<ヘドロ>を生み出さないようにしていきたいよな。


そう言えばコーネリアス号に保存されていたコンテンツの中にあったドキュメンタリーで、オリンピックで金メダルを取ったあるアスリートが紹介されてたんだが、それによると生来の本人の<特徴>を周囲が十分に理解してくれなかったことで非常に複雑な精神構造を構築してしまい、コーチとの関係を素直に受け止めることができなくなって、かなり特異な印象を受ける人物と世間には認識されていたそうだ。


何と言うか、インタビューで語る内容がことごとく自罰的で要約すると、


『金メダルが取れない自分は生きる価値もない』


というニュアンスの発言を繰り返す人物だったらしい。だから世間からは、


『コーチが選手を精神的に追い詰めている』


みたいにも受け取られていたんだとか。



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