黎明編 イカレた狂獣
この時のイザベラの姿は、完全にキャサリンのそれと同じだった。地球人の感覚からすればそれこそ、
<イカレた狂獣>
という印象だろう。<共存>なんてとてもできそうには思えないだろうな。だがこれはあくまでも<一面>でしかない。これが、
<アラニーズという種のすべて>
というわけじゃないんだ。少なくとイザベラもキャサリンも人間に対してはそれを向けないでいてくれるし。もちろんそのこと自体が、
『凶暴さを向ける必要がないから』
って大前提があってのものではありつつ。
地球人は本当に自分にばかり甘いところがあるからちょっと気に入らないってだけで他者に攻撃性を向けたりする。徒党を組んで気に入らない相手を虐げたりもする。それが人間社会においては好ましくない振る舞いだと散々言われているにも拘わらず。
で、そんなことをして問題が大きくなって騒ぎになれば今度はひたすら自己正当化に腐心するんだ。そもそもそんなことをしなければ問題にもならなかったってのに、
『原因を作った方が悪い』
などと言って。心底どこまでも性質が悪い。
『責められる原因を作ったのは自分達である』
という事実と向き合えないんだ。『原因を作った方が悪い』と口にしながらそれを言った当人がそのザマなんだから、本当に『度し難い』よな。
しかし今の時点では俺達の中にイザベラやキャサリンの攻撃性を煽りそうなのはいない。これを維持していきたいと俺自身は思ってるものの、人間が増えてくればそれも難しいだろうなと分かってる。だからこそロボットを極力身近に配しておきたいのもある。そういう衝突の間に入ってもらって取り返しのつかない事態になるのをできる限り回避するために。
が、今は<食うための狩り>であるのと同時に<発散の場>でもあるから、惜しみなく発露してもらって構わない。
と、ガゼル竜の方もこれだけの攻撃を食らってもなおすぐさま立ち上がってきた。きたが、残念ながらそれは<無駄な足搔き>にしかならなかった。
頭を上げた獲物を太陽を背にして恐ろしい形相で見下ろすイザベラ。きっとガゼル竜の目にはそれこそ<怪物>のようにも映っただろう。なのに、
「ゲアアアアアーッッ!!」
砕けた顎から流れ出る血を飛び散らせつつ吠え、さらに飛びかかろうとする。こっちはこっちでもはや怪物じみてるな。
だが、もはや一矢報いるだけの力すら残ってはおらず、イザベラの本体側の両前脚が杭のように打ち込まれるのにも反応できなかったんだ。




