黎明編 イザベラの狩り
とはいえ、
『群れで襲ってくるレオンやオオカミ竜をものともせず襲い掛かってこれまで生き延びてきた』
わけだから、当然のこととして、
<ガゼル竜としては異常な強さを持った個体>
でもある。だからイザベラとしても油断ならない相手のはずだった。なのにイザベラも『そんなこと知るか!』とばかりに一気に間合いを詰める。対してビアンカと随伴していた二機のホビットMk-Ⅱはナイフを構えて万が一に備える。
これは<イザベラの狩り>だから基本的には彼女に任せることにしているからだ。その上で、彼女が危険だとなれば介入も辞さない。
しかし、イザベラはむしろ、
「があああああっっっ!!」
はちきれんばかりに雄叫びを上げてガゼル竜を迎える。大きな口を開けて喰らいついてきたところに左の蹴り。
「ゲヒッッ!」
すさまじい速さのそれに反応できず下顎にもろに食らってガゼル竜の頭が跳ね上げられた。そこにさらに間合いを詰めて今度は横っ面に右の膝。もはやでかいハンマーで殴られるような威力があるはずだった。地球人ならおそらくこれで顎も頭蓋骨も首の骨も砕かれてほぼ即死だろう。なのに、
「ガアッッ!!」
ガゼル竜はそれをものともせず再び喰らいついてきた。生身の地球人じゃもうどうすることもできない力の差を感じさせるそれだ。だがイザベラはそんなことじゃ怯まない。今度は左の拳を横っ面に叩きつけて弾き、さらに間髪入れず右の拳を叩きつけたところに左膝を跳ね上げて、
「ゴシャッッ!!」
という恐ろしい音をさせた。ガゼル竜の下顎が粉砕された音だ。地球人の場合だとそれこそ世界最強の格闘家であってもおそらくのけぞらせるのが精一杯なはずの頑丈なガゼル竜の顎を生身で砕いてみせたんだ。
それでもガゼル竜の方も怯まない。下顎が砕かれて垂れ下がってるってのになおも噛み付こうとしてくる。完全にイカレてるよな。だが、<イカレ具合>ならイザベラも負けてないだろう。アラニーズはヒト蜘蛛と遺伝子的にも大きな違いがない近似種であり、ゆえに本来の気性も非常に近いものがあった。あくまでもその上に<人間としての理性>も備えているだけだ。
だから戦いとなるとそれこそ本性が解放されもはや<怪物>のようになる。
「があああああーっっ!!」
もはや到底人間とは思えない咆哮を上げつつ、今後は<本体側の脚>でガゼル竜の胴を蹴った。瞬間、ガゼル竜の体がまるでトラックにでも撥ねられたかのように吹っ飛ぶ。地球人そっくりな部分の手足はあくまでアラニーズにとっての<触覚>にすぎないから、力の点では本体のそれには及ばないんだよな。




