黎明編 それだけのリスクをはらんだ現象
朋群には<人間(地球人)にとって都合のいいもの>なんてほとんどない。<地球人の遺伝子を引き継いでいる獣人達>でさえ地球人にとっては、
<危険な獣>
と同じだ。パパニアンですら地球人を簡単に縊り殺すことができてしまうし、なによりそうすることを躊躇わない。罪悪感すら覚えない。必要とあらば当たり前のこととして命さえ奪おうとするだろう。おそらく地球人社会で<シリアルキラー>と呼ばれるような異常者がすぐ傍にいるのと変わらないほどのリスクをはらんでいると言えるか。しかもそれを抑制できるような<法>さえここにはない。殺したくなったら殺す必要を感じたらいつだって殺せてしまうんだ。
まあもちろん<殺される側>だってそれを甘んじて受け入れる必要はないから全力で抵抗していいし殺したって構わない。そういう世界だ。
とはいえ何度も言うように<人間>がそれを肯定するのは拙い。俺がそれを実践しようとすれば、エレクシアに命じて大量虐殺でも簡単にできてしまう。時間さえかければこの台地にいる<危険な獣>を全滅させることだってできてしまうだろう。<人間>には、
<そういう力>
があるんだ。そういう力を持ってしまったんだ。この台地の麓に生息する<鵺竜>と名付けた<恐竜に似た巨大な猛獣>ですらそこまでのことはできない。この台地に鵺竜を一匹放ったところで獣人達を全滅させることは無理だろうな。鵺竜が獣人達を殺していく早さをシミュレーションしても、獣人達が繁殖する速度を考えれば鵺竜の寿命が尽きるのが確実に先になるし。
なのに人間にはそれができてしまうんだよ。エレクシア一人だけだと俺が生きてる間には難しいにしても、今じゃ三千を優に超えるホビットMk-Ⅱがあって、ここまでにすでに六割強の地域の一次調査も終えている。そのついでに蹂躙していけばいいだけだったわけで。
『人間が生きる』
というのは<それだけのリスクをはらんだ現象>なんだ。なのに地球人社会において一般にはそのリスクは周知されていなかった。なにしろ、
<自動車を運転するリスク>
すら軽く見られていたし。自動車というのは、
<欠片ほどの悪意がなくても人を容易く殺せる道具>
なんだ。だってそうだろう? ただの過失で自分の家族すら殺すんだ。親や親族が自宅の駐車場に自動車を出し入れしようとしただけで乳幼児が命を落とした事故がどれだけあった? その事故を起こした親や親族に<悪意>はあったのか? なのに死ぬんだ。殺せるんだ。
それほどの道具なんだよ。




