黎明編 それを思えば平和なもの
そういうやり取りについて蒼穹が虚無顔で横目に見てるのが容易に想像できる。サディマに想いを寄せてる蒼穹ではあるものの、サディマ本人がキャサリンに想いを寄せてることについてはあまり関心がないらしい。ルコアに対する想いの点で未来を強くライバル視してる黎明と違ってその辺りはさほど気にしてないようだ。もっともそれ自体、実は蒼穹の想いがまだまだ具体性に乏しいふわふわしたものだからという可能性もあるが。
<恋のライバル>というものがピンとこないのかもしれないな。この辺りは自分の父親である久利生を実母の灯ともう一人の母親であるビアンカが穏当にシェアしてる姿を見て育ったからというのも影響してるんだろう。
もちろんそこは黎明も本来は同じなんだが、<個人差>というものは当然ある。蒼穹よりも黎明の方が<独占欲>が強いのかも。野生の獣人達にも実はそういう個体差はあるんだ。彗がフォルトナを拾って育ててたなんてのはその典型だと言える。特別な育て方をされたわけでもないはずなのに他のアクシーズが普通はしないことをしたんだから。
<生来の気性>というものがあるというのは俺も否定はしない。ただあくまで、
『それを言い訳にして対処を諦めるのは大人としてどうなんだ?』
と思うだけなんだ。が、黎明の件についてはそこまで深刻な話だとは感じないし、それはビアンカや久利生も同意見で、今のところは見守るだけにしてる。これがお互いに傷付け合うようなところまで行くようなら放置はしないだけだ。
『子供同士のトラブルは子供自身に解決させる』
なんて詭弁で自分達の無作為を正当化するつもりもない。こういうぶつかり合いについて対処するノウハウを黎明達はまだ持っていない。今回のこれがそのための経験になるだろうとは思いつつそこで過剰な反応を見せるなら大人として介入しなきゃならないってだけなんだ。
ルコアは言う。
「黎明の気持ちは私も嬉しいよ。私も黎明のことが好き。でもだからって未来と喧嘩してるのを見るのは悲しいかな」
いかにもなだめようとしてるのが分かる物言いではあるにせよ、ルコアもまだまだ若いからなあ。それに正直言って俺だってルコアの立場だったらこんな風にしか言えないかも。
まあ、俺がかつて経験したそれは、黎明と未来のそれよりずっと殺伐した血生臭いものだったが。なにしろ相手は野生の獣人だったわけで。しかも言葉でなだめることもできない相手だったし。
それを思えば平和なものではある。




