黎明編 ノウハウの言語化
「未来っていっつもそう! 自分ばっかりなんでも好き勝手にして! ルコアくらい私に譲ってよ!」
「はあ? 俺がいつ好き勝手してたよ? ってまあ好き勝手してんのはそうか。でも俺は別にルコアを独り占めしたいわけじゃないぞ。ルコアの気持ちも大事だしな。だから俺と一緒にルコアと番えばいいじゃん。ルコアさえよけりゃだけど」
「それが勝手だって言ってんの! 私の気持ちとか考えてないじゃん!」
「ええ……? 意味分かんねえ」
そんな風に言い合いする二人を、
「はは……」
ルコアが困惑顔で見守る。ただ、単に困ってるわけじゃなくて好意を寄せられていること自体については悪からず思っているのは俺にも分かる。あくまでも、
『地球人由来の感覚として二人から同時にというのに戸惑っている』
だけだ。それを、
「未来と黎明にそう言ってもらえるのは嬉しいんです。でも私には難しくて……」
と打ち明けてくれていた。
『私には難しくて』
ルコアのその言葉は、具体的な心情を表してはいないかもしれないが、俺にもなんとなく共感できるものはあった。なにしろ俺もかつて密や刃や伏や鷹に迫られてどうしていいか分からなかった時期があったからな。地球人としては『ハーレムだ♡』と素直に喜べばいいのではという認識もありつつその機会が実際に目の前に来れば戸惑うのも多いだろうし。
その上でルコアはすでに<獣人としてのメンタリティ>も間近で見てきてるから知識としては未来や黎明の様子も理解できないわけじゃないから余計に混乱もするよな。
さりとて<個別の事情>について俺の限られた経験から得られた知識だけでアドバイスするのは稚拙だと思う。俺とルコアは年齢や性別だけじゃなくそもそも育った環境も誰に育てられたかも違う<別の人間>だから<経験値>はそのまま流用できない。ゲームなんかだと経験値を融通し合うシステムなんかもあったりするものの人間はそうはいかないわけで。
加えて経験値ってのは<ただの数値>じゃない。自分自身の感覚とちゃんと結びついてないと使えない。これも<電脳化>によって確認できたことだ。スポーツ選手が電脳化によって他の選手やコーチが持つノウハウをそのまま取り入れる試みも行われたらしいものの結局は、
<取り入れたノウハウを自分のものとして定着させるための練習>
は必要だったことから、最終的に、
『相手に伝えるための言語化能力が高ければ電脳化までは必要ない』
と判明してしまったそうだ。<ノウハウの言語化>はそれ自体にノウハウが積み重ねられてきたわけで。




