黎明編 プロローグ
「だからルコアは私と結婚すんの! 未来には渡さないから!」
「はいはい、分かった分かった。お前も一緒に暮らせばいいよ。でも一番は俺な」
「ムキーッ! バカ兄貴ぃ!」
朝っぱなからそんな声がタブレットから聞こえてきた。また黎明が未来に噛み付いているんだ。
『どっちがルコアのパートナーになるか』
で。
もっとも、ここ朋群ではまだ<法律婚>は存在していないから当事者同士で合意さえ得られれば誰と何人と結婚しようとも咎められることじゃなかった。実際、黎明と未来の父親である久利生は<三人のパートナー>を持っている。一人はすでに鬼籍に入っているので現在は二人ではあるものの<最初のパートナー>である來についても今なおパートナーであった。なにしろ未来の生母でありその命を身近に感じられているのだから。
そして黎明は<二人目のパートナー>であるビアンカとの間に生まれた娘である。
だから自分の親を見習えばルコアが複数のパートナーを持つことを拒む理由はないはずだった。また、<同性婚>についてもそれを禁忌とする価値観は存在しない。すべてはまだまだ手探り状態だからだ。まあ『複数のパートナーを持つ』ことも『同性同士で結婚する』ことも俺個人は別に禁止するつもりもないが。そんなことをとやかく言いだしたら俺自身を否定することにもなりかねないし。加えて、『ロボットを事実上のパートナーとしている』按やキャサリンについても否定しなきゃいけなくなるだろう。それは避けたい。
一方で、俺の子孫はもう<玄孫>まで生まれている。<人間>として暮らしている者達の中ではまだでありつつ野生で暮らしている者達の中には。満年齢では十歳、今年で十一歳になる黎明は俺達の感覚ではまだ成人とは言い切れないにしても黎明の妹であるアラニーズのキャサリンはようやくもうすぐ十歳になるところでありながら一人前に独り立ちしているのと同じで。
だから一律では到底決められないんだ。決められないから取り敢えず今は当人達の納得を重視して個別に決めていくしかない。いずれ人口が増えて個別対応が難しくなっていくかもしれないにしても、可能な限りはそちらを優先したいとも思ってる。
となればこそ黎明がルコアを独り占めしたいという気持ちについても蔑ろにはできないよな。
で、黎明と未来のやり取りをルコアが困った様子で見守っていた。そこに、
「未来! 私と番え!」
イザベラが押し掛けてくる。その後ろには少々呆れ顔の蒼穹もいたのだった。




