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20話

怒らせてしまったと感じて心が痛む。



やっぱり私の気持ちはゲイル様の迷惑なんだわ




そう思うだけで涙が目に集まり始めるのを感じる。それを堪えるように、鼻で大きく息を吸うと無理やり笑った。

「安心してください。私は何があってもゲイル様の不名誉になるようなことは漏らしません。だから早く次はゲイル様につりあう優しい奥様を迎えて、噂も払拭してくださいね」

「私はまだ離婚していない。私の妻となることが不満かと聞いている」

「でも」

「でもじゃない。質問に答えろ」

「それは・・・とても、とても幸せな夢だと思います」





また大きくため息をつかせてしまった。やっぱり迷惑なのだ。

「本当はこの結婚より前から、あの家の借金と金遣いの荒さについてはずっと話題になっていた。シェラザードが駆け落ちなんて馬鹿な真似をして、結婚が延びた時徹底的にあの家について調べた。そこで分かったことは横領の可能性。でも証拠の一部を握っているであろうクリフがすでに駆け落ちしていて、なかなか証拠がつかめずどうしようかと思っているところに、急な結婚式。調べたらすぐにあの女が金を使って君をさらったことは分かったよ。でもそれと同時に、本当にあの家が見栄とプライドの針の上で揺れているぐらい限界であることもわかった。あの女は借金を踏み倒して逃亡する計画を立てていたんだ。このまま結婚しなければ逃げられる。その時すぐでは証拠が不十分で国は動いてくれない」

彼の表情に苦悩が混じる。国のためにそこまで考え抜く彼に、尊敬の念と少しの嫉妬が湧く。そこまで思われるこの国が少しねたましい。





「だから俺は結婚することにした。後に不正を暴き神聖なる結婚に偽者を仕立て上げたことが分かれば婚姻契約の抹消を申し立てることができるとふんだからだ」




「ではこれからシェラザードとの婚姻を破棄されるということですか?」

「いや、私は不正を暴いた報酬として、婚姻契約書の偽装を依頼した」

「え?」

「シェラザードではなく、シェーラと結婚したことにした」

驚愕に目を見開いた。

「なぜ・・・」

そういうので精一杯だった。

「あの家の口利きで、遠縁の娘ということになっている」

「答えになっていません!」

強く彼の目を見れば、一瞬辛そうに歪められたと思うと次の瞬間体に強い圧力がかかる。

抱きしめられたせいで、もう彼の表情がわからない。



「お前を手放したくなかった。ただそれだけだ。理由にもなってない。でもお前はこの結婚が白紙になったと、抹消を申し立てたと知れば絶対に俺の前からいなくなると思った」

「当たり前じゃないですか。私は・・・貴方とつりあうような身分にない」

「身分がいったいなんだというんだ!!平民や貧民は好きあった相手と結婚する。貴族だって下級になれば平民との結婚だって許される!!なのに、なぜ俺が不幸にも親と引き離されて孤児院で育ったというだけのシェーラとの結婚が許されない?!」

初めて聞いた怒りに満ちた声。自分には何も言うことができない。

「ゲイル様」



我慢なんてできなかった。さっき堪えたはずの涙がぽろぽろと頬を伝ってゲイルの肩に落ちる。



「お母様やおばあ様がお許しになるはずがありません」

「初めから、シェラザードとの婚姻の時から全ての事実を二人は知っていたし、シェーラとの結婚にも賛成してくれている」

「うそ・・・」

「嘘なものか、もとよりあの二人は貴族とか平民とかって位わけすることそのものが無意味だと日頃から言っている、反対派なんだ。だからシェーラの話を聞いたときから、ずっと何か力になりたいと言っていた。俺が婚姻契約書偽装の件を話した時もシェーラが嫌がるなら結婚反対派にまわる、と。シェーラの気持ちをないがしろにすることだけは許さないと言われたよ」




ここまで聞いて二人の態度が腑に落ちた。あんな家からのごり押しで嫁いできた私に対しての優しい態度。時折ふっと悲しげな笑みを浮かべられていることが気になって仕方なかった。私があの家からきたせいかと思っていたけど、違ったのだ。あの家じゃない。私の身の上を全て知っていたからこそ、私にあれほどの優しさをくれた。




「あとはシェーラの気持ち一つだ。シェーラが俺を嫌いでどうしようもないなら、諦めるよ。でも、好きじゃなくてもいい。可能性があるなら俺の横で俺と一緒に生きてみないか?」



そこでようやく腕を緩め、私の顔を覗き込むようにして目を見つめる彼と目が合う。その瞳に嘘は全く見られない。



私が本当のゲイル様の妻になれる?




貧民の私が?




「やっぱり俺に可能性はないか」

呆然と固まっていた私にそういうなり彼は立ち上がり背を向ける。行ってしまう?と思った時、今までのどの奥で縮こまっていたように発することのできなかった言葉がするりと漏れた。




「好きです。ゲイル様が好きなんです」

「そうか」

私の発言を聞くなりあっさりと振り向いた彼の笑顔にようやく気付いた。騙されたと。




「なかなか言わないからどうやって言わせようかと思った」

「き、汚いです!!ゲイル様!!そんな騙すようなマネ」

「さっさと本音を言わないシェーラが悪い」

「そんな、だって」

「案外シェーラは一番位に囚われているんだろうな。貴族は位によって優遇されることはあっても、冷遇されることはない。結局辛い目を見るのは下にしかれた者たちばかりだ。でも、シェーラ。俺の隣りでこの国の行く末を見てほしい」

「行く末?」

「あぁ、ここだけの話だが、今の王子の思い人は位で言えば平民なんだ」

「王子様がですか?!」

それがとんでもない事態だということはシェーラでも分かる。王家との婚姻といえば自国の貴族、もしくは他国の王家と相場は決まっている。

「こういうとあの人怒るんだけどな」

「そういう問題ではないかと・・・。」

怒るって・・・となんだか見たこともない王子様の発言に頭痛を覚える。

「俺もそう思う。ああ、それとまだ伏せていることだから他言無用だ。でも王子はなんとしても彼女を妃にする気でいる、側室ではなく妃に。彼女が逃げられないようにウキウキとがんじがらめに網を張っている真っ最中だ。でもこの結婚が上手く行けば、位による差別をなくしていけるんじゃないかと俺は考えている。それと孤児院のような親の庇護が得られなかった子どもたちを犯罪者に与えられるような最下層と近い貧民の位に置くというのもおかしいと、位を平民に変えるべきだっていう動きもある。これからこの国はきっと変わる。俺も変えるために動く、もっと国民が生きやすい世の中になるように。だから俺の横でそれを見ていてほしい」

いきなり伝えられた、いわば雲の上の出来事に目を白黒させるばかりだが、もし本当にそれが実現されるとしたら、どれほど生きやすくなるだろう。



そう考えると、自分が孤児院を出る頃まだ小さかった子どもたちを思い出す。あの子達が大きくなる頃少しでも変わっていればいいと思う。




なんてまじめに考えていたら気付けば彼は、未だにベッドからでることもできない私の横に座ったかと思えば、自分の膝の上に私の頭が乗るようにころりと引き倒された。

「ゲイル様?」

「まだ体が辛いだろう?今はこれで、あの日の約束は我慢してやる」

そう偉そうにいいながらやっていることは、自分に膝枕をしながら優しく髪を撫でている。




されていることはもちろんだが、あの日の約束という言葉に一気に血が上る。


「あれは・・・」

「あの日の約束を叶えてもらう日を楽しみにしているからな」

「ゲイル様!!」

そんな私の声に笑うだけで答えてくれないゲイル様は楽しそうな様子で髪を撫でている。




あんまり嬉しそうにしているものだからついついされるがままにしていたら、疲労もあったのだろう気付けばぐっすりと気持ちの良い眠気に包まれて眠ってしまった。




「おい・・・・」







「シェーラ・・・」







「・・・この状態で寝るとかどんな拷問だよ。」




結局ゲイルがシェーラの枕の役目から開放されたのは、寝てしまったシェーラが起きて自分に膝を貸したまま寝ているゲイルに気付く3時間後のことだった。





本当に約束が叶えられるのはそう遠くない未来・・・



                                       Fin


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