すれ違い
“カラカラ”
控えめに開けられた扉の音に振り向いた香奈の目に入ってきたのは貴久だった。
久しぶりだな、元気してたか?常連の声に答えた貴久は空いたテーブルにつく。
「ひさしぶりですね。」
「ちょっと仕事が忙しくてね。あ、ゲソ焼きと瓶ビールね。」
いつもと変わらないゲソ焼きが貴久の目の前に置かれる。
「篤、こないだ暴れてた奴は来てない?」
「いえ、来てません。」
「よかった。アイツ、昔から気に入らない奴は潰そうとするような人間だから。」
貴久の言葉を聞き終えた香奈は梨沙から預かった封筒を差し出した。
「これは?」
「あの篤って人と一緒に来た女の人が一人で来たんです。貴久さんに渡してって。」
言った香奈は目を伏せた。
「どうしたの?」
「イヤなら答えなくていいんですけど、あの二人は。」
「篤は高校の同級生で梨沙は。」
貴久はビールを一口飲んだ。
「元カノなんだ。」
「そうなんですね。貴久さんと別れてあんなのとくっつくなんて、バカな人ですね。」
それを聞いた貴久は一瞬肩を震わせると、乱暴に千円札をテーブルに置いた。
「ごちそうさま。」
「え、まだビール残ってますけど?」
香奈の声が聞こえないように貴久は店を出ていった。香奈は慌てて貴久を追いかけた。
「待って、貴久さん!」
香奈の声にも貴久は立ち止まらない。
「どうしたんですか?なんで怒ってるんですか?」
追いすがるように香奈は貴久の腕をつかんだ。
「香奈ちゃん。」
足を止めた貴久は振り返ることなく話し出す。
「梨沙のこと、バカなんて言ってほしくなかった…何にも知らないのに。」
震える貴久の腕は怒りを香奈に伝えていた。
「ごめんなさい。そんなつもりじゃ…」
香奈の手が貴久の腕から滑り落ちた。香奈は歩き出した貴久を見送ることしか出来なかった。




