波立つ心
香奈が受け取っていいものか迷ったその時
「おい、姉ちゃん。」
買い出しから戻ってきた香奈の父親が梨沙に声をかけた。
「それ、しまいな。アンタが暴れたわけじゃねえのに、アンタからもらうわけにゃいかねえよ。」
ぶっきらぼうだが、強い意志を込めた声に梨沙は戸惑ったような顔を見せる。
「でも、それじゃ私の気持ちが…そうだ!レモンサワーと…北條さんが一番好きなものをください。」
「香奈、ゲソ焼き出来るか?」
「うん。」
香奈はカセットコンロに火をつけ、ゲソ焼きを作りながら梨沙の横顔を見ていた。
篤と言ったか、あのチャラい男とは不釣り合いな素朴な雰囲気。恋人のように見えたけど、ものすごく無理をしてるように見えた。それに北條さんを“貴久くん”って呼んだ…。
「お待たせしました。レモンサワーとゲソ焼きです。」
梨沙はレモンサワーを一口飲むとゲソ焼きを一つ食べた。それからしばらくだまりこんだ梨沙の目から涙が一筋流れた。
「美味しい…貴久くんの好きな味だ。」
“貴久くん”その呼び方に香奈はまた胸をかき乱される。
「ごちそうさまでした。北條さんによろしくお伝えください。」
梨沙は頭を下げると店を出ていった。その後ろ姿を見ていた香奈は意を決したように店を出ると梨沙を追いかけた。
「待って!」
「あ、あの何かお気に障ることでも。」
「違うんです。その…貴久さん、いえ北條さんとはどういうご関係なんでしょうか?」
香奈は早口で聞いた。梨沙は香奈を見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「北條さんとは…昔つきあ、いえ大変お世話になったんです。失礼します。」
梨沙は逃げるように早足で歩いていった。




