訪問者
「香奈ちゃん、冷奴もらえる?」
「俺は薩摩揚げ!」
「はぁい、ちょっと待ってね。」
注文を捌きながら香奈は角打ちの入り口にチラリと目をやる。
(貴久さん、最近来ないなぁ…)
篤が貴久に絡んだ日から2週間、週に一度は顔を出していた貴久の姿は角打ちから消えた。
(仕事忙しいのかな?身体壊したりしてないかな?)
「香奈ちゃん、どうした?北條くんが来ないから心配か?」
「そんなんじゃないですよ。空いたグラス下げましょうか?」
香奈は気持ちを悟られまいといつものように振る舞った。
翌日、開店に備えて香奈が店の掃除をしていると店の扉が開く音がした。
「あ…」
振り向いた香奈の目に飛び込んできたのは2週間前に店を騒がせた男と一緒にいた梨沙だった。あの日とは違い、髪を一つに束ねて黒のTシャツとデニムを着た梨沙は別人のようだった。
「何か御用ですか?」
刺々しい言葉が香奈の口から出た。
「すみません、突然。あの…貴久くん、いえ北條さんは最近来られてますか?」
梨沙はおどおどと話した。
「貴久くん!?あ、えっと北條さんは最近来られてません。」
動揺を隠すように香奈は言った。
「そうですか…あの、勝手なお願いで申し訳ないんですが、北條さんが来られたらこれを渡してもらえませんか?」
梨沙は小さな封筒を差し出した。
「それと…」
続けて茶封筒を取り出した。
「こないだは連れがご迷惑をおかけしてすみませんでした。これ、受け取ってください。」




